とある夜… 夢見町の公園の中…
_____!!!!
______ッ!!
_______バァン!!!バンバンバン!!!!
タンタンタンタン!!
ザッザッザッザッ!!
瑠香
白
_________Zugang!!!!!
金物どうしを弾き合う音に合わせ 走り抜ける靴特有の音… そして何かを殴打する重みのある乾いた音が 無数に響いていた。
瑠香
それじゃ悪夢に力負けして弾き飛ばされちまうぞ!
白
金物どうしがぶつかり合うと同時、撃ち合ったところから火花が飛び散る。
瑠香
一瞬のよそ見が命を落とすトリガーにもなる!
集中しろ!自分を守る為に!!
二人の手に握られるのは 防犯道具として設計された 特殊警棒の市販品。
使用されるのは 「4140カスタムスティール合金」 と呼ばれる硬質な合成金属
力の弱い人物も振りかぶる事で 石造りのレンガや、建物に使用される厚手のガラスを破壊する程硬く設計されている物だ。
刃物では無い為、切るなどは出来ないものの… 力を込めて身体に当てようものなら、頑強な四肢の骨でさえ砕く威力は持ち合わせる。
大立ち回りを極めながら、疾走し… グリップの底で刺突を放ち あらゆる方向から勢いの乗った振り抜きを互いに交差させる。
それは、1歩判断をしくじればどちらかが負傷を意味する真剣な撃ち合い稽古だ。
瑠香
そしてグリップから絶対に手を離すな!
そうすれば隙を作れる!
白
軸足を前…!
流れるように力を込める…!
熾烈を極める悪夢の中 戦いと怪盗の師匠たる瑠香の教えを噛み締めながら…
白が放っていく警棒の振り抜きは洗練されていった。
瑠香
動きがのってきた!
私を刃物振り回してくる悪夢だと思って警棒弾き飛ばしてみろ!!
逆手持ちにした警棒で威嚇するように横凪を放つと同時… 地面を蹴って、2歩、3歩と大きく距離を開けていく。
直後身を翻した瑠香、身を眺めた姿勢から、左手にて警棒を腰元に据え… 右手はグリップを一瞬なぞってから強く握り込む…
白
瑠香
悪いが本気の私の一撃、結構早いぞ…!
「何とかしてみろ…!」
その一声を持って、ルナが一気に迫り来る! 例えるならそれは全てを薙ぎ倒す大嵐の如く… 例えるならば豪腕を奮ってくる巨人の一撃… 凄まじい速度を持って瑠香が一直線に疾走してくる。
白
判断が一瞬鈍った…凄まじい剣幕に押され、白が思わず目を瞑りかける
瑠香
________ブゥゥンヒュファァン!!!!!
空気を切り裂くような凄まじい素振りの音を残すも… その後金物が弾ける様な音も無ければ何かが砕ける音もなかった
対して白、不格好な姿勢で警棒を握った両手は前に… 強く瞑った目を恐る恐る開ける。
白
首の皮一枚という位置で 瑠香の警棒が微動だにせず静止していた。
瑠香
白
私死にマチタ……!
一気に気が抜けたのか、死亡宣言を食らった白がその場にへたり混む
瑠香
そういうところで踏ん張れるようにならないと。
もし今のが剣道の師範やってる奴の悪夢とかだったら。
今頃、首と胴体さよなら〜ってなってたところだ。
そういうヘタレてるとこ、早い段階で克服するようにしないと、後が怖いよ
白
瑠香
言っちゃえばめったくそヘタレだ!!
白
容赦のない言葉の一撃… 白の心に辛辣を伴うバリスタ級の矢が刺さる音がした。
白
瑠香
この程度で心折れていては怪盗は務まらない。
精進あるのみだよ〜
瑠香が自分の警棒を見つめたあと、器用な手つきを持って弧を描きながら肩に警棒を担ぐ。
瑠香
白
瑠香
だってまだこういう稽古初めて1ヶ月も経ってないし、それであそこまで動けるんだもんな〜
頭キレるお陰だ。
このまま続けられれば1年後とか凄いことになってるよ。
そこは自信もって言える!
その言葉に白の表情が一気に緩んだ
白
そう言われると〜✨
瑠香
それじゃあ緊急事態になったら大変だ!
白の表情が一気に塞ぎこんだ…
白
瑠香
瑠香が、警棒を地面に突き立てて収納し、白に手を伸ばした。
瑠香
今日はこのくらいにしよう
差し出された手を掴み、立ち上がる白 まだ未熟なところはあるものの 少しずつだが戦いに対する技が上達する手応えを感じながら、満面の笑みで瑠香に頭を下げた
白
またよろしくお願いします!
