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3 - 期待大

♥

481

2019年10月02日

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空。

遥か高く上に広がる空は

どんなに手を伸ばしても届かない

でも、今日だけは、

確実に手が届きそうな

気がしたんだ ────

お母さん

なんでこんな事もできないのッ!?

神咲 涼夏

ごめん....なさい

お母さん

颯汰は出来るのに.....

お母さん

なんであんたは出来ないの!

家に帰るごとに尽く浴びせられる怒号

もうそれが当たり前になってきた

お母さん

さっきから下ばっか向いてッ

お母さん

話聞いてんの!?

神咲 涼夏

うん.....

こういう時には適当な返事をしておいて

話を早めに切り上げておくのがベストな対処法

お母さん

もうあんたの顔なんて見たくもないわ....

母は大きなため息を吐き出しながら項垂れる

毎回、毎回、紙切れに怒鳴り散らして

よく飽きないね。

神咲 涼夏

......。

私は何も言わずに母の声が響いたリビングから出て行った

神咲 涼夏

うわッ....

やっと部屋に帰り、一息つこうとした私を

彼らの存在が邪魔をする

春樹

あ、お姉ちゃん!

声に気づき、ベットから飛び降りた弟は私に勢いよく抱きつく

神咲 涼夏

げふッッ....

お腹には無邪気な温かさが広がった

冬華

お姉ちゃん見てみてッ!

妹の方は握っていたクレヨンを床に落とし、紙を見せる

神咲 涼夏

すっごいじゃん!

仲良く手を繋ぐ6人

母、私、春樹、冬華、颯汰 だろう

冬華

ね!上手??

神咲 涼夏

うん、上手。

私は冬華の頭を思いっきりに撫でる

冬華

きゃははっ...!!

嬉しそうに笑う妹を見ていると、さっきまでの思いなんて

もうどうでもよかった

春樹

ねぇ、ママ

春樹

まだ怒ってる?

春樹はうるうるした目を覗かせる

神咲 涼夏

ママね、今疲れてるから....

神咲 涼夏

春樹たちがギューッてしたら元気になるかもね!

まだその、無邪気な笑顔を壊したくない

そんな自分勝手な考えから、私は誤魔化すように2人を抱きしめた

神咲 涼夏

いってらっしゃいっ!

2人の背中を軽く押して部屋から出す

春樹

いってきます!

冬華

いってきますっ!

ぶんぶんと元気よく手を振る2人を見送り、ベットに戻った

やっときた一人の時間

何より大好きなこの時間は本当の私が出せる

と思っている

神咲 涼夏

ほんと面倒。

これは弟たちにではなくて、母に対してだ

父がいなくなってからは毎晩のように泣いている

母の時間はあの日から止まっているみたい

だからってそんな怒らんでも....

って思うこともあるけど

母の言うことも一理ある

お母さん

【颯汰は出来るのに】

ほんとその通り。

私の二個下の弟の颯汰は簡単に言えば

「完璧」だ

勉強はもちろん、運動も出来ちゃう優れもの

オマケに謙虚だって忘れない

出○杉みたいな....? 感じ。

それに比べて私は

勉強、運動は全く出来ずに

他人の顔色ばかり伺って生きてきたようなやつ。

私は目を閉じた

母親からも必要とされなくなった孤独感から逃げ出すように

でもそれは逆効果で、

暗闇のなか、

途端になんともいえない感情が覆いかぶさってくる

「寂しい」

「悲しい」

「辛い」

「苦しい」

そんな簡単なモノじゃなかった

じゃあ、これはなんだろう

パチッ......

ふと、まぶたの先で電気が切れる音がした

この部屋はもう真っ暗なんだろう

神咲 涼夏

.......わびしい

やっと見つかった

私は今、「侘しい」のです

明日への希望も見いだせずに

力の抜けたまま進んでいく時間に

流されているだけの自分が

心底、嫌いだった

冷たい風が吹きつける屋上。

神咲 涼夏

い"ッ...!!

ガシャンッ....! と音を立て、私の頭はフェンスに打ち付けられた

クラスメイトA

あははッ...!!

