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Day001-0700

2325年4月10日

軍本部 ヘリポート

叶芽

もう私たちだけだね

そうだね

…さぁ、おれたちも記憶が消えないうちにやろう

叶芽

うん

 私は制服のポケットからナイフを取り出す。

叶芽。しっかり刺してね

叶芽

翼くんこそ、私の心臓を外さないでね

もちろん

 私たちは向かい合わせになり、互いが互いの心臓を、ナイフでひと突きにした。

 そうして一瞬の痛みが訪れて、その場に倒れ込んだ。

またね

 体が崩れゆく中、最後に彼がそう云った気がした。

 私たちはこれから死ぬ。

 けど終わりではない。

 むしろ始まりだ。

 この世界では死ぬけれど、ここでの想いは死なない。

 私たちの戦いは、目覚めた先が本番なのだから。

◆◇◆

???

駄目だ!もう間に合わない!

一か八かだ、書き換える!

ここまでだ、あとはあちらに任せよう。

あちら側の、情報を受け取った"12人"の中の、誰かに…!

かなめ

!!

らん

かなめ?

里美

どうかした?

かなめ

…何か……、大切なことを忘れてる気がして…

静菜

静菜

あ、もう奴がそこまで迫ってるわよ!

里美

急ごう…!

かなめ

…うん、そうだね…!

『ーーーー〜〜…ーー!』

らん

A…いやSかな?電気系の遠距離中型!

里美

それじゃあいつものパターンでいいかな

かなめ

私が陽動に出る

かなめ

静菜は4時の方向から援護射撃を

静菜

了解っ

らん

ってことは、うちはかなめのアシストだね

らん

里美、背中は任せたよ!

里美

はーい

かなめ

じゃ、やろう

 敵が手を振り上げたと同時に4人は離散し、彼女たちの中の「いつもの」フォーメーションをとった。

かなめ

ふっ!

 ショートカットの少女・天野(あまの)かなめは自分の武器を足場に変形させ、そのうちの一つをおさげ髪の少女に貸す。

らん

えいッ

 桃色のカーディガンを着たおさげ髪の少女・蘭(あららぎ)らんは、服と同色に光る「おおがま」を振り回し、敵の片腕を切断した。

『バチバチバチッ』

 その断面から青白い電気が流れ、自己修復能力がある敵は腕を直そうとする。

静菜

させるものか!

 長く美しい髪を靡かせながら、星空静菜(ほしぞらしずな)が銃を撃つ。

 銃口から放たれた空色に光る弾は敵の足に命中した。

 二箇所も破壊された敵は立っていることができず、片膝をついた。

里美

っ!

 小柄な少女・星名里美(ほしなさとみ)はその隙を逃さず、敵の背中に矢を射り、遠隔で爆発させた。

 そのはずみで敵の外殻が剥がれ、奴を「初期化」する鍵穴があらわになった。

里美

かなめ、今だよ!

 かなめは足場を駆使し、敵の背後をとる。

 そしてレッグホルスターに差し込んであるカードキーのうち、「S」と書かれたものを取り出して、奴の鍵穴に刺した。

かなめ

…初期化完了

 敵は、完全に沈黙した。

一般人A

や、やっつけたぞ!

一般人B

再起軍の方々がAIを倒したぞー!!

 物陰から声がする。

 密かに戦いを見ていた一般人たちだった。

一般人C

ありがと〜う!

一般人D

かっこいいよー!

かなめ

…手、振った方がいいかな

らん

そのほうが捜査官っぽいよ

かなめ

じゃあ、一応

 こういう時どうすれば良いのか、かなめは悩む。

 一般人から見たそれは、強く、美しく映っても、かなめにとってはただの仕事。

 そして復讐なのだ。

◆◇◆

 朝7時。

 「初期化」を完了させた少女たちは、自分たちの本部まで歩いて戻っていた。

らん

ふ〜!朝から働きましたな〜

里美

うん、お腹すいたね

かなめ

早く食堂行こ

静菜

らん、さっきの戦い、「おおがま」を振りすぎだわ

静菜

あれじゃあ脇腹がガラ空きよ

らん

え〜?そおだった?

らん

それ云ったら静菜だって銃乱射しすぎだよ!

らん

かなめに当たるところだった

静菜

あたしたちの扱う対AI武器は人体には無害でしょ?

かなめ

また始まった…

 かなめは苦笑する。

 らんと静菜の喧嘩は日常茶飯事だ。

里美

二人とも、朝から騒ぐと周りの迷惑に、

らん

静菜はムキになりすぎだよ!

らん

いいじゃん倒せたんだしっ

静菜

そういうことを云っているんじゃないの!