瑠香
じゃあまた、近いうちに撃ち合い稽古しようか。バクマル〜帰るぞ〜
バクマル
公園に植えられていた木の上から、バクマルが降りてくるや一気に瑠香の元へ走り、瑠香の肩に乗った。
その様子を見ながら、借り物の特殊警棒を見る白
白
この警棒、このまま持っててもいいですか?
ちょっと素振りとかしたいです
瑠香
危ないから防犯以外で使ったらダメだよ?
白
ただ、少しでも誰かを助ける力私も早くみにつけたいので!
瑠香
でもそれ結構高いから無くすなよ〜
白
瑠香
白が実家にいた時
お母さんから貰ってた
お小遣い半年分くらい?
白
瑠香
日本メーカーのやつじゃさっき見たく撃ち合いしたらすぐ曲がっちまうんだ
白
その後、2人と1匹で… マンションへの帰路に着く。
白
警視流の構えですよね?
瑠香
あの一瞬でよくわかったね
『警視流ーけいしりゅうー』 明治維新、日本各地には刀の帯刀を禁じる廃刀令に反旗を翻すかつての浪人達が全国各地で小規模の抵抗を続けていた。 この剣術はそんな当時の警官隊が、反乱分子に対する抑止力として習得する事が義務付けられた警察剣術である。 柳生新陰流や、かの福沢諭吉が収めた立身流を初め… 多様な型を一剣術に納めたとされる かなり強力な流派としても知られる剣術だ。
白
前に文化祭の出し物で時代劇みたいな竹の束、5、6本の奴を一刀両断にしたんですよ
瑠香
その先生化け物か…!
白
瑠香
それを一気に5、6本なんて、日頃からやりこんでなきゃまず無理だね
白
というか、瑠香さんどこで警視流なんて学んだんですか?
瑠香
その人から徒手格闘とか諸々教わったんだよ。
警視流もその過程で覚えといた方がいいって言われてね
白
…
……
え!?
瑠香
白
瑠香
そういうことになりますね。
白
瑠香
白
瑠香
瑠香
(※モスキート音クラスの消音で)
白
瑠香
ほらそれより早く帰ろっか。もうお腹減って死にそうだ〜
白
瑠香
白
瑠香
あぁほら!白も今日は疲れたでしょ!💦
だからそういう時は師匠が食事支度するのが稽古の習わしっていうかでっていうか!!
すると、どこからともなく焦がし醤油に鶏ガラの香りが漂ってくる。
二人と一匹、視線を向けた先にはラーメン屋の屋台が独特な音とともに明かりをともしていた。
白
瑠香
丁度いい、今晩ラーメン食べて帰らない?
白
瑠香
バクマルもそれでいい?
バクマル
なんということでしょう。主人たちを置き去りに、走っていってしまわれました
2人もあとに続き暖簾をくぐり、備えつけられた席に腰かけた…
同時刻、とあるビジネスホテルの一室にて…
竹中
バスルームより、「特攻野郎」という文字の書かれたタンクトップとジャージ姿の竹中が 頭をタオルで拭き取りながら出てくる。
井嶋
対する井嶋… 険しい表情を浮かべながら、ベッドの上で胡座をかき 脇には数枚のA4用紙と日本酒の一升瓶を横向きにおき、 手元にアルコールの入った陶器を鷲掴みして、部屋に備え付けられたテレビ端末を凝視していた。
竹中
井嶋
マジでやべぇかも知んねぇわ
竹中
それっていつものアプローチよりよっぽどって事ですか?
井嶋
竹中
あ…あぁ…ううぅ…!涙
タオルで口元を抑えて泣きのポーズをとる竹中を井嶋が慌てて目を見開く
井嶋
竹中
脇に酒瓶転がして呑兵衛みたく渋い顔…!涙
井嶋
コイツァ俺の命ラァ~!
酔えねぇ人生なんざ興味ネェンダァヨ⤴
て違ぇぇぇ💢
ほらあっち💢
ディスプレイ見ろっつってんだ💢
竹中
えぇちょっとすみません
ディスプレイにはスマホが接続される 内容は夢見町のホームページ… 及び夢見町が大々的に宣伝する夢エネルギーに関する宣伝サイトだ。
竹中
それとこっちは、全国放送で大々的に宣伝してる夢エネルギー関連のサイト?
どっちも『警備室』の端末で確認しましたよ?
井嶋が、鋭い眼光を目に宿し…目線をそのままに口を開く
井嶋
竹中
技術的な話多くていまいちピンとは来てませんが…
ソーラーパネルの夢バージョンみたいなものかと
井嶋
『警備室』出る前に栗林から調べてもらった夢エネルギー開発に関する資料だ。
意見180度変わるぞ
そう言って、脇においてあった書類を竹中に差し出す。そこには桜の代紋が文字とともに印刷されていた
竹中
悪夢…見る…?
