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ミステリーな感じが読んでいてとても好きです…!美月さんの衝撃的な言葉が印象に残り、次回も楽しみにしています…!!
海辺から戻った後も、写真の女が、頭から離れなかった。
あの時、一目見た瞬間に、写真の彼女になぜか好意を抱いた。
それは、初恋相手に再会したような懐かしさだった。
最も魅力的なのは、笑顔だった。
無邪気で柔らかいその微笑みに、心を奪われた。
まるで、小動物のような可愛さだった。
それは、美月の綺麗さとは異なるものだった。
なぜなら、美月はあまり笑顔を見せなかったからだ。
写真の女への想いは、日数を経るごとに増していった。
どうしても写真の女を忘れられなかった僕は、再び海辺に行った。
流木のそばに行き、アプリで写真を確認する。
僕に寄り添って笑う、ショートカットの女。
名前も知らない彼女ー。
その姿を見るだけで、気持ちが高揚した。
僕は彼女のことを完全に好きになっていた。
よく見ると、お互いの右手の薬指に、ペアリングを嵌めていた。
それは「恋人の証」だった。
僕は、美月と同棲するわずかニか月前に、別の女と付き合っていたことになる。
美月は「交際して一年経つ」と言っていた。
あれは嘘だったのか。
それとも、僕は二股をしていたのだろうか。
投稿者を確認すると、「ar107」と書かれていた。
アカウントページに飛んだが、プロフィールには何も書かれていなかった。
「ar107」というのは、過去の自分なのだろうか。
僕はアプリを地図モードにした。
地図には、写真のある場所に、矢印が表示される。
このアプリは、GPSと電子コンパスを使って写真を記録しているため、場所はすぐ分かるのだ。
投稿者「ar107」を検索すると、この場所の他に、二つの矢印が出た。
僕はそこへ行ってみることにした。
一枚目の写真は、都内の公園にあった。
噴水のある広場まで歩いて行くと、ハートの形をしたアーチを見つけた。
その前でスマホをかざすと、写真が浮かび上がった。
僕と女は、アーチの中で噴水を背景にして写っていた。
日付は「2019年5月8日」だった。
海辺のフォトが撮られた二か月程前だ。
僕は彼女と恋愛関係だったと確信した。
なぜなら、二人はキスをしていたからだ。
渡部瑛太
内気だと思っていた過去の自分の、大胆な行動に驚いた。
それと同時に、彼女から好かれていた事実に、嬉しさも覚えた。
二枚目の写真があったのは、結婚式場だった。
そこには、チャペルの入り口で微笑む二人の姿が写っていた。
日付は「2019年7月30日」だった。
スーツやドレス姿ではなく、普段着だったため、この日に結婚式を挙げたわけではなさそうだ。
渡部瑛太
渡部瑛太
受付に行って、ここで「渡部瑛太」が結婚式を挙げたか聞いたけれど、挙げていなかった。
僕は一人で写真を見に行ったことは言わずに、美月との同棲を続けた。
過去の自分には、結婚を意識するほどの女性がいた。
それを知った僕は、美月を不審に思った。
そもそも、美人で頭も良い彼女が、無職で記憶のない男と同棲すること自体、不自然な話だった。
一体何の目的で、こんな偽りの生活をしているのだろう。
疑いの目で見ると、彼女の存在自体が、不気味なものに思えた。
整った顔は、能面のような、温かみのないものに見えた。
何でも完璧にこなすさまは、全く隙を見せない機械のようだった。
そして、自分に対する優しさは、ペットを飼い慣らしているだけに思えた。
僕の目に映る美月の全ては、「虚像」に変わった。
渡部瑛太
不信感を募らせた僕は、ある朝そう尋ねた。
美月は突然の質問に、何も答えられない様子だった。
渡部瑛太
僕は、他の場所にある写真も見てきたことを話した。
渡部瑛太
渡部瑛太
美月は黙っている。
渡部瑛太
森本美月
渡部瑛太
美月は少しの間沈黙した。
そして、おもむろに言った。
森本美月
森本美月
渡部瑛太
森本美月
渡部瑛太
森本美月
渡部瑛太
森本美月
森本美月
渡部瑛太
森本美月
渡部瑛太
渡部瑛太
森本美月
渡部瑛太
美月は黙って俯いている。
渡部瑛太
森本美月
渡部瑛太
僕は立ち上がり、出て行こうとした。
森本美月
美月はそう叫んだ。
僕は立ち止まった。
渡部瑛太
振り返って、そう尋ねた。
森本美月
美月は思いつめた表情で、言った。
僕はその言葉を聞いて、立ち尽くした。