クラスメイトB

もうへばってんの?

楽しそうに笑いながら私に近づいてくる

私は目を細め、睨みつけるように彼らを見た

クラスメイトB

何見てんだよっ...!!

神咲 涼夏

っ.....!

当たり前のように私の頬には彼の硬い拳がぶつかる

クラスメイトA

大丈夫ぅ?

心配などしていないくせに彼女は笑顔で私の肩に手を乗せた

クラスメイトA

いいことしてあげる。

ポケットからハサミを取りだし、わたしの首筋にあてる

ひやりと冷たい感触が伝った

神咲 涼夏

............

私は抵抗などしなかった

どうせなら、殺してくれた方が楽だから。

クラスメイトB

それはマズイんじゃねw?

止める気などさらさらないように

へらへら笑う

いつからか、笑顔がこんなにも皮肉に見えていた

クラスメイトA

「自分でやった」って言うだろ

彼女はより一層、ハサミを強く押し当てる

はいはい、言いますよ。

クラスメイトA

じゃっ、入刀〜!

清々しいほどの笑顔で彼女は私の首をうすく切った

ッ___

制服に私の血がつく

痛みは、、、感じなかった

自分でもびっくりするくらい

なんにも感じない

クラスメイトA

.....つまんな

痛みに怯えるザマを見たかったのだろうが

生憎、その光景は拝めないぜ☆

クラスメイトA

......チッ

軽く舌打ちをしたあと彼女は乱暴にハサミを抜く

神咲 涼夏

.......っ!

ほんの少しの痛みが走った

クラスメイトB

また遊ぼーね?

神咲 涼夏

ぃッ....!!

私の髪を掴み、床に投げ捨てたあと

足早に屋上を去って行った

神咲 涼夏

いてぇよぉぉっ!

彼らが去ってすぐ、私は髪を整え出す

神咲 涼夏

あーぁ、、、

神咲 涼夏

また怒られちゃうな

眉を下げながら制服についた血を手で拭う

でも、

神咲 涼夏

ん"んんんん〜!?

時すでに遅し

血はもう制服に染み込んでいた

神咲 涼夏

もぉ"ぉ"ぉ"ぉ"....

私は諦め、フェンスの間から下を眺める

部活動に励む生徒たち

帰り道、友達とじゃれ合う生徒

どちらも私は知らなかった

ふいに風でフェンスが カタカタ 鳴る

私は立ち上がり、フェンスに額をつけた

別にここで死んでみるのも

悪くないよね。

だって今までろくなことやってこなかったし、

1回 ここでリセットしてみようか

決心した私はフェンスをゆっくりのぼる

???

何やってんの

神咲 涼夏

うェッ...!?

誰かの声で地面に落ちた

神咲 涼夏

いたたたた......

強打した腰を擦りながら声のした方を向く

神咲 涼夏

うわぁーお、びっくり。

私は扉の前で立っている彼に目を丸くする

???

僕がここにいちゃいけないってルールあります?

面倒くさそうにため息をついた彼は弟の颯汰だ

神咲 涼夏

いや別にないけど。

でも颯汰がここにいるのはおかしい

神咲 涼夏

あんた部活は?

そう、今頃颯汰は部活という青春を謳歌しているはずだ

そんな奴が屋上に用なんてあるわけない

颯汰

サボった。

神咲 涼夏

はぁぁぁ!?

頭を悩ませる私と反対に、颯汰は簡単に言った

颯汰

質問は3回までね

颯汰はウインクしながら

あと2回だね。と笑い、ピースをする

神咲 涼夏

なんで?

神咲 涼夏

なんで屋上にいるの?

私は慎重に選んだ質問を颯汰に投げかけた

颯汰

さぁ...?

首を傾げながら颯汰はゆっくりフェンスに手をかける

颯汰

もしかしたら、姉ちゃんと同じ理由だったりして。

神咲 涼夏

は?

頭の悪い私には理解が追いつかない

颯汰

どうする?僕が先逝っていい?