アクムミ…?
なんて読むんですかね…?
井嶋
竹中
悪夢の見物人…ですか?
井嶋
こいつぁ見物人なんて軽い表現で収まるもんじゃねぇ
竹中
井嶋
原料となる夢には条件があるらしい。
竹中
悪夢見って言葉…
それに加えてエネルギーになる夢の条件…
井嶋
原料となる夢の条件…
そいつぁ、ストレスやネガティブ感情を処理する側頭葉扁桃体が過活動になって、細胞活性を促すドーパミンや幸福感情を刺激するエンドルフィン…
加えて、ストレス作用を緩和させるセロトニン物質の数量が人体の必要量を下回ってる状態で寝ると見るもん…
つまり
竹中
それって悪夢見る時の条件じゃないですか!
竹中
夢エネルギー開発って、都市事業で扱ってるんですよね…?
聞き心地のいい言葉並べて蓋開けたら
悪夢見る人間を食い物にしてたって話ですか!?
井嶋
その沈黙… 竹中の思考がたどり着いた『実情』に対する答えを示している…
竹中
ふざけてる…!
井嶋
それをどう扱うかなんざ法律どうこうの問題でもな…
加えて、資源問題に頭抱える今の時代…コストほぼゼロで無制限にエネルギー資源確保出来ちまう。
ロクでなしの思考だが合理的に言えば天才的な発想だ…
考えたやつ相当頭キレるぞ…
井嶋が、もう1枚何名かの顔写真の乗った用紙を竹中に渡す。
井嶋
1ヶ月以内に出先で不審死を遂げた夢見出身の『ガイシャ』なんだが…全員、1ヶ月以内に精神科への受診履歴があった上に、寝付きの悪さを医者に訴えてたって妙な共通点があった。
方々の警察署館内の司法解剖であっちゃこっちゃ開かれた時、扁桃体を中心に脳の一部溶けてたって担当した解剖医が口揃えて報告してきたのさ。
劇薬食らったわけでもなきゃ、バーナーで炙られた訳でもねぇ…
脳が自分から溶け出したとしか表現出来ねぇような損傷で12人のガイシャ、見事全員もれなくだ…
竹中
その光景を思い浮かべた竹中の頬から滲み出るようなあぶら汗が滴り落ちた…
竹中
ありえないですって…!
仮にそんな事になるとしたら!!!
井嶋
「あ…」その一言と共に、声を抑えるよう心がけてから口を開いた。
竹中
ガイシャの脳は死亡するまでの間、相当な負荷がかかってるはずです…ッ!
脳梗塞や出血ならまだしも…
限界超えて溶けた部位を使い続けるでもしなければ…物理的に溶けるなんてありえないですよ…!
井嶋
井嶋
報告書全て内容が同じだった、そこまでくれば認めざるを得ないだろう
井嶋は『警備室』と呼ばれる特殊な部署に勤務し… 既に10年近く、あらゆる仕事に従事し多くで『御注文』を果たしてきたベテランである。 今回のような事案も何度か経験した実績から、提供されてきた内容が絵空事の類でない事を理解していた。 本件に対してもその勘は遺憾無く発揮されている… そんな彼の言葉に対する説得力は若手の竹中にも響くものがあるのだ。
竹中
ですけどそこまでピンポイントにこの町の住人なら、前兆を訴える町民いると思うんです…
加えて、そんなおかしな現象が一つの町の住人に集中してるならば、
風土調査や健康被害に関する調査って流れになるはず…
それらも調査する為、地方自治体は中央政府に通達する義務とか…
でも今回、諸々の事情『警備室』は愚か『千代田区』でも聞かなかったの流石に怪しすぎませんか?
井嶋
俺の見立てだが、今回裏で糸引く連中は、そういった厄介事も全部揉み消せる何らかのカードを抱えている。
じゃなきゃここまで尻尾チラつかせるわけがねぇ…
竹中
本件…『抜き取り』出来ればアコギな事やらかしてる連中まで芋ずる式にしょっぴけるかもしれないですよ?
井嶋
出しゃばりすぎると、ヤキモチ妬いた連中の邪魔が入る…
特に『千代田区』の連中はかなり嫉妬深いから、奴らが苦戦してる様なら手を貸してやるくらいで抑えとくぞ?
それだけでも『警備室ー俺たちー』にとっては十分な利益に繋がる。
井嶋
竹中
井嶋
加えて、俺達が狙う『御注文』の協力を取り付ける…
胸ポケットから…初めてだす一枚の写真を竹中に見せる
井嶋
これが俺たちの仕留める『バイ菌』の手がかりだ…
彼らがこの街に来た理由の一つ… その写真には…
薄気味の悪い目元を浮かべる解像度の荒い写真が握られていた…