好きな人の好きな人は私ではない。
私とは真反対の人で、性格も、髪型も、口癖も全て違う。
叶わない恋とはこのことを言うのだろう。
私の恋の閉ざされる時が来る。
「皆さんは今日で卒業ですね。」
卒業はこの世で最も嫌いだ。
大好きで、愛している好きな人に会えない。
ぶっきらぼうで優しく、どんな女の子とも関わろうとしない。
私も例外ではなかった。
「ねぇ、見て!桜が咲いてる」
「話しかけんな。佐藤」
他の女の子同様に冷たく遇らう。
このような短いやりとりも無くなるのかと思うと、本当に憂鬱になる。
私はずっと好きな人を想い続けていたいのに。
なんて運命は残酷なのだろう。
私の中にある小さな箱は閉ざされていく。
小さく泣く私を友人が宥めてくれたが、卒業だからと嘘をついた。
私が泣いても好きな人は振り向いてくれない。
いっそ好きな人が私を嫌うように、私も好きな人を嫌いになれたら──。
「卒業しなければどれだけ良いか.....」
はいちーず!と共にピースをする。
幼いながら、何かと捻くれている私は、くだらないなと呆れた。
こんな汚い顔を好きな人に見られるかもしれない。
──まぁ、そもそも興味なんて…
「もうー!秋美ったら、そんなに泣かないでよー!高校でも会えるじゃん!」
「でもー…」
好きな人に会えないじゃんと悲観した。
全国の中でも有名な閉鎖的な田舎町で皆が同じ高校に行くのは当たり前だった。
エスカレーター式とまではいかないが、皆同じように成長する制度と考えてしまえば、何やかんや安心する。
一年前まではそう思っていた。
好きな人とだけは共に成長できない。
春の訪れと共に背丈が変わるのを見れない。
それが何より胸を苦しくさせてしまう。
東京の同じ高校の人たちが羨ましい。
純粋に祝ってあげられない自分が憎くて憎くて仕方がない。
それが恋なのよと新しいメガネをつけて話す母が頭に浮かんだ。
『秋美は今日、何時に帰ってくるの?』
お手洗いで泣きじゃくる私にメッセージが届く。
不意にくるメッセージを無視して、画面を閉じた。
この気持ちも閉じれれば良い。
大きく溜息をつきながら、また私は涙を流した。
桜の花弁がつくその人は、甘酸っぱいドリンクを呑んで、一息つく。
「ママ、麻美、準備は出来たか?」
「あと少しでーす!」
麻美は大きく手を挙げた。
この時期になると、時折思い出すことがあります。
ああ、あの時、会いに行けば良かった──。
でも、今は少しだけ後悔していません。
短く散った初恋の人ではなく、私を永く想い続けてくれる運命の人に出会いました。
幸せになりました。
「ママー!そつぎょうアルバム?いるの?」
麻美は私へと駆け寄ってくる。
「えぇ。それはママの大切なものだから、傷つけないようにダンボールに入れておいてくれる?」
「はーい!」
無邪気で愛おしい我が子の頬を優しく触る。
もう初恋の人は春の訪れと共に過ぎ去ってしまったようです。
でも、そこにい続けているような安心感があります。
貴方は幸せになっていますか?
「ママー!早く行かないとパパが置いて行っちゃうって!」
「もう、また麻美は嘘ばっかり言って…幼稚園ではこんなこと言っちゃダメよ?」
「わかってるよー!」
麻美はその人へと走って行った。
後を追うように私が振り返ろうとした時だ。
桜の花弁がひらりと頭につく。
私にとっての最後の桜は、その人であり、最初の桜は初恋の人であることに変わりはない。
そして、最後に、私から言いたいことがあります。
ずっと幸せでいてください。
私も、貴方が
すきでした。
コメント
1件
余 好きな人は、私だけを名前呼びしてくれる。 それは特別な何かを意味しているように──。