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医師
母
父
父
病室のなかで 母はベッドに崩れ落ちるようにして
むせび泣いていた
それが課せられた運命 なのだとしても
あまりにも尚早な死を 両親は受け止めることができなかった
どれだけの技術をもってしても 命だけは取り返せない
医師はそれが分かっているがゆえに 悲痛な面持ちだった
父
父
父
彼はもう何年も前に 妻に誓った愛を
その場面を思い出しながら
両頬に伝う水滴を感じた
あの日あの場所で あんなことをしなければ
こんな酷い運命を辿らずに済んだのに
そう思えば思うほど 悔しくてならなかった
3月25日の25時に × × 学校近くの桜並木で
告白したらその恋が叶う
桜の神さまが 永遠に2人を結びつけてくれる
そのおまじないはまことしやかに 語り継がれていた
× × 学校の卒業生のなかにも それを試して
交際がスタートした カップルがいると噂されていた
もとき
もときはそわそわしながら 3月26日の午前1時を
つまり 25日の25時を迎えて 相手が現れるのを待っていた
25時になっているのを あらためて携帯で確認するのを
もう何度も繰り返した
25時になってから 30分が過ぎてきた
ふと 彼女と最後に会った時のことを 思い出した
もとき
遙日
もとき
遙日
もとき
もとき
遙日
遙日
遙日
遙日
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
遙日
もとき
もとき
もとき
もとき
遙日
遙日
遙日
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もときは靄がかかった心を しかし躍らせていた
25時40分に差し掛かったころ 1本の桜の蔭から
人間のシルエットが現れた
もとき
もとき
もとき
近づいてきたのは 遙日ではなく
大きな体躯の男だった
守
もとき
もとき
守
守
もとき
もとき
もとき
守
男はあくまで冷静だった
守
守
もとき
もときは一旦 目をきょろきょろさせてから こう言った
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
男はふん、と鼻で笑った
守
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
守
守
守
もとき
男の意外な言葉に もときは目を白黒させる
守
守
守
守
守
守
もとき
もとき
もとき
もとき
守
もとき
守
ひときわ大きい声で 男はもときを諭した
守
もとき
守
守
守
守
守
もとき
守
守
守
守
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
すると男は血相を変えて 怒鳴った
守
守
守
おれは10年前
どうしても付き合いたかった いまの妻を呼び出して
勇気を振り絞って告白した
すると 妻は涙を流すほど喜んで
すぐその日から 付き合うことになった
そこからおれたちの ふたりの幸せな生活がはじまった
とんとん拍子で結婚式を上げ ふたりの間に子どももできて
おれたちは幸せの絶頂にいた
けれど思いもよらない 不幸が訪れた
おれたちの子どもが 5歳の誕生日を迎えたとき 子どもが突然倒れてしまった
すぐに病院にいったが 意識不明の重体だった
それからほどなくして 息子は他界してしまった
どうして守ってあげられなかったのか 悔やんでも悔やみきれない
そのときあの噂を思い出した
「× × 桜並木で告白したら 代償とひきかえに恋が叶う」
馬鹿げた話と思いながら 医師にもいちおう話した
すると驚くべき事実が あきらかになった
原因不明の 難病を患った子どもたちの親は
みな桜並木の噂のことを 医師に相談していたのだそうだ
おれの妻は大きなショックを 受けたようで
あの日あんなことしなければと おれたちふたりを責めた
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もときの懸命の説得も 男には一向に届いていなかった
守
守
守
守
守
守
守
守
守
守
守
守
守
守
もときは肩を震わせながら 拳をぎゅっと握りしめた
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
男は依然として 厳しい表情を崩さない
守
守
守
もとき
もとき
もとき
男はふと遠くを見やる もときもそれに釣られて 後ろを見ると
見慣れた姿の 人影がたたずんでいた
守
守
もときはひとつ大きく頷く そして踵をかえした
男はもときが駆けていく先を 目で追いながら
携帯の画面を表示させた
守
守
もとき
もとき
もとき
遙日
遙日
遙日
もとき
もとき
もとき
もとき
遙日
もとき
遙日
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
遙日は少しずつ
もときの傍に歩み寄っていった
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
遙日
もときは何も言わずに
遙日の身体を抱き寄せた
もとき
もとき
もとき
もときはそっと遙日の後ろ髪に 手を差し入れ
ふたりの距離を なくした
守
守
守
遠くからもときと遙日を 見ていた男は
携帯の画面を再度見て
ほっと胸を撫で下ろした
その画面には 白い文字で時刻が表示されていた
3/26 02:34
もときと遙日があの日 お互いに愛を誓ってから
20年が経った
たくみ
たくみ
たくみ
たくみ
たくみ
たくみ
もとき
もとき
たくみ
たくみ
たくみ
もとき
もとき
もとき
たくみ
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
もとき
遙日はクスッと笑うのを ふたりにばれないようにして
テーブルに食事を運んだ
遙日
遙日
もとき
たくみ
たくみ
たくみ
父と母は顔を見合わせて すこし恥ずかしげに笑った
遙日
遙日
遙日
遙日
もとき
たくみ
もとき
遙日
遙日
もとき
たくみ
遙日
遙日
遙日
遙日
もとき
もとき
遙日
遙日
少し顔が赤らんだ もときと遙日を横目に
たくみはふたりがしたことを 悟れた気がした
だがそれはあえて口にせず
自分の箸に手を伸ばした
25時、桜並木で。 blossoming on 25:00 Fin.
最後までお読みくださり ありがとうございました この物語はフィクションです