コメント
12件
無謀なクエスト挑戦中から来ました!!! soraさんの書くお話、毎回深いというか夢中になれるから大好きなんです‼️ 毎回読み終わる度に「くー!続き気になるー!」ってなってますw
ギター弾き始めたぐらいでガチで泣きそうになりました…😭😭 めっちゃ感動してます…😭
クリスマス特別連載開始ー!!
今日・明日・明後日と、クリスマススペシャルでお送りします✨️
と思ったけど1日遅れてるぅ!! ごめんなさい🙇(2023/12/24追記)
頑張ります!!
それでは本編 Let's go!!
⚠︎︎注意⚠︎︎ ・irxs二次創作 ・記憶喪失パロ
2023/12/24投稿
♯1 「記憶喪失」
#1
第1話 「1日限りのメモリー」
赤
赤
深い深い眠りから覚めたような。そんな気分で目を開ける。人間とは思えないくらい重く感じる体は指1本も動かない。自身に「動かそう」という気が無いのかもしれない。
掠れた声は発声点から20cmも進まずに消えた。無力感が心のすみからすみへと広がっていく。
赤
まだぼやけている視界に映った無機質な白色の天井からそう呟く。1度瞬きをしてみると、少しもやが晴れてより鮮明に見えるようになった。
それでも天井はやっぱり無機質な白さを放っている。
赤
なぜここに居るのだろう。
そんな疑問がふっと思い浮かんだ。
ここに来るまでの記憶が無い。怪我なのか病気なのか、一時的にここへ来たのかずっと入院しているのか。眠った前の自分が頭の中に居ない。
そもそも自分ってなんだったっけ。
赤
自身にはなにも記憶が無いことに気づき、重い体は起き上がらず、口が開いたまま混乱状態で放置されていた俺は看護師さんに発見される。
看護師さんは俺の顔を覗き込んだ途端、目を大きく開いてパタパタと小走りで遠ざかって行ったから、それがさらに混乱を招いた。
その後、少しして医者らしき人とさっきの看護師さんが戻ってきて俺の体を起こした。あんなに重かった体がすっと起こされ、正直さっきの看護師さんよりも驚いた気分だ。
医者
赤
"大神りうら"
それが俺の名前らしい。「りうら」と聞いた時、脳をつねられたみたいな感覚になった。 が、俺の記憶は水でおおわれてるみたいで、そこから記憶が引き出されはしなかった。
赤
赤
自分の家も分からないが、無意識に「帰る」という言葉が出てくる。人間の本能的なものなのだろうか。
医者
医者
つまり今、俺の家はこの無機質な汚れのない「病院の個室」と思われる場所ということだろうか。水をまとった俺の記憶からは"暖かいところだった"というイメージしか引き出せない。
少なくともここは暖かい場所では無い。
赤
記憶が無いこと自体が不満...不安だが、帰れないこと自体に嫌悪感を抱く。人はどこかに帰るものじゃないのだろうか。なぜ俺だけダメなの。
そんな気持ちから、つい眉をひそめて責めるような口調で問うてしまう。
医者
医者
赤
赤
なにも分からない。そう言うしかない。
今はこの白衣を着た男の人の言う通りにしないと、俺はなにも出来ない。
その後説明されたのは、家族の事と病院に居る理由と、大神りうら...俺についてだった。
茶髪のストレートで大きい目から涙を溢れさせていたのは俺のお母さんらしい。髪型はセンター分けだった。
お父さんはすらっと背が高い人で髪型はツーブロック。俺を見た瞬間抱きつかれて少し怖かった。
まだよく整理はついていないが、俺の家族はこの2人だと看護師さんが言った。俺の目にはただの他人としか映らなかったけれど。
病院に来たきっかけは「交通事故」友達と遊びに行っていた途中、運悪く乗用車とぶつかったのだと、泣きながら母は言った。
そこから2ヶ月くらい眠っていたらしい。 頭の打ちどころが悪くてなにも思い出せないのだと、教えられた。
赤
手には青色の手帳みたいなもの。
医者
医者
第1学年 4組 大神りうら(15)