里美

…二人とも

かなめ

あっ

 里美の声色が地を這うような低さになった。

らん

さ、里美…

静菜

…っ、

 その豹変ぶりに今の今まで口論していた二人は黙り込む。

 静菜はこの4人の中で一番上背があるが、背中を丸めて叱られた犬のように縮こまっている。

 2番目に背の高いかなめの方が大きく見えてしまうほどだ。

里美

それ以上仲悪くするなら…怒るよ?

 里美はにっこり笑って云う。

 お面のような、作られた笑みだ。

 彼女は怒ると誰よりも怖い。

らん

わ、判ったから…!

静菜

もう云い争いはしないっ

里美

うん、よかった!

里美

さ、食堂行こう

 仲直り(この場合そう呼んでよいのか判らないが)すれば里美の機嫌はすこぶる良くなり、いつものようなおっとりした彼女に戻る。

 これもまた、よくあることだ。

◆◇◆

 時は24世紀。

 AIが人を襲う時代となった。

 明確な理由は判らない。

 いつからかAIが「暴走」し、人を殺し始めたのだ。

 その状態を打開するべく作られた組織が、かなめたちが所属するここ、再起軍。

 なぜ人がAIを襲うに至ったかを調査し、研究を行う研究課。

 人工知能による乗っ取りを防ぎ、監視するサイバー課。

 街や軍本部を巡回し警備にあたる警備課。

 そして有事の際に前線に立ち、「暴走」するAIロボットを「初期化」して鎮める捜査課。

 軍はこの4つの部署で成り立っている。

 加えてかなめたちは捜査課の実行班という、最も危険で、最も重宝される班に属している。

らん

今日の授業ってなんだっけ

かなめ

午前は情報学と数学、論表のあとに古語…午後は体育館で実技演習だね

静菜

らん…把握してないの?

らん

だって〜、高1になったばっかりだし

らん

中学の頃とは勝手が違うでしょ?

 食堂のテーブル席について、朝食をとりながら話す4人。

 彼女たちは最前線に立つ捜査官であると同時に、軍の専門高校に通う学生なのだ。

里美

まぁ、附中にいた時より本格的に就職を考えるだろうし、忙しいよね

 附中、とは高専の附属中学校のことである。

かなめ

私たちはもう働いてるけどね

らん

優秀だもん、うちら

静菜

ふふ、自分で云っちゃうの?

 らんが誇らしげに云うが実はその通りで、高専生の全員が軍に所属しているわけではない。

 だが人手不足の軍では、優秀な人材はどんな者でも使うべきだと考えられているため、彼女たちは実行班に引き抜かれたのである。

里美

まぁ、学生が前線に駆り出されるほど切羽詰まった状況ってことだよね

らん

この100年で大変なことになってるよね〜

らん

21世紀あたりが羨ましいよ

かなめ

100年、か…

かなめ

(たった100年で、どうしてこんなことになっちゃったんだろう…)

かなめ

……ん?

??

あれはオレのが速かっただろ!

倒したのおれだけど

??

お前が横取りしてきたんじゃないかっ

だったら取られないようにすればよかっただろ

??

な…っ!

 かなめたちの目線の先には二人の少年。

 口喧嘩をしている。

らん

あーらら、またやってるよ

静菜

疲れないのかしら、あの二人

 くすくす笑うらんと静菜。

 かなめは(二人がそれを云うの?)と思ったが口には出さなかった。

 そして笑い声を聞いて、二人の少年の近くにいた高身長の男子が4人に気づき、近づいた。

伊吹

やぁ、おはよう

里美

おはよう伊吹

里美

あの二人、また揉めてるの?

伊吹

まぁね。けどいつものことさ

 彼の名は高宮伊吹(たかみやいぶき)。

 かなめたちのクラスメイトで、同じく実行班に選抜された優等生である。

伊吹

今日も朝から仕事だったの?

里美

うん、緊急の討伐でね

里美

でもすぐに終わったよ

伊吹

さすが選抜生

かなめ

高宮くんもでしょ

伊吹

あはは、俺はみんなほど優秀じゃないよ

伊吹

…あれ?天野、その傷どうしたの?

かなめ

え?

 ほらここ、と伊吹は自分の頬を指差し、かなめに自身のそれを確認する促す。

 そうして右頬をさわると、紙で指先を切った時のような痛みを覚える。

かなめ

あー…さっきの戦いで切っちゃったのかも

かなめ

相手、電気系だったから

らん

医務室いく?

