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─ノックを3回。
あれ、2回だっけ。
メイ
雨のせいか扉のせいかぎりぎり聞こえるくらいの大きさで、 聞きなれた声が聞こえる。
伊織
伊織
クロ
メイ
ドアノブが動く。
おざなりな返事とともに、先輩が顔を出した。
伊織
伊織
伊織
メイ
クロ
ふわりと香る、いつもの香水の香り。
甘ったるくてどこか蠱惑的なそれにはもう慣れてしまった。
ふわふわ浮かぶ埃が、照明の光に当たって煌めいている。
見下ろすと、床にも机にも埃がかかっていない。
メイ
伊織
伊織
メイ
先輩の着ていた服の袖から覗く、褪せた赤色。
線状になっているそれは、 手首だけでもびっしりと並んでいた。
メイ
クロ
メイ
メイ
クロ
伊織
先輩は小さな冷蔵庫から、炭酸を取り出す。
そして隣に並んでいた小さな棚から、 マグカップを3つ取った。
先輩の服の袖口が緩いせいで、 動く度ちらちらとあの傷が見えてしまう。
傷跡になっているものもあれば、 すぐ前に付けられたような真っ赤なものもある。
その傷跡を凝視していると、 先輩が口を開く。
伊織
メイ
メイ
伊織
先輩が目を丸くした。
クロ
メイ
メイ
袖をまくる。
薄くなった傷跡は、昔と変わらず痛々しい。
メイ
メイ
メイ
伊織
僕の言葉を先輩が遮る。
その言葉は、鼓膜に刺さるように強かった。
メイ
伊織
伊織
伊織
クロ
伊織
伊織
伊織
伊織
伊織
先輩の声が上擦る。
伊織
伊織
伊織
伊織
伊織
伊織
メイ
伊織
先輩は黙りこくってしまった。
どうやら、彼の過去と深い関わりがありそうだ。
クロ
伊織
メイ
伊織
先輩の持っていたマグカップが落ちて、 重い音が響いた。
メイ
伊織
伊織
伊織
伊織
とうとう座り込んで泣き始めてしまった先輩。 時々嘔吐く声も混じっている。
伊織
伊織
伊織
メイ
メイ
たじろぐ僕の横から、 真っ先に動いたのはクロだ。
先輩の細い身体を、彼はぎゅっと抱き締めた。
クロ
伊織
クロ
クロ
クロ
クロ
クロ
クロ
クロ
クロ
クロ
クロ
…気づいたら、視界が霞んでいた。
…この人には、クロには人を救う力があるんだ。
人のことを包み込むみたいに、 その人がいま必要な、優しい言葉をかけてくれる。
─先輩の目から、また涙が溢れ出した。
伊織
伊織
クロ
クロ
クロ
まるで子供のように、声を上げて泣く先輩。
そのか弱くて悲しい泣き声は、 雨音にそっと、溶けていく。
続