赤髪をポンパドールにし、学生証の写真らしい微笑んだ顔。これが大神りうら。...すなわち俺。
さっとおでこを触ると、写真のポンパドールでは無く、前髪がおろされていることが分かった。
赤
看護師
おでこに触れたのを見かねた看護師さんが「なにか感覚的に思い出すかも」と、俺に提案を持ちかけてくる。
情報の整理もついてないので、今なにか思い出したところでこの混乱は収まらないと思いつつも首を縦に振った。
看護師
さっとピンを取り出したかと思ったら、ベッドの横の机に置いてあったらしい。全然気づかなかった。俺の前髪をさっと集めて上へくるんっと持ち上げる。
きっちりと止められた前髪だけど、特別湧き上がってくるものは特にない。 ただ視界が良くなっただけな気がする。
赤
看護師
本当に思い出せるのだろうか。思い出させてくれるのだろうか。 正直まだなにも信用出来ない。 誰も知らないから。
赤
赤
手に持っていた学生証と、「忘れそうな事があったら」と渡された赤色のメモ帳とシンプルなペンを机に置く。 メモ帳はどのページも白紙のままだ。
俺以外居ない部屋は今の自分の心情のように映って、押し寄せてくる不安から逃げるように目を閉じる。
本当は俺はさらわれたんじゃないか。 それでなにか酷い目に合わされるのでは無いだろうか。親だって本物か確かではないし、さっきまで見ていた学生証だって簡単に偽造できそうだ。
意図的に記憶を失わされているのかもしれない。
そんな妄想が頭を埋め尽くす。
赤
放置されていてもただただ暇で、どう頑張っても頭の整理はつかない。 このままだとさっきの妄想がどんどん進んでブルーな気持ちになるだけだ。 そう思い、メモ帳を手に取る。
・
箇条書きの点を打ったところでペンが止まる。正直なにも書くことが無い。あるのかもしれないが、書く気になれない。
赤
ガラガラガラッッ
もう一度ため息をついた瞬間、スライド式のドアが勢いよく開く。
赤
いきなりすぎて反射的に出た声。手に持っていたメモ帳も落としてしまった。 恐る恐るドアの方を見ると、あたふたしてる2人組が喋っていた。
?
?
驚いた顔で片方を叱る制服姿の男の子。 紫へのグラデーションになっている水色髪に目が強く惹き付けられる。 大きな目の中は水の中みたいに透き通っていた。
「ばか」と言われた白髪の男の子も隣と同じ制服姿で、ドアに対してペコペコと謝っている。 前が全開になったブレザーからは、かっこいいネクタイが覗いていた。
まるでいつもの日常かのように違和感なくそこに居る2人は、水をまとった俺の記憶になにかを訴えかけてきた気がした。が、その感覚もすぐに消え、「誰だろう」という疑問だけが残る。
?
なにかを思い出したように俺の方に振り返る白髪の男の子。 つい身まがえると、彼は笑顔でこう言った。
?
赤
この2人組と大神りうらはどんな関係だったのだろうか。制服姿だし、同級生とかかもしれない。 でも友達同士で「こんにちは」って普通言うか...?いや、いるかもしれないけど。
もしかしたら俺に記憶が無いことを知らないのかもしれない。 笑顔の彼らに友達(仮)が自分を覚えていないという事実は残酷ではないだろうか。俺が考えることでもない気がするが。
そうは思っても説明しなければ話が噛み合わないままなので、こちらから口を開く。
赤
?
?
まるで俺の言葉に攻撃力があるかのように、酷く傷ついた顔を一瞬見せる。 が、すぐに戻って、そのまま笑顔で接してきた。
水
紫
2人とも人懐っこそうな笑顔で教えてくれる。多分友達だろう。その笑顔からそう思えた。
赤
水
紫
2人とも当たり前かのように俺と話しているから、記憶が無いことは誰かから聞いているのかもしれない。友達だろうし、親も知っている可能性が高い。
紫
俺の事をりうちゃんと呼ぶ彼。
水
紫
紫
な、なんだその解釈は....