かなめ

ううん、大丈夫

かなめ

これくらい平気…

行こう

 かなめの言葉を誰かが遮る。

 食堂の奥からは「おい翼、まだ話は終わってねーぞ!」と怒る声。

かなめ

翼くん、

 ついさっきまで、向こうで口論をしていた少年の1人だ。

 白髪の彼は、ぽかん、とするかなめの手を引いて軍の医務室まで向かおうとする。

かなめ

大丈夫だよ、こんなかすり傷で行かなくても、

顔に傷を残してほしくない

かなめ

あ…

 その言葉の返事に迷ったかなめに有無を云わせず、翼は食堂を後にした。

里美

ふふ、翼くんも相変わらずだね

らん

かなめのこと大好きなんだから

静菜

全く朝からお熱いことで

 まるで古の少女漫画を読むように微笑む3人。

伊吹

置いてけぼりにされたな、海李

 伊吹は、口喧嘩をしていたもう1人の少年に声をかけた。

海李

あんのマイペース野郎…っ

伊吹

いつものことだろ

海李

もう少しどうにかしてくれよ、伊吹

海李

あいつのルームメイトだろ!

 少年は柊海李(ひいらぎかいり)。

 伊吹らと同じく選抜生だ。

 先ほどの少年、巫翼(かんなぎつばさ)も選抜生。

 こうしてよく口論になるが、仲が悪いというわけでもない。

関係性に名前をつけるなら、「ライバル」といったところだ。

らん

その様子だと、柊くんたちも仕事帰りみたいだね?

海李

ああ、それで翼が作戦を無視して突っ走るから…!

静菜

手柄を横取りされちゃったのね

伊吹

はは、討伐はできたんだけどね

伊吹

海李としては納得していないみたいなんだ

海李

当たり前だろっ!こうなったらやけ食いだ!

 海李は朝食をおかわりしにカウンターまで駆ける。

らん

あはは、元気元気

里美

いつものことだね〜

 この7人が、高専1年生の選抜メンバーだ。

◆◇◆

優美

はい、これでおしまい

かなめ

ありがとうございました、粧先輩

優美

いいえ〜

 医務室に来たかなめは、偶然そこにいた高専の先輩である、2年の粧優美(よそいゆうみ)に手当てをしてもらった。

粧さんはどうしてここに?

優美

狙撃の練習をしてたら手を痛めてしまって、湿布を取りに

かなめ

確か先輩の武器は光銃でしたね

 光銃(こうじゅう)、別名・LIGHT PISTOL。

 「暴走」するAIを討伐するときに実行班が使う武器の一種だ。

 名前の通り、光る弾丸を生成し、放つ銃。

優美

そうだよ

優美

貴方たちなら知ってるだろうけど、光銃は中距離型の武器

優美

前に出たり後ろから援護したり、時と場合によって動きが変わってくる

優美

だから臨機応変に対応できるよう、自主トレしてたの

優美

二人は仕事帰り?

はい

優美

巫くんは急所弓で、天野ちゃんはEXPERT CUBEだっけ

優美

どっちも扱いが難しいって聞くのに、すごいね

 急所弓(別名・DEAD ARCHERY)、EXPERT CUBE。

 どちらも対AI武器だ。

 人体に害はなく、AIのみに有効な高エネルギーが込められている。

 そして両方ともコントロールの難しく、使っている人は少ない。

 EXPERT CUBEに至っては、現時点で使用しているのはかなめのみである。

かなめ

ご存知かとは思いますが、私の武器は使用者のDNAを取り込む必要があります

かなめ

キューブとの相性が悪かったら起動すらできません

かなめ

動かせた後も、分割させたキューブの一部をどう動かすのか、しっかりイメージしなくちゃいけない

かなめ

けど、慣れたらすごく万能な武器なんですよ

別名、チートボックスって呼ばれる所以だね

優美

今期の高専1年は優秀だって云われてるのも君たちのおかげだよ、きっと

優美

附中3年の陽ちゃんと凪ちゃんも期待されてるし

かなめ

いえ、私は…ただ目的のために戦っているだけなので

 先輩のその言葉にだけ、かなめは伏せ目がちになり、翼はそれを見逃さなかった。

(これは肯定も否定もできないな)

 優美も悲しげに口を結んだ。

 二人は…実行班のみんなは、知っている。

 かなめが兄の仇を討とうと必死になっていることを。

 そのためなら彼女はどんなに危険な戦いにも臆することなく飛び込んでいくことを。

To be continued

 初回なのでご挨拶させていただきます。 空瑠璃です! 初めてSF系のお話を書いてみました。 タイトルに『第一章』とあるように、ちょっと一つじゃ収まりきらないくらい長くなる予定です。 ああでもないこうでもないと悩みながら練った設定で、最後にはとんでもないどんでん返しを用意しているので、楽しみに待っていただけると嬉しいです! メインキャラの設定などもTwitterで紹介しているので、気になったら見てみてくださいな。 それでは、AIvs人間、始まります! よろしくお願いします!!

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