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八倉 建一
翌朝、菜々花が目を覚ますと、八倉建一は既に部屋の隅に立っていた。
部屋の空気は静まり返っていたが、何かが違った。
ドアの前に、小さなテーブルとカメラが置かれていた。
そのレンズは、まっすぐ菜々花の方を向いている。
多川 菜々花
八倉 建一
八倉 建一
八倉 建一
テーブルには紙が2枚。
1枚にはこう書かれていた。
思い出す。ノートを読み進める
拒否する。代償が発生する
多川 菜々花
多川 菜々花
建一は無言のままカメラのスイッチを入れた。
機械的な電子音とともに、赤い録画ランプが点灯する。
八倉 建一
多川 菜々花
菜々花は紙をにらみつけた。
この状況自体が異常なのに、なぜ“選ばされている”のか。
けれど、彼の言う「代償」が何を意味するのかは、わからない。
多川 菜々花
震える手で、彼女は「思い出す」に丸をつけた。
その瞬間、建一の表情がすっと緩んだ。
ノートの4ページ目を開くと、まるで安堵するように息を吐いた。
八倉 建一
一方──警視庁。
部下
部下
関本泰一刑事は、部下の報告に眉を寄せた。
関本 泰一
部下
部下
関本 泰一
部下
部下が机に置いたのは、古びた名簿のコピー。
10年前、ある子ども向け学習支援プロジェクトに、
“指導員・八倉小雪”と“参加者・多川菜々花”の名前が並んでいた。
関本の目が鋭くなる。
関本 泰一
部下
関本は立ち上がった。
関本 泰一
その夜。
ノートの記述には「小雪」に触れ始めていた。
姉は君を気に入っていた。
“あの子は心が強い。だけど、それが逆に危うい”って言ってた
多川 菜々花
菜々花の口から、その名が自然とこぼれた。
忘れていた。いや、忘れようとしていた。
多川 菜々花
ノートの記憶が、菜々花の脳をひっかくように叩く。
ずっと閉じ込めていた扉が、少しだけ、きしんで開きかけている。
多川 菜々花
八倉 建一
八倉 建一
菜々花の頭に、稲妻のように浮かんだイメージ──
雨の日、小雪と一緒にいた日。
そのとき、自分は確かに“誰かの名前”を拒んだ。
多川 菜々花
何かが、噛み合っていく。だが、その答えを探る前に。
八倉 建一
建一はノートを閉じ、静かに部屋を出ていった。
その背中が一瞬だけ、震えて見えた。
菜々花は机の上に残された録画カメラを見つめる。
多川 菜々花
何もかもが操作されている。
けれど、ほんの少しだけ。ほんの一瞬だけ。
“この男の揺らぎ”が、見えた気がした。
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