そのおばさんは
前触れもなく
突然やって来た
ピンポーン
男
男
男は寝ぼけ眼を指で擦りながら スマホで時刻を確認する
男
男
ピンポーン
男
男
後からコンビニで
払えばいいか
男
無視しておけば 観念して帰るだろう
男はそう考えて もう一度眠りにつこうとする
しかし
ピンポーン
ピンポーン
男
男
さっさと止めて帰れよ!
男
しかし男の声も虚しく インターフォンが 鳴り止む事は無かった
ピンポーン
ピンポーン
男
ドンドンドンドン
次はドアを力強く叩き始めた
男
男
男
ドンドンドンドン
ドンドンドンドン
男
わーったよ!!
男
男
男
頭湧いてんのかよ!
男は常軌を逸した 奇行に観念してドアを開ける
しかしそのドアを開けるという行為は 自分を破滅に導く結果になろうとは
この時の男は 知る由も無かったのだ
ガチャ
男
うるせーんだよ!
男
男
おばさん
男
そこに立っていたのは 見ず知らずのおばさんだった
男
何処にでも居る普通のおばさん
男がそのおばさんに 抱いた第一印象はその程度だった
男
男
男
男
男
おばさん
男
言ったらどうっスか?
男
おばさん
男
男
おばさん
男
おばさん
男
おばさん
貸してください
男
おばさん
男
男
見ず知らずのあんたに
男
いけねーんスか?
おばさん
1000円だけですよ?
男
おばさん
男
男
おばさん
男
男
100円だろうが
男
あんたに貸す訳
ねーだろ?
男
ガチャ
おばさん
男
男
1000円貸せだ?
男
男
男
変な奴って居るしな
男
男
もうひと眠りだな!
あのおばさんが 来る事はもう無いだろう
男はそう安心しきっていた
翌日
ピンポーン
インターフォンが鳴り響く
男
男
男はまだ開ききっていない 瞼を懸命に開きながら スマホで時刻を確認する
男
男の脳裏には 昨日のおばさんの姿が 浮かんでいた
男
ドンドンドン
ドンドンドン
男
マジかよ!ふざけんな!
ドンドンドン
男
ドンドンドン
男
ドンドンドン
ドンドンドン
男
男
男
ガチャ
男
おばさん
男
そこには、昨日やって来た おばさんの姿があった
男
男
男
おばさん
男
男
おばさん
男
100円減ってんスか?
おばさん
男
男
連呼しやがって!)
男
このクソババアが!)
男
言ったと思いますけど
男
おばさん
今日は900円です
おばさん
男
問題じゃねーのよ!
男
男
男
俺が金貸す理由が
ねーつってんの!
男
俺が言ってる事!
おばさん
男
話通じねーわ)
男
男
貸せねーんだよ!
男
ガチャ
おばさん
男
男
男
普通じゃねーよ
男
来るなんて事・・
男
男
しかし男の悪い予感は 不幸な事に的中してしまった
翌日
おばさん
そのまた翌日
おばさん
そのまた翌日
おばさん
そのまた翌日
おばさん
そのまた翌日
おばさん
男は怒りのままに 部屋で暴れる
男
男
男
男
金貸せ貸せ言いやがってよ
男
事でもしたか?
男
あんなババア知らねーし
男
男
そう。おばさんは毎日 決まって午前11時に 部屋にやって来るのだ
男
あのクソババア!
男
男
ピンポーン
男
男
男
問い詰めてやる!
ガチャ
男はゆっくりどドアを開けて 外の様子を伺う。
おばさん
そこには例の おばさんが立っていた
男
男
来やがってよ!
男
分かんねーか!コラ!
男
たと女でも容赦──
おばさん
男
男
ガチャ
隣人
騒ぎを聞きつけた 隣人が部屋から出て来る。
男
隣人
うるさいんですよ
隣人
男
隣人
隣人
男
男
このババアに──
男
そこには先程まで居た おばさんの姿は既に無かった
男
隣人
みたいですけど?
男
ここに居たんだよ・・・
男
ドンドン叩いて
男
隣人
とりあえずもう
騒がないでもらえます?
隣人
大家さんに言いますんで
男
隣人
隣人はご立腹と言った様子で 自室に帰っていく
男
男
男
男
男
男
男
男
男はノイローゼになっていた
その日の夕方
男が病院に行くと 鬱、自律神経失調症と 医者から診断された
こうなってしまっては まともに仕事をする事は厳しい
この時の男は 人生最大の絶望を味わっていた
それからもおばさんは 2日連続でやって来た
昨日が──
おばさん
そして今日
おばさん
男は既に身も心も ボロボロに傷ついていた
しかしそんな絶望の渦中に居たが 心のどこかでは
「やっと解放されたんだ」
という安心感があった
おばさんが最初に訪れた時 貸してくれと言っていた金額は 1000円だった
それから、日を追うごとにその 金額は100円づつ減っていき 今日、ついに100円になった
したがって明日は0円 当然0円貸すなど無理な話
だからおばさんが 来る事はもう無い
おばさんのせいで 寝不足気味だった男は
そう安心して深い眠りについた
翌日
男の眠りを、嫌と言うほどに聞き慣れた『あの音』が妨げる。
ピンポーン
男
男
男
気持ち良く寝てんのによ
男は手探りでスマホを探す
男
男
男
男はスマホを手にして 時刻を確認する
男
スマホのディスプレイには 午前11時と表示されていた
男
不気味なくらいに規則正しく 11時丁度に鳴り響くインターフォン
男
男
ピンポーン
男
大家さんだろ?
