雪華月夜に見た光彩色の花

姉さんはとてもお淑やかで、静かに道端に綺麗に咲いている花のようだった。

それでいて人想いで、誰にでも優しく、妹想いだった。

あの日だって───

吸血姫と戦えずにいた椿を助けていた。

姉さんは優しかった。

…優しすぎた。

優しすぎたから、こんなことになったんだ。

血を吸った桜が赤く染まっていく。

その時、私はどうしても考えてしまった。

…ああ、この鬼は…この鬼に、私は…。

ダメ、考えてはいけないわ

勝てる、勝てる

蘭奈を置いて逝くわけにはいかないじゃない

私がみんなを導いてあげないと

氷翠、莉佳、椿…

まだ蘭奈は十六歳よ、重い責任を負わせてはいけない

橙色の花が紫苑に突き刺さる。

桃色の花が突き刺さる。

息がうまくできない。

桜の花が強く叩きつける。

凍った花びらが紫苑の体を凍らせていく。

その鬼が指を弾くと氷が割れ、紫苑の体から血飛沫が飛び散った。

ザクッ

胸元から血の花が咲く。

その日から夜桜蘭奈は、夜桜蘭奈ではなくなった