水
赤
謎のシンレデラ論...いいな。そう思った方が俺的には気楽だ。変な妄想を広げるよりそういうことにしておこう。 自分でも馬鹿だと思うけど、記憶が無いこと自体が馬鹿げてるんだから。
水
赤
赤
赤
さっき教えられた事を全て喋る。全て喋っても30秒もない。 俺の今までの人生は30秒でおさまるほどつまらなくて薄かったのだろうか。
紫
水
紫
赤
赤
眉をひそめて真剣な顔で言う初兎くんを見て緊張が走る。やっぱり教えてられない記憶があったのだ。「医者より信用できる」と俺の直感が言っている。
紫
紫
赤
紫
俺に人差し指を指したまま、まるで典型的な大阪のおばさん(関西弁だからかも)のような雰囲気でもう一方の彼を見る。
「えぇっ?えーと....」と、宙を見て迷いながら言葉を探すほとけくん。
水
紫
水
ニヤついた顔をしながら、あれやこれやマシンガンのように俺のことを語る2人。
俺の人生は30秒じゃなかった事がよく分かる。もっと、もっと、知らないだけでたくさんあるのだ。
赤
不思議と笑いが込み上げてくる。テレビで見るコントよりも、2人の掛け合いの様子はなぜか面白く映った。 本人たちが楽しそうなのだ。
紫
水
水
赤
2人が来てから1時間になるだろうか。今から死ぬまで分くらい笑った気がする。全部俺と2人の話なのに、なんだか他人事感があって、でも面白い。
2人の話し方も上手くて、人に好かれるような性格なのがよく分かる。 記憶の無い俺なんて言ってみればただの他人に近いのに、自分でも分からない俺の笑いのツボをよく分かっている。
水
嬉しそうな目でこちらを見る。それは、さっきまでのバカ笑いしていた顔とは全く別物だった。
赤
赤
水
水
「ちょっとシャイになってるけど」と水色髪の下で下がり眉になる顔は、俺の記憶を強く刺激した。物悲しそうなその顔を、どこかで見た気がしたのだ。
水
水
俺が顔を見つめてるのを不思議に思って首をかしげ、すぐに通常運転になる。 すると、初兎くんが笑顔になって少々強引に俺とほとけくんの手を重ねてきた。
紫
紫
変顔とも見える険しさLv100みたいな顔をする初兎くん。 ついぷっと笑ってしまった。
「ちょっと!」という怒りながらも楽しそうな声と、「へへっ」というイタズラな笑い声。重ねられたふたつの手が、とても暖かい。
紫
赤
紫
俺とほとけくんの手を、1番上からぎゅっと握る。 暖かい、優しさを感じられる手だった。
紫
紫
照れくさそうに笑った顔に、水をまとった俺の記憶が震える。だけど、霧がかって見えないその記憶を目を凝らしてまで見ようとは思わなかった。
赤
だって今、目の前に居てくれているのだから。
水
紫
慌て出すふたりを横目に、「日が落ちている」と言われた外をじっと眺める。 橙に染まった空を紫が侵食していく様子は、まるで壁にかけられた絵画のようだった。
「綺麗だ」
目覚めてから初めて、そう感じた。
それと同時に、もっと近くで見たいと思った。無機質な部屋と対照的なその景色を、今の自分といつか元通りになった自分に重ねた。 そうなりたいという気持ちがひしひしと心の奥底から沸いてくる。
赤
聞こえるか聞こえないかくらいの声で精一杯に言った言葉は、俺の中では"元通り"への1歩だった。 ふたりをもっと知りたいと思った。
紫
水
頼もしく親指を突き上げる彼と、あれやこれや持ってくるものを呟いている彼。 ほっと緩んだ俺の顔を見て、立てていた親指を下ろして、これ以上に無いほどの満面の笑みを見せた。
紫
紫
水
今まで呼んでたあだ名であろう言い方で呼ぶことを提案される。距離がぐんと近づく気がして、乗らない選択肢は無かった。
赤
紫
水
「またね」と言いながら手を振り返す。記憶が無い俺に、その姿は鮮明に刻まれた。
初めてできた友達。記憶を無くす前の俺を重ねて喋る親等と違って、今の俺を見て喋ってくれた。それがたまらなく嬉しかったのだ。
赤
隣のペンを手に取った。 さっきの点の続きが書けそうだ。
赤
赤
深い深い眠りから覚めたような。そんな気分で目を開ける。人間とは思えないくらい重く感じる体は指1本も動かない。自身に「動かそう」という気が無いのかもしれない。
掠れた声は発声点から20cmも進まずに消えた。無力感が心のすみからすみへと広がっていく。
赤
まだぼやけている視界に映った無機質な白色の天井からそう呟く。1度瞬きをしてみると、少しもやが晴れてより鮮明に見えるようになった。
それでも天井はやっぱり無機質な白さを放っている。
赤
なぜここに居るのだろう。
そんな疑問がふっと思い浮かんだ。
ここに来るまでの記憶が無い。怪我なのか病気なのか、一時的にここへ来たのかずっと入院しているのか。眠った前の自分が頭の中に居ない。
そもそも自分ってなんだったっけ。
赤
隣にメモ帳があることに気づく。 柄のない赤色のメモ帳は無機質な部屋にやけに映えていて、詩的に言うならば、先の見えない雲の中を飛び続ける1匹の蝶みたいだった。
赤
赤をめくると、部屋の大部分を占めているのと同じ白が出てきた。1ページ目から何か文字が書いてある。筆圧が弱めのさっと書いたような字だが、「メモ」という感じでは無かった。
なんというか...ひとつのお話のような、大切なことのような、そんなことを綴っている感じがしたのだ。 お話というほど長く書いていないし、文章でも無さそうだけれど。
赤
・しょーちゃん 面白い 笑い方が独特 笑顔
赤
「しょーちゃん」とは?「しょーちゃん」という人物が、その下の3つの特徴を持っているという事だろうか。しかも「笑い方が独特」って...それを書くセンスがもう独特だと思う。
赤
・ほとけっち 字キレイそう 落ち着きがある たまに口悪い
なんだ一文目「字綺麗そう」って。抽象的すぎてなにも情報を得られない紹介文だ。さっきの「しょーちゃん」と言い「ほとけっち」と言い、適当すぎやしないか。
そもそも誰だ。芸能人?YouTuber?ティックトッカー?それとも身近な人?
