1
教師
教師
教師
教師
伊波 翼
面倒臭い。
教師ってのはとにかく面倒臭い。
今日は早く帰れる筈だったのに、 放課後こいつに呼び出されたせいで 台無しだ。
教師
教師
教師
教師
俺は拳で担任の脳天を突き破った。
血飛沫を上げ、担任の頭部だったものはバラバラに砕け散る。
誰がどう見ても手遅れだ、と 思うだろうが
次の瞬間、それらは合体し、担任の 頭の形へと再生していった。
担任は先程のことなど何も無かったかのように、また俺の説教を始めた。
…特殊能力、だ。
担任が「死んでも生き返る」能力を 持っているとかではない。
俺は「自分が殺した人物を生き返らせることが出来る」という 特殊能力を持っていた。
ただし、この能力は自動で 発動されるので
俺に生き返らせるか生き返らせないかの決定権はない。
俺に殺された人物は、殺された時の 記憶だけ無くし問答無用で生き返る。
この能力のおかげで、俺は頭に 血が昇っても
今まで犯罪者にならずに済んでいる。
…まぁ、いいことばかりでは なかったが。
2
担任の長い説教が終わり、誰もいない 教室に戻ると
後ろから尖った声を投げかけられた。
浅霧 千陽
浅霧 千陽
振り返ると、クラスの中心人物的な 存在の女子、浅霧千陽が
俺を睨みつけながら立っていた。
伊波 翼
浅霧 千陽
浅霧 千陽
ぐちぐちとうざったい。 謝ったからいいじゃないか、 このツインテール女。
浅霧 千陽
浅霧は言わなくてもいいことまで 口にし始める。
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
知らぬ間に、手が出ていた。
俺に勢いよく殴り飛ばされた浅霧は、 教室の壁に頭を打ちつけ倒れ込んだ。
伊波 翼
脳震盪を起こし、多分 死んでいるだろう。
倒れ込んだ浅霧からふと目を逸らし、 また視線を戻すと
浅霧はもう俺の目の前に立っていて、 またぐちぐちと罵倒し始めていた。
また殺しても、同じことを 繰り返すだけなので
今回は浅霧の罵倒を、彼女の気が 済むまで聞いてやることにする。
全ての悪口を言い終えたのか、浅霧は 俺が取り出した真っ白なノートを 奪い取り教室を出て行った。
俺も鞄を背負い、教室をあとにする。
…俺が自分の能力を知る事に なったのは
四年前、小学六年生のある夏の日の ことだ。
3
俺たちの両親は暴力を振るう人だった
俺には妹がいて
俺と妹と両親の四人暮らしだった。
俺と妹は、毎日殺しに近い目に 遭わされていたが
〝その日〟はいつもと違った。
その日は特別機嫌が悪かったらしく
俺と妹は朝から晩まで攻められていた
…いつも通り、地獄が終わるまで 耐えるはずだった。
ある、イレギュラーが起こったのだ。
今まで起こらなかったことが不思議な くらい、それは自然なことだったが。
父がいつものように妹を 蹴り飛ばしたとき
妹は壁に頭を打ちつけ、意識を失った
俺はあり得ないとでも言うように
目を大きく見開き、ぐったりとした 妹の姿を見ていた。
妹はそれきり動くことはなかった。
俺は今まで感じたことのない怒りと 恐怖につつまれた。
このままだと、自分がやられる。
そう感じた俺は、キッチンにあった 包丁を取り出し
母親と父親の腹を深く刺した。
面白いことに、あれだけ毎日俺たちに暴力を振るっていた両親は
自分たちが殺される側になった瞬間
なす術もなく青ざめた顔で、 命乞いをしてくるのだ。
俺は動かなくなった両親だったモノを 見て、にやりと笑んだ。
しかしその後、俺は絶望する ことになる。
ありえないことに、殺したはずの両親の傷がだんだん塞がっていくのだ。
終いには、何ごともなかったかの ように立ち上がり
俺を再び殴り出した。
幸い、近所の通報により駆けつけた 警察によって両親は取り押さえられ
俺の命は救われたが
俺はまだ、この時のことを後悔 している。
こんな能力さえなければ、両親を 殺すことが出来た。
あいつらが刑務所で人生を終えるとしても、こっちは腹の虫がおさまらない
