心緒響命病

僕は大きく伸びをした

昼下がりの睡魔が襲う

隣のベッドではカエデが 目をこすりながら

これまで何度も読んで、ヨレヨレ になった単行本を片手に

こくり、こくり と、眠気と戦っている

頭を抑えながらカエデが言う

僕は俯きがちに目を伏せた

もう、今となれば笑えてくる

カエデはひょいっと ベッドから降りた

そして扉に近づいていく

僕らは渡り廊下を渡って、 普通病棟に足を踏み入れた

僕はただカエデの後ろを ついて歩いた

会う確率は低いが 会わない可能性が無い訳では無い

カエデは僕の手を掴んで

そのままどんどん廊下を 進んでいく

よろけた拍子に肩がぶつかる

女性がじっとこちらを見る

カエデが僕の腕をガシッと掴んで 少し早歩きで進んでいく

後ろを振り返ると

先程の女性と、看護師らしき人 が話していた

こちらを指して何か言っている

僕は耐えきれずカエデの 手を振りほどいた

胸を抑える

いつものことだけれど 未だに慣れない

カエデが廊下の角から顔を出して 周りの様子を見る

カエデは歩き出していく

振り返ると赤峰さんが立っていた

手招きをして、呼んでいる

僕だけの名前を呼んだので 僕に用があるのだろう

カエデが特別病棟の方に帰って いく後ろ姿を確認してから

僕は赤峰さんに近づいた

なんだか

嫌な予感がした

目の前の赤峰さんの顔が これまで見たことのないくらい

真剣な眼差しで

背筋がゾッとした

病室に戻ると

もう既にカエデの 機嫌は直っていた

なんだか声が上手く出ない

顔が、上手く笑えない

いつもなら 「なんでもないよ」って

平気な顔して言えるのに

僕はまともに立っていられない ような足取りで

ベッドに倒れ込んだ

声が凄く震えている

自分でも驚くくらいに

こんなにもショックを受けていた

話したいことが沢山あるのに

胸が締め付けられる

赤峰さんに聞かされた話を 思い出す

思い出したら

また胸がじんわりと 痛くなっていく

赤峰さんがカーテンを閉める

ここに来るまでも

ずっと真剣そうな顔だった

いや

暗い顔、だった

ドクン…ドクン

鼓動が速まっていくのを感じた

だが、胸の痛みよりも

カエデに関する、何の話なのか

その方がずっと気になった

予感が 的中した

僕は落ち着いていられなかった

胸の痛みが加速する

僕は足元を見た

3ヶ月…？いや、そこまで 長くはないだろうか

2週間…まさか……もう、すぐ…？

赤嶺さんは下唇を噛んだ

僕は会釈して部屋を出た