この作品はいかがでしたか?
112
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もう どれくらい経っただろうか
私が 柱に 縛り付けられてから
下に見える群衆は
私を罪人と思っている
…たった、一人を除いて
その、少年は
私を焼く準備をしている
言われた通りに
逆らいもせずに
その冷たい瞳の割には
強ばった顔をして
群衆の1人が言う
「お前は、魔女か」
何度も聞いてきた問いだった
「…いいえ、違いますよ」
何度も返してきた答えだった
それなのに
「何故認めない」
「認めなければ、このまま焼かれるのだぞ」
群衆は、「YES」を望んでいるようだ
この世界は
苦しんで死ぬか
楽に死ぬかで
「生きる」という選択肢は
この時代に不似合いらしい
言い分はこうだ
燃えて消えれば 「白」
燃えて残れば 「黒」
どう弁解したって結局、「死」だ
希望を、潰されるくらいなら
消えてしまった方が良いのだろう
でも…と、わたしは思う
だから、少年に問う
「少年」
ゆっくりと、振り向いた
大人びた目で、私を見る
温度の無い、視線だった
「お伽噺を、話そうか」
嫌がる素振りは見せない
だからこそ、言葉を紡ぐことが出来た
──昔
魔女に、恋をした少年がいたそうだ
記憶を無くし、迷い込んだ森で
その命を魔女が護った
少年が、大きくなるまで
傍に置こうと、決めた
少年は、魔女といる内に
魔女の素顔に、好意を持つようになったそうだ
…とても、幸せな日々だった
これからも続いていくはずだった
少年は、記憶を取り戻したそうだ
魔女にとってそれは、喜ぶべきことだった
だが
少年にとっては、冷や汗を流すことだった
それはそうだろう
今まで家族同然に仲良くしてきた者が
まさか、「自分の宿敵」とは思わなかっただろうから
少年は、森から逃げ帰った
魔女を、殺してしまうために
──そうして、魔女は焼かれたそうだ
少年の
放った火で
「何故、この者が魔女と呼ばれているか、知っていますか?」
答えは無い
私は続ける
「人々が、そうであって欲しいと望んだからなのですよ」
群衆が湧き上がる
怒りのあまり、聞き取れなくなっている罵声が
飛んでくるように聞こえた
少年は、俯いたままだ
「私がもし、知らない内に」
「人々にとっての魔女、となっているのなら」
「私は、死して身の潔白を示しましょう」
何かが投げつけられた
縄が腕を傷つけた
不意に、声が上がる
「火をつけろ」と
声の主は、少年に伝えた
「お前が、火をつけろ」
「憎き魔女を見つけ出した褒美だ」と
少年は、松明を投げこもうとする
その顔に、涙が伝うのを
私は見ていた
「貴方が望んだ魔女ですよ」
「何故……」
「何故、泣いているのですか」
私の声は、震えていなかっただろうか
火がつけられる
腕が、髪が、火に巻かれていく
皮膚が爛れる
もう、少年の瞳には
「彼が望んだ魔女」は映っていなかった
ただ、そこには
黒い煙を上げながら燃えている
「被害者」がいた
─ 普通に考えれば良かったんだ
燃えても、少なくとも骨が残るだろう
死体が見つかるか、見つからないかで
判断しているから
ここまで、「犠牲者」が出ていたのだ
浅はかだったのだ
「僕」の考えは
自嘲するように笑った
貴女が、僕の笑顔をほめてくれたから
僕は語りかける
目の前の、「焼死体」に
この物語には、続きがあるそうだ
少年は、命を落としてまで
負の連鎖に終止符を打った彼女を
ひっそりとした墓地に埋めたそうだ
後に、少年をリーダーとした
「被害者達」の健闘によって
魔女、という概念は
人知れず消え去って行ったらしい
さて、彼女の墓地だが
常に、花が咲いているようだ
誰が手入れしているのかも分からない
それは綺麗な花が
それは、人権の象徴として
後にこう呼ばれることになる
「ルドベキア」と
コメント
3件
え~と、テーマは「魔女狩り」です… ルドベキアの花言葉、良ければ調べてみてくださいネ✌🏻🤍