神咲 涼夏

ちょっと待って。

フェンスをよじ登る颯汰を一旦とめた

颯汰

なに?

神咲 涼夏

........ッ

久しぶりに見た颯汰の笑顔は

無理やりに口の端を上げているような

笑顔だった

そんなふうに笑うやつだったかな

颯汰

聞いてるんですけど

少し苛立ちがこもった颯汰の声で言いたいことを思い出した

神咲 涼夏

私も一緒に飛ぶ!

颯汰

え、?

一瞬、躊躇いを見せた颯汰だが

颯汰

いいね。飛ぼうッ!

すぐまた、笑顔になり私の手を引いた

その笑顔は 本当 だって信じたい

神咲 涼夏

なかなか良くね?

颯汰

うん。「姉弟の心中」って感じ

私たちは並べた靴を見ながら言った

様になってんじゃーん

神咲 涼夏

あんたはさ、なんで飛びたいの?

頭をよぎった質問を口に出す

颯汰

それが最後ね?

しばらくの沈黙が流れていく

颯汰の顔は髪で隠れてよく見えなかった

颯汰

疲れたんだ.....

やっと絞り出した颯汰の声は「感情」がなくなっているようで

颯汰

「完璧」でいることに。

神咲 涼夏

ぇ....?

予想外の返答

私は思わず聞き返した

神咲 涼夏

で、でもっ...!

神咲 涼夏

いつも高得点だし、部活でもッ

颯汰

それに疲れたんだよ...

無気力な声を上げ、颯汰は髪を耳にかける

颯汰

周りからの「期待」、「期待」、「期待」で

颯汰

点を落としたりしたら、「がっかりした」

颯汰

もう うんざりだよ....

指の間から見えた颯汰の顔は

「あの顔」 だった

あぁ、そっか

颯汰をそんなふうにしたのは

私達だったんだね。

自分たちの期待だけを押し付けて颯汰を追い込んでたんだね

神咲 涼夏

ごめんね....

私は謝った

神咲 涼夏

無理させて、ごめん。

こんなことで颯汰の傷が癒えずとも、ただ謝りたかった

颯汰

姉ちゃんは悪くないよ。

颯汰は優しく頭を撫でてくれた

颯汰

それに、姉ちゃんだってそうじゃん

神咲 涼夏

え?

颯汰

「いじめ」にあってたんでしょ?

颯汰

助けてあげられなくてごめん。

私の頭に手を置いたまま颯汰は俯く

神咲 涼夏

気持ちだけで十分。

颯汰の手を取り、手を繋いだ

サッカー部は顧問に呼ばれ、校庭には誰もいない

飛ぶなら今だろう

颯汰

姉ちゃんはいじめの事実を伝えようとしないの?

颯汰が心配そうにこちらを見る

颯汰

ほら、「遺書」とか

私は靴に目をやった

確かに、遺書があれば彼らにとってはデカい傷になるだろう

でも学校側に隠蔽されて終了。

無意味になる

神咲 涼夏

ここから飛べればチャラかな...。

颯汰

えっ!?

颯汰は名残惜しそうに少しの間だけ説得をしていたが

それでいいなら。と前を向いた

神咲 涼夏

いちにの「さん」っ!

神咲 涼夏

で逝くか。

颯汰

おっけー。

颯汰は強く手を握る

神咲 涼夏

いちにの、さんっ..!!

私も手を握り返した

一瞬の無重力に身を任せ、私たちは風になる

さっきまでの恐怖なんてもう忘れた

今までの屈辱は向こうでの笑い話になる。

後は重力に従い、落ちるだけ。

胸が高鳴る中、私たちは顔を見合わせ笑い合う

「来世は愛させる子になれますように。」

ドチャッ..!!!

鈍い音だけが学校中に響いた

終わり。

飛び降りるのを止めるの書いたら、

そのまま飛び降りちゃうのもかきたくなりました。

この作品はいかがでしたか?

481

コメント

2

ユーザー

素敵でした。

ユーザー

面白かった。私も、こんなの描きたいなぁ!

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