散々人生を掻き乱しておいて、今も 無駄な息をし吐き続けているだなんて 許せない。
何故あいつらが生きて、妹が死ななければならなかったのか。
願う事ならこの手で、あいつらを 殺してやりたかった。
4
下校途中、見覚えのあるツインテール の後ろ姿を発見した。
そいつは草むらの中に手を突っ込み
何やら探している様子だった。
面倒臭そうな予感がして、俺は知らぬ振りして通り過ぎようとしたが
足音に気付き振り返ったそいつと ばっちり目があってしまった。
浅霧 千陽
相変わらずそのフルネーム呼びは 何とかならないものか。
苦虫を噛み潰したような顔で 浅霧を見ると
泣きそうな顔をしていたので 俺はギョッとする。
伊波 翼
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
それだけ言って、浅霧はまた草むら の中を探しだした。
伊波 翼
伊波 翼
伊波 翼
今すぐにでも気まずいこの場を 離れたい。
……かといって
ここで立ち去り、またこいつに 嫌味ったらしく絡まれるのも 得策ではない。
俺はハア、と深く溜息を吐いてから 浅霧の隣に膝をついた。
伊波 翼
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
伊波 翼
伊波 翼
伊波 翼
伊波 翼
浅霧は下を向き、鈴を探す手を 動かしたまま
「鈴は金色で、紐は赤色」と 小さく言った。
どれくらい探していただろう。
青かった空は、今やオレンジと ピンクのグラデーションを描き
幻想的な景色を作り上げていた。
かといって、探している間の会話で 険悪だった俺たちの仲が深まった、 なんてことは一切なく
鈴の色を聞いたあの会話以来、俺たち は一言も言葉を交わしていない。
たまに視線が合って、お互いにふいと 顔を背けたくらいだ。
詳しい時刻は分からなかったが、 鈴を探し始めてから一時間は悠に 越していたと思う。
制服の汚れも忘れて草むらの中を 探し回っていた時
土やら草やらで薄汚れた俺の手に 何かが当たった。
丸みを帯びたそれは、転がったあと チリン、と音を立てた。
伊波 翼
伊波 翼
伊波 翼
伊波 翼
興奮しすぎて語彙が小学生以下に なったことは気にしない。
向こうの方を探していた浅霧は 勢いよく振り返り、ダッシュで 俺の元に駆け寄った。
浅霧 千陽
浅霧 千陽
俺の手から鈴を奪い取り、浅霧は 心底安心した顔でそれを 抱きしめた。
まず俺に礼を言えよ、とイラッと したが
浅霧の表情があまりにも嬉しそう だったため
優しい俺に免じて許してやる ことにした。
…というのは建前で、本当は手が 出そうだったところを
車通りの多い道路の近くで 誰に見られるか分からなかったため 我慢して抑えた。
鈴を見つけたあと、
何故か成り行きで、二人並んで歩道を 歩く形になってしまい うんざりしていると
浅霧がぽつりと語り始めた。
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧は空を見上げた後そう零した。
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧 千陽
浅霧は、普通ならば一生俺に向ける ことのなかったであろう 満面の笑みでそう言った。
浅霧 千陽
こいつは今笑顔を向けている奴に 殺されたことがあるだなんて、 知るよしもない。
…でもまあ、
伊波 翼
感謝の言葉くらいは素直に受け取って おこう。
俺は両親を一度は殺したあの日から
命の重さを軽く考えていたのかも しれない。
妹を手にかけた、あいつらのような 人間には絶対になりたくない、と
そう思っていたはずなのに
自分はむしろあいつらに近づいていく 道を歩んでいたのだと思う。
浅霧は俺の返事に、少し照れ臭そうにして笑った。
俺がこれからあの能力を使うことは ないだろう
…そんな気がした。
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