赤
コンコンコンッ
ガラガラッ
赤
看護師
カルテのようなものを持ち、笑顔で喋りかけてくるナース服姿の女性。 看護師とみられる彼女を見て、自分が病院に居る理由を把握していない事を思い出す。
看護師
赤
ズキッ
赤
頭の内側を殴られたような痛みが駆け巡る。なにか、頭の中で暴れているような気がする。
反射的にギュッと閉じた目は、ゆっくり開けないと痛いくらいに強く閉じていた。
赤
赤
赤
頭の中で暴れていたものがスっと消えていく。 残ったのは「分からない」という現実を理解しただけのからっぽの頭だ。
赤
無音に戻った病室でメモ帳を開く。2ページしか埋まっていなかったそれは、2・3ページ増え、新たにメモされていた。
・俺・・・大神りうら ・記憶が無い→健忘症候群 ・事故に会った ・高一 ・一人っ子
などなど、今さっき医者や親から聞いたことがずらっと並べられている。 最初は本当の事なのかどうか疑ってかかっていたが、話がやけに生々しいせいで信じてしまった。
健忘症候群っていうのは逆行性健忘と前向性健忘の両者が見られるとかなんとか言っていた。 俺が理解した中で超平たく言えば、これまでの記憶は忘れるわ、新しい記憶は作れないわ、最悪な状態だ。
本当は昨日も起きていたらしいけど、昨日のことは何も覚えていない。 "今の俺"は今日目覚めたのだから。
赤
この「しょーちゃん」と「ほとけっち」というのは俺の友達だったらしい。 親からは「兄弟みたいなくらい仲がいい」と聞いた。
そんなに仲のいい奴を「笑い方が独特」とか「字がキレイそう」とか適当な特徴で紹介するのに対しさらに謎が浮かぶ。 いや、でも昨日の自分が書いたらしいし、友達の初対面のときの印象を書いただけ? それだとしても適当すぎるだろ。俺。
でもやっぱり、その2ページだけは特別に感じられた。今日俺が書いた文字と筆跡は一緒なのに、何かが違うと思ってしまう。
赤
自分に問うても分からない。
なぜ特別に感じてしまうの?
誰か教えてよ....
紫
紫
水
赤
「うむ...」とか唸りながら真剣な顔で考え込む真っ白な髪の男の子。と、昨日の俺が書いた適当な紹介文を見て呆れたような顔を見せる目が透き通った水色の男の子。
「しょーちゃん」と「ほとけっち」
当たり前のように部屋に入ってきた後、俺が昨日の記憶が無いことを伝えるも、一瞬固まってすぐ元通りに接してきた2人。この2人が俺のメモ帳に記されていた人達らしい。
記憶にないだけで友達だったとは言え、初対面の相手に変な相談をしている自覚はある。だけど本人なのだ。相談する相手はこのふたりくらいしか居ない。
紫
赤
言いかけて口が止まる。この言葉はふたりにとって傷ついてしまうかもしれないと感じたから。
「ふたりを何も覚えてない」なんて、言われたら悲しい。
赤
赤
水
水
紫
俺の一言に大袈裟と言うほど喜ぶ(特に初兎ちゃん)。 それを見てほんとに第六感だったらいいな、なんてことを思ってしまう。
なんにも、なんにも頭に無いのに。
水
紫
紫
悲しそうに笑う初兎ちゃん。昨日なにか約束でもしたのだろうか。ひどく辛そうな顔で無理に笑われると、申し訳なくなる。
医者が言ってた話が現実ならば、今の俺に昨日は無いし明日も無い。1日限りの自分なのだ。
「今日」だけじゃ、何も出来ない。
赤
赤
水
水
赤
水
水
水
赤
見透かした目をしてじっと見つめられる。ドクッと心臓が跳ねたのがわかった。 その言葉の裏に「逃げてるんじゃないの」という問いかけが隠れているような気がして、真正面を見れない。
ほとけっちのその言葉には説得力があった。ほんとに今ぽろっと出てきたものなの?ってくらい、俺の心に刺さってしまった。
赤
水
水
ほとけっちがリュックからなにかゴソゴソしだす。にゅっと出てきたのは、アルバムのようなものだった。
赤い表紙に金色の文字が連ねられていて、高級感がある。
赤
水
紫
