地下牢の中
主
ラト!!
ラト
っ!!
わたしはラトの頬を手で包んだ。
驚いたラトの瞳に、わたしが映った。
ラト
あ…あ…
ラト
あるじ…さま…?
主
((目が、あった…!
主
やっと
主
やっと、こっち見てくれた
ラト
あ…るじさま…
ラト
わたし…は、なに…を…
ラトが不安げに瞳を揺らし
わたしの手に視線を止めた。
ラト
あ、あ…
ラト
あるじさま、お手を…
ラト
わ、わたしが…
ラト
あるじさまを傷つけて、しまったのですか…?
ラトに振り払われた手の引っ掻き傷から血が滲んでいた。
主
あ、
主
これは…
ラト
わたしは…なんてことを!!
ラト
…ああ…!!!
ラトがぽろぽろとまた涙を流す。
わたしが
彼を傷つけてしまった。
主
…………
でも、覚悟の上だった。
ラトが戻ってくるなら、わたしは…。
主
…うん
主
痛かった。ちょっと
ラト
ごめん…なさい
ラト
ごめんなさい…。主さま…
わたしはラトの涙を指で拭う。
精一杯の優しさを込めて、彼に触れる。
主
だから、
主
傷が痛くなくなるまで、ラトに看病してもらうから!
ラト
え…?
主
そのあいだに、たくさんお話しよう
拭っても拭っても、 ラトの瞳から涙が止まらない。
主
この前読んでくれた本の続きも気になるし
主
あ、あと音楽とか、ダンスの話も聞きたい。あと、ラトの好きなものも知りたい。
主
あ、パセリ以外ね
ラト
わたしなどが…あなたのお傍には、いられません!
ラト
わたしはあなたに…ひどいことを…!
わたしはラトの額に自分の額をくっつけた。
ぐっとラトの瞳が、呼吸が近くなる。
ラト
あ、るじ…さま…?
主
もう、ラトをひとりにしない。苦しい思いもつらい思いもさせない。
主
わたしがあなたを
主
…幸せにしたいんだ
ラト
あるじさま…
主
だから、もうひとりで抱え込まないで欲しいの
主
少しずつでいいから、痛いのも、苦しいのもこっちにちょうだい?
主
ラトがつらいとわたしも、すごくつらいよ
主
…私だけじゃない。フルーレもミヤジも、他の執事のみんなもラトを心配してる
ラト
…うぅっ…あるじさま
ラト
…ごめん、なさい
ラト
ごめんなさい…ごめん…なさい…!
小さな子どものように無邪気な泣き顔だった。
普段は天使とあんなに激しく戦っているのに、今にも崩れ落ちてしまいそうで
わたしはもう一度彼を抱きしめた。
ラト
…うっ…うぅっ…
主
ラト
こぼれる嗚咽とともに肩を揺らす彼の背中を優しくさする。
主
…ラト
ラト
…うっ…はい…あるじ…さ、ま…
返事が返ってくる嬉しさで、一気に目頭が熱くなる。
主
おかえり。ラト
ラト
…っ…うっ…はっ…い…っ…!
ぎゅっと彼もわたしを抱きしめてくれた。
主
((あぁ…私はやっぱり…
すがるような、寂しさを埋めるような
少し力の入った抱きしめ方だったけれど
主
……大好きだよ
彼の優しいぬくもりに包まれるのはとても心地よかった。