ピンポーン
男
チクりやがったんだな?
男
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
男
男
男は生唾を飲み込み
ドアを開けた先に 大家がいる事を神に祈りながら ゆっくりとドアを開ける
ガチャ
男は恐る恐る顔をのぞかせる
そこに居たのは──
おばさん
例のおばさんだった
男
男
男
男
男
男
おばさん
男
その瞬間──
男の頭で何かブチッと 音を立てて千切れる
気づくと男は おばさんの首を絞めていた
おばさん
男
おばさん
男
男
何だったんだよ!コラ!
おばさん
男
男
俺を!!!!!
おばさん
男
目的がどうとか・・
男
男
男
男
ガチャ
すると隣人の部屋のドアが開く
隣人
隣人
男がおばさんの首を絞めている という現状を目の当たりにし 隣人の目が強張る
隣人
隣人
男
男
隣人
その手を離すんだ!
男
男
隣人
男は隣人に思いっきり殴られ その場に倒れ込む
男
隣人
逃げてください!
隣人
何とかしますから!
おばさん
おばさんはそう言うと 足早に去っていく
男
男
クソババアがぁ!
隣人
俺は隣人に取り押さえられてしまう
男
男
男
隣人
男
男
おばさん
おばさん
おばさん
おばさん
おばさんは不適な笑みを浮かべる
翌日の午前11時
おばさん
おばさん
しかし何度インターフォンを 鳴らしても、男が 出て来る気配がない
おばさん
おばさん
独り言言ってる声が
聞こえて来るんだけど
おばさん
おばさんはドアノブを回す
ガチャ
おばさん
おばさん
男は首を吊って自殺していた
おばさん
おばさん
おばさん
粘った方だけど
おばさん
1000円の効果は
絶大だったようね
おばさん
おばさん
長居は無用ね
おばさんが外に出ると 丁度帰宅して来た 隣人と出くわす
隣人
昨日の・・・
おばさん
隣人
おばさん
隣人
おばさん
隣人
隣人
相手が女性でも
隣人
一定数居ますから
隣人
くださいね?
おばさん
おばさん
おばさんはそう言って会釈をすると その場から立ち去る
隣人
隣人
遭ったって言うのに
隣人
隣人
隣人
隣人は男の部屋を見つめる
隣人
反省してくれたのかな?
隣人
おばさんはアパートを離れると 軽快な足取りで歩く
おばさん
死んでくれた事だし
おばさん
おばさん
はずんでくれるかな?
おばさんは雑居ビルにある 小さなオフィスのような 部屋にやって来た
おばさん
社長
おばさん
おばさん
自殺してくれてたわ
社長
社長
保険金でチャラだな
おばさん
おばさん
生命保険に加入させて
おばさん
借金回収しようなんてさ
社長
保険金はおりねーと
思われてるが
社長
おばさん
おばさん
おばさん
判断された自殺に
限定されるものね
社長
社長
正常な判断が困難な
精神状態での自殺だったら
社長
判断されて
保険金がおりるんだ
おばさん
鬱、自律神経失調症と
診断されてるから
おばさん
おばさん
社長
社長
600万ゲッツだ
おばさん
20万なのにね
おばさん
社長
社長
貸してやったんだ
社長
不届者にゃそれ相応の
罰が必要だ!だろ?
おばさん
社長
社長
追い込めるもんか?
おばさん
頭で考えてるよりも
おばさん
おばさん
入れてあげるだけで
コロッと逝ちゃうのよ
おばさん
したんなら
決して逃さないけどね❤︎
社長
社長
良かったって思うぜ
おばさん
おばさん
報酬の話をしない?
社長
社長
金額がでけーからな
社長
借金をはテーブルの上に 分厚い茶封筒を置く
おばさん
いいの?社長❤︎
社長
他社(よそ)に行かれたら
大損だからな!
社長
探そうと思っても
社長
もんじゃねーからな
おばさん
言ってくれるわね❤︎
社長
何かあったら頼むぜ?
社長
おばさん
闇金事務所を出たおばさんは 有頂天といった様子で
スキップしながら 時折鼻歌を 口ずさみながら歩く
おばさん
おばさん
貰っちゃった❤︎
おばさん
サービスしなくちゃ❤︎
おばさん
おばさん
おばさんは被っていた 変装用のマスクを脱ぎ捨てる
おばさん?
おばさん?
おばさん?
手に入った事だし
おばさん?
バカンスかな
END