「持ってこよなって話してたんよ」とほとけっちから卒業アルバムを受け取って表紙を向けてくる初兎ちゃん。 どうやら中学校のらしい。
水
赤
紫
水
紫
水
2人の掛け合いを聞いている俺に悪〜い顔で約束をするほとけっち。 確かにどちらかというと水色髪の彼のほうが部屋は綺麗そうだ。偏見だが。
紫
紫
赤
水
赤
それなのに、覚えてないのか。俺。
紫
初兎ちゃんがうきうきしながら赤色の表紙を開く。 次に白色のページをめくると、同学年であろう生徒たちが一同に校庭にピシッと 並び、それを上から撮った写真が広げられた。
水
赤
左上のほうから探していくが、意外と人数が多くて見つからない。自分の姿も学生手帳を見たぶりなので、難しい。
そんな中、メガネをかけた笑顔の男子に目が止まる。
赤
紫
紫
目の前にいる初兎ちゃんと違って黒縁メガネをかけている。「普通の中学生」って感じだ。 まぁ字の通り普通の中学生なのだろうが、今のハツラツとした雰囲気はメガネをかけていても変わらない。
赤
指でなぞって人の群れを進んでいく。
赤
前から2列目でへにゃっと笑っている。 2列目...ということは、ずいぶん背が低めみたいだ。
水
紫
赤
そのにやけ方は絶対バカにしてるだろ。
水
紫
パラパラっと勢いよくめくって探す初兎ちゃんとほとけっち。 俺が見させてもらっている立場だけれど、2人の方が楽しそうだ。
初兎ちゃんが「あっ!!」という声をあげて、ひとつの写真をビシッと指さす。
そこには、俺とほとけっちと初兎ちゃんのスリーショットが写真と写真の間を埋めるように乗せられていた。
ペットボトルを持ってピースしているほとけっちと、お土産らしきものを持っている初兎ちゃん。 その真ん中で2人の肩に腕を回し、花が 咲くような笑顔の俺。
紫
水
赤
楽しかったんだろうな。みんな弾けるような笑顔で笑ってる。特に俺。
沖縄の海なんて記憶にない。 このカメラのこちら側は誰が居たんだろう。お店でもあったのかな。 きっと暑くて、でも風が涼しくて__
赤
紫
限りない想像を無意識に広げていた俺の頭に、初兎ちゃんの大きな声が響く。
紫
水
紫
紫
「じゃあまたー!」と転けそうになりながら早足で部屋を出ていく初兎ちゃん。 ほとけっちが笑いながら見送って、こちらに向き直した。
水
赤
水
赤
水
カラカラ笑いながら卒業アルバムをめくっていくほとけっちだが、俺としては1対2より1対1のほうが緊張する。何となく怖い。
水
赤
水
ちょうど髪で隠れて表情は見えない。 けど、さっきまで軽快にアルバムをめくっていた手は不安そうに丸められていて、 声は同じなのに、別の人が喋っているような雰囲気だった。
質問のアンサーは考えずとも出てくる。
俺は__ほんとに君のことを覚えていないんだ。
赤
水
真昼の冬空のような色の髪を揺らすことなく、表情を見せずにベッドに突っ伏す。 布団越しに体温が伝わった。
さっきより手を強くにぎりしめているのが見てわかった。うつ伏せになって身を硬くすぼめる彼が、すごく弱く見える。 布団でこもる声で、独り言のように呟きはじめた。
水
水
赤
急な深刻そうな展開に戸惑う。
水
水
水
赤
絞り出すような声での悲しそうなカミングアウト。 相手は顔をうずめていてこちらを見ていないが、なぜか見知らぬ人からの針のような視線を感じる。 1ミリさえ動けない気分だ。
水
水
赤
水
「ごめんなさい」って言ったら、無理して笑って「僕こそごめん」と言うのだろう。 きっとその笑顔は俺にとって痛すぎるもので、彼にとって苦いもの。
あぁ...なんで会って1日なのに分かっちゃうんだろ。分からなかったら楽なのかな。
水
水
赤
水
水
バッとベッドから顔を上げて荷物をまとめるほとけっち。 ブレザーを羽織って腕を通す。
初兎ちゃんは着てなかった上着に気づく。 外の気温は寒いのだろうか。 今から寒い家路を帰っていく彼は、どんな気持ちで帰るのだろう。
