俺の隣に
触れられる距離に
俺の愛しい人がいた
だけどその体に
息はなかった
お前
俺
お前
俺
俺
軽く笑って返すと
お前
俺
ちょっとした天然な所 新しい発見で嬉しくなって
他愛ない会話に縋りたくなる
だって…毎日
意識の無い時間が 多くなっている気がするから
俺
俺
俺
お前
お前
薄く笑う彼女は
少し動揺したようにも見えた
俺
俺
お前
少しだけ沈黙が流れる
まるで彼女の死を 受け入れるような時間
彼女が目の前で 動いていることに
何故か泣きそうになる 自分がいて
思わず目を伏せた
お前
お前
いたずらっぽく笑う顔に
病人の弱々しさは無くて
………何で俺が 落ち込んでるんだろ
彼女がこんなにも明るいのに
と、自分が馬鹿らしくなった
俺
俺
揺らぐ提灯
櫓を囲む人々
綿菓子の甘い匂いが 鼻を掠める
お前
俺
お前
俺
翻る袖が煌めくみたいで
何処か儚くて美しかった
お前
お前
俺
俺
ふと隣を見ると
俺より遥かに多い 金魚を掬った器が見えた
俺
お前
俺
現状、彼女より多い人は 周りに居ない
金魚掬いの仕事が あったら向いてるな…
ま、そんな仕事ないけど。
なんてことを思いながら 金魚掬いを終えた
お前
お前
はしゃいだ声に乗せられて
俺は河川敷に座った
お前
俺
お前
お前
俺
お前
お前
俺
お前
口を膨らませる彼女
俺
俺
不満気な彼女の頭を そっと優しく撫でた
この時間がずっと 続きますように、と
縋るように願いながら
彼女の病気が
夢だと願いながら
お前
お前
俺
お前
俺
いつの間にか 頬が濡れていて
自分が泣いていたことに気づいた
お前
彼女が頬に触れて
俺の涙を拭ったから
その瞳が悲しげだったから
彼女に近づいて 力強く抱きしめた
ドーンッ
パチパチパチ…
抱きしめた瞬間 花火が上がった
お前
お前
俺
お前
俺
俺
お前
お前
自ら病気のことを話すのは
あの日 俺に話した日以来だと
心の何処かで感じた
俺
俺
俺
俺
俺
お前
耳のすぐ側で 彼女の声が聞こえた
何処か泣きそうで それでいて誇らしげな声
お前
お前
お前
彼女の言葉嘘はなくて
けれど、病気の進行の事は 否定していなくて
それが酷く悲しかった
一週間後
俺
お前
俺
お前
ソファーに横になっている彼女
それに近寄っても息はなくて
俺
俺
僕は彼女が起きるのを待った
俺
目の前の ソファーに横たわる彼女
まだ、息をしていない
朝になっていた
いつの間にか 寝てしまったようだ
俺
俺
俺
彼女の名前を呼んだ
けれど、一向に返事は無くて
彼女はどこにも居ない気がして
泣き叫んだ
あれからどんなことがあったのか
俺はよく覚えていない
ただ、彼女だけが
俺の世界から消えていった
彼女だけがどこにも居なかった
俺
俺
額縁の向こうの 彼女に語りかける
どこにも居なくて
だけど会いたくて
もどかしい想いに 胸が締め付けられたけど
それ以上に彼女がまだ好きだ
俺
俺
そう言って、写真の前に キキョウを置いた
俺
俺
永遠の愛を誓うから
俺
鼻がツンとして 目が熱くなった
俺
俺
お前とのいつもの言葉
それに答えるように
庭に咲いたリンドウが揺れた