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八倉建一は、今日もノートを開いた。
そのノートには、菜々花にとって“存在しなかった思い出”が、またひとつ記されている。
2010年 6月 21日
君が校舎裏で泣いていたのを、僕は見た。
でも声はかけられなかった。ただ、そこにいたんだ。
君は誰にも気づかれず、泣いていた。僕だけが、その姿を知っている
多川 菜々花
多川 菜々花
菜々花の声は震えていた。
けれど、どこかに疼くような感覚があった。
八倉 建一
建一はそう言って、ノートを閉じる。
八倉 建一
八倉 建一
多川 菜々花
八倉 建一
八倉 建一
菜々花の胸が、締めつけられるように痛んだ。
彼の言葉が正しいとは思いたくない。
でも、自分の中にある“空白”は、否定できなかった。
場面は変わり、東京都内──
関本 泰一
関本泰一刑事が問うと、沙紀は小さく首を横に振った。
平重 沙紀
平重 沙紀
関本 泰一
平重 沙紀
平重 沙紀
平重 沙紀
関本はその名前を聞いて、眉をひそめた。
関本 泰一
関本 泰一
沙紀は驚いたように目を見開いた。
平重 沙紀
関本は首を横に振る。
関本 泰一
関本 泰一
同じころ、多川啓三は自宅の書斎で、古びた写真を見つめていた。
写っているのは、小学生くらいの菜々花と、ある若い女性。
その写真に添えられた手書きの文字。
こゆきちゃんお姉ちゃんと、ななか
啓三は写真を裏返し、机の引き出しにしまう。
その目はどこか、迷いとためらいを宿していた。
多川 啓三
彼は誰にも言えない記憶を抱えていた。
八倉家と多川家、かつての“つながり”を。
その夜、菜々花は眠れなかった。
ノートの中に書かれていた言葉が、脳裏を離れない。
君は、見られないことを選んだ
誰にも心を見せず、無かったことにしてきた
多川 菜々花
多川 菜々花
目を閉じたその奥で、またひとつ、過去の映像が揺れ始める。
雨の日、バス停、傘。
遠くに座る少年。目が合った気がした──