水
水
赤
水
赤
水
水
赤
赤
卒業文集の表紙を見ると、「自分の宝物」というテーマが書かれていた。
ほとけっちのをこっそり見てみようか。 興味本位でほとけっちのページを探す。
赤
赤
ついさっきまで部屋にいた彼の卒業文集の題名に吸う息が止まる。
「宝物=親友」
始めのほうに「しょーさん」と 「りうちゃん」という字が見えた。
赤
「うん、また来るし」 「またねっ」
ほとけっちの言った言葉が脳裏をよぎる。 言われた瞬間は気にならなかった言葉を 振り返ってみると、違和感を感じた。
赤
彼はどんな気持ちで、俺に「またね」と 言ってくれたのだろうか。
赤
ベッドの上で丸くなる。 正解なんて、どこからも聞こえない。
自分でも探せない。
不便なこの頭が、たまらなく憎かった。
#1
第2話「弱虫同士」
キーンコーンカーンコーン
中学校に入学して2ヶ月。 廊下側の端の席で本を読んでいる中、騒がしい教室に時間を告げる音が鳴り響く。
生徒たち
生徒たち
生徒たち
紫
2ヶ月も立ってしまえば、クラスの中でのグループが大体確立してくる。 その速さは俺にとって想像以上だった。
俺はどこにも所属していない。 つまり、余り物だ。
小学生の頃から特に仲が良かった友達とはクラスが離れ、でも、それでもまだ仲良しで居れると思っていた。 気づけばその子は同じクラスの子とばっかり帰るようになっていたけれど。
音楽が好きなので小学校高学年くらいから「部活は吹奏楽がいいな」と考えていて、ある友達と一緒に入る約束をした。 けど、その子は違うところへ入部した。
紫
中学生からかけはじめたメガネ。 やけに視界が狭い気がして、苦しかった。
教室の隅で本読んで、手を挙げることもなくて、賑やかな声たちを聞きながら中学生が終わるのかな。
上手く生きるのは難しい。
ガラガラガラッッ(窓
紫
赤
赤
思わず窓と反対側に仰け反ると、廊下からひょこっと顔を出す男の子。 ポンパドールが似合っている赤髪の彼は、廊下でよく見る姿だった。
紫
赤
赤
紫
紫
急に本の話題を出されてびっくりする。 自分とは別の小学校の子でよく知らなかったが、一軍中の一軍で、本なんて読まないような人だと勝手に思っていた。
赤
紫
赤
赤
紫
ぐいぐいこられて返す言葉が小さくなる。 窓の壁に体重をかけて前のめりになりながら話す彼は、俺とはかけ離れたキラキラオーラが出ている。
赤
赤
机の名札を見て俺の名前を呼ぶ。
紫
赤
紫
紫
赤
赤
紫
教室を見渡すと、机につっぷしている(多分寝てる)稲荷ほとけが2列前に居た。 話したことは無いが、学級委員長なのは知っている。
赤
水
水
赤
水
紫
窓から身を乗り出している大神くんと横に仰け反っている俺を見てキョトンとした顔をする。 目をしぱしぱさせてこちらへ歩いてきた。
水
紫
名前を呼ばれて肩が跳ねる。 男子でそこまで喋ったことがない人を苗字の呼び捨てで呼ぶのはみんなそうだが、 名前を呼ばれることがあまりない俺には それだけでも刺激だった。
赤
水
紫
赤
赤
水
水
赤
水
気持ちのこもってない謝罪とがっくり項垂れながら呟いている愚痴に挟まれる。 俺はどうするべきなのだろうと考えていると、大神くんがバッと顔を上げた。
赤
紫
赤
水
紫
赤
赤
ぎゅっと窓越しに抱きつかれる。 人から「大好き」って言われたの、いつぶりだろう。いや、心から思ってるわけではないと思うけど。
水
赤
水
紫
水
紫
紫
赤
水
紫
水
別に何か話題があって呼んだわけではなかったのに、「なに?」と問われてしまった。
紫
水
水
水
赤
赤
紫
水
赤
赤
ガラガラガラッッ(窓
水
紫
水
紫
水
紫
水
水
水
紫
紫
紫
紫
眼科の帰り道。 家と学校の間にある神社へ足を運ぶ。 2ヶ月くらい前から、ここの前を通る時は必ず上まで来るようにしている。
親友が記憶喪失になってから約2ヶ月。 彼はやっと目を覚ましてくれた。ここでいつも願っていた思いを叶えてくれた。
初めて出会った中学生のあの日、最初は 「教科書せがまれる存在になるのかな」とかいう不安が少なからずもあったが、 彼らはそんな人じゃなかった。
休み時間も話しかけてくれて、部活の演奏会も見に来てくれて、休みの日にハイテンションでカラオケに誘ってくれた。
紫
そんな親友の1人が、交通事故で記憶喪失になった。しかも、一日で記憶がリセットされてしまうのだ。 でも、俺は起きないよりマシだと思った。
いむくんが言ったように、一日で最高の思い出を作ってやらなければという考えだ。 今度は俺があいつを支えなければ。
パンッ パンッ(手
紫
紫
紫
俺は医者でもなんでもないから願うことしかできない。 だからこそ、願いたいのだ。
俺の大切な人達の、幸せを願いたい。
ガラガラッ(ドア
紫
赤
紫
赤
紫
このやり取りを何度やった事だろう。 でも、だんだんりうちゃんの俺らへの抵抗が無くなってきている気がする。 日記をつけてるらしい。それを読み返してるからかもとかいむくんが言っていた。
水
紫
赤
紫
背中にかかっているものを下ろす。 それは学校のリュックではなくて、普段背負うことのないギターのカバーだ。 りうちゃん家から病院まで背負ってきたのだが、ちょっと新鮮で照れくさかった。
紫
赤
水
赤
紫
赤
赤
水
赤
紫
この親友、このビジュでこのイケボでこのスタイルでなんとギターまでしてるのだ。 モテ男かよ。いや、モテてるけど。 ギター弾いて歌っているりうちゃんのはじけた笑顔は破壊力抜群だ。
赤
紫
水
紫
紫
紫
赤
紫
水
赤
水
紫
ケースを引っ張ってギターを出していく いむくん。 みんなでベッドの横のソファに座って待機する。隣のりうちゃんも心做しかそわそわしているようだ。
水
赤
真紅のアコースティックギターを輝く瞳で見つめるりうちゃん。
水
赤
紫
ギターを構えたりうちゃんは、まさに 彼のイメージ通りって感じでかっこいい。 赤色のギターがよく似合っている。
赤
水
赤
赤
紫
赤
〜♪
ジャーンという音が部屋に響く。 ただ鳴らしているだけじゃなかった。 りうちゃんはちゃんと弦を押えて、コードを弾いている。
紫
水
ぎょっとした顔のいむくん。 少し面白い。
紫
紫
赤
紫
水
りうちゃんが下を向いて震えた声で呟いた。 りうちゃんを囲んでいる俺らは同時にりうちゃんを見て、声をかける。
赤
赤
紫
水
りうちゃんが思い出そうと目をぎゅっとつぶって頭を抱える。 「思い出しそう」とは分かったものの、俺にできることは特になく、ただ混乱する。
赤
赤
赤
紫
記憶喪失について何も知らないから、なにも言えない。 こんなに急に思い出しそうになるのだろうか。まぁ、ギター自体なにか思い出さないかと思って持ってきたものなのだが。
赤
そう言って一息吸ったりうちゃんの顔は、記憶喪失前にいつも見ていたギターを弾く時の顔と全く同じだった。 やっぱり彼は彼なんだと、実感する。
〜〜♪
かき鳴らされたギター。 それはまぎれもなく、俺の大好きな親友の音色だった。
軽快なサウンドが部屋に響く。 その音を奏でている本人の顔は、今日一番真剣で、いきいきしていて、 俺が中学の時助けられた顔と一緒だ。
水
紫
いむくんのつぶやきで気づく。 聞いたことあるメロディー。有名な曲だ。 よく3人でカラオケで歌っていた。 もちろん、りうちゃんのギターでも。
ちょうど歌詞が入るタイミングで、 いむくんが口ずさむようにして入る。
水
りうちゃんのギターといむくんの歌声。 昔からずっと好きな2つ。 俺の大切な、守りたいもの。
紫
重なるリリックとメロディーが、 部屋に響いて反響する。 そこは多分3人だけの世界で、外の秋風はひとつも吹かなくて、音楽だけ。 音楽だけで、心が繋がっている感覚。
3人での時間が戻ってきた気がした。
〜〜♪.....
赤
赤
自分の手をグーパーさせて戸惑う顔で 宙を見つめるりうちゃん。 いむくんはというと、歌えた感動なのか りうちゃんがギターを弾けた感動なのか、すんすん鼻を鳴らしている。 泣きそうな雰囲気だ。
紫
ソファに伸びをして感嘆の声を上げる。 こんなに楽しい時間、忘れかけていた。 ただりうちゃんと話せるだけで良かったなと思っていたのが、少し変わった。
きっともっと楽しいことができる。 記憶が無くても、病院の中でも、 いや、いっそ病院の外へ出てみてもいいかもしれない。 3人でなにかしよう。楽しいこといっぱい。
いむくんが最初に言ったよう、 その日その日のりうちゃんを幸せにしないと。俺が、いむくんを巻き込んで。
紫
紫
水
水
小さく震える息で言葉を紡ぐいむくん。 涙こそ溢れていないが、声はほぼ泣いていた。
赤
赤
紫
紫
彼は彼だ。間違いない。
俺の知ってる、彼のままだ。
紫
紫
水
水
南校舎西階段2階踊り場。 近くは空き教室ばっかで、先生も生徒も通らない俺らだけの場所。 別にやましい事があってここに集まっているわけじゃなくて、ただのんびり出来るという理由でここにいる。
...いや、それだけじゃないかも。
水
彼が教室で弁当を食べるのを嫌がったのは、ちょうど2ヶ月前だ。
紫
水
水
紫
思ったより大きな声が出る。 その声に驚いて、いむくんの肩がびくっと跳ねた。
水
紫
紫
水
きっと彼にとっては嫌な選択だ。 だって、2ヶ月間避けてきたところに戻れと言うのだから。 多分今、いろいろ考えている。不安そうに揺れる瞳を、箸を持った手を動かさずじっと見守った。
水
水
水
震えるうわずった声で、まるまった背中をさらにまるくする。 こちらを見る目が必然的に上目遣いに なって、怯えているように見える。 いや、実際彼は怯えているのだ。教室に。
いつもなにかと強気でタフないむくん。 特に記憶喪失になったりうちゃんの前ではとても気丈に振舞っていると思う。 本当は繊細で、弱虫で、仲間がいないと不安でいっぱいになるような奴なのに。
俺を見つめていた目が泳ぎ始める。 早く返事を返してやらないと、彼の中の 不安メーターはもう限界を超えそうだ。
...わかるよ、親友だから。
紫
紫
水
水
紫
紫
水
中学生のころは、俺がうじうじしてて りうちゃんといむくんが引っ張り出してくれた。 学年が上がるにつれて俺も人と喋るのが苦で無くなり、むしろ楽しいと思うようになったが、1年生の弱気な俺を救ってくれたのは同じクラスのいむくんだった。
気にかけてくれて、ペアを組んでくれて。 もしかしたらりうちゃんに「仲良くなりそうだね」言われたからかもしれないが、1年生が終わる頃には信じられる親友になっていた。
今、その図が逆になりつつある。 教室で浮いている彼を、俺が引っ張り 出して一緒に遊ぶ。 別に嫌じゃない。嫌じゃないけど__
紫
それがどうしても分からない。 他の友達とも楽しそうに話しているいむくんを見たい。 俺が必ずついてあげられるとは限らないし、俺も他の人から誘われることがあるから。
りうちゃんが居たら...きっと解決できちゃうんやろうな....
紫
2人を支えるって願ったのは、俺なのに。
水
紫
弁当を食べる場所も空き教室になって 1週間。廊下掲示された紙がぱたぱた秋風に揺れている。 久しぶりに「しょーさん」と呼ばれてドキッとする。いむくんは笑顔でこう言った。
水
紫
痛いほど自然な笑顔で、なんともないような声音で、驚きの提案をされる。 その笑顔の仮面に隠れた彼の本心が言葉とまったく一緒だなんて思えなかった。
紫
紫
必死に取り繕っても体には反応が出てて、背中から変な汗が止まらなかった。 俺、何をしたんだろうか。2ヶ月前からずっと変わらず振舞ってるはずなのに。
水
水
紫
なんでそんなになんともないような顔で 言うのだろう。 さすがに取り繕っていられなかった。 普段の顔で言われることが、なによりの 不安になった。軽い話題じゃない。
紫
水
水
紫
別に他の友達と食べたいから教室を提案 したわけじゃない。 なんでそう解釈されたのだろう。そんなこと俺が思うわけないって、分からないのだろうか。
いむくんの冷たい顔が俺の不安を煽る。 心做しか怒っているようにも見えるその顔は、俺を見ていなかった。
水
紫
ガシッ(胸ぐら
水
バサバサッ(教科書
勢いのままネクタイごとワイシャツを 乱暴に掴んでしまう。 けど、戻れなかった。頭にのぼった血は ぶくぶく沸騰して俺の思考を止めている。
紫
紫
周りがザワザワし始める。 足を止める人の視線が俺の背中に刺さる。 けど、目線はいむくんから離さない。 離したら、この弱虫は俺から逃げるから。
水
水
瞳が震えて今にも泣き出しそうないむくん。 胸ぐら掴んでる場合じゃない。 喧嘩してる場合じゃない。 分かってるのに口は止まらなかった。
紫
水
水
紫
紫
紫
言い切ってしまうと後は静かで、 上がった息と飛び出しそうな心臓の音しか聞こえなかった。 周りのざわざわなんて耳に届かない。
紫
紫
そっと手を離した。 乱れた服とネクタイを、ぼろぼろ涙を流しながら直すいむくん。 酷いことを言ったと、そこで気づいた。
床に落ちた俺といむくんの教科書を拾い集めて、俺といむくんのにきっちり分ける。 たまたまダブった筆箱。 今はそれを見るだけでも、心が痛かった。
紫
水
紫
その後にかけるべき言葉が分からなくて、 どう言えばこの状況を脱出できるのか分からなくて、 わからないから、そのまま人の間を縫って進行方向を進んだ。
逃げたんだ、俺は。
1番弱虫なのは、俺だった。
続く