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由天。
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朝、気怠い体を起こして目覚まし時計を止めた。
目を擦ってアクビをした後、ベッドから出てドアノブをひねる。
そのまま一階に降りてリビングの扉を開けると、
そこには朝ごはんを食べている妹が居た。
矢野 聖矢
矢野 結衣
テーブルに置かれた、サランラップが被さっている朝食を手に取り、レンジに入れて温める。
家には妹と俺しか居ない。
父さんは6年前に他界し、母さんは朝早くに出勤しているからだ。
この生活には慣れてきたのだが、気掛かりなことがある。
矢野 聖矢
矢野 結衣
そう、1年前から始まった妹の無視である。
原因は見当もつかない。思い当たる節が全く無いのだ。
昔はお兄ちゃんっ子で、あんなに仲が良かったのに。
もしや反抗期だろうか。
いや、そうだとしても俺には対処法が分からない。
そこでふと、母さんから告げられたお願いを思い出す。
『お父さんが居なくなって、母さん、仕事忙しくなるから…だから聖矢は結衣をお願いね……』
拳を強く握りしめる。
矢野 聖矢
そう小声で呟いた。
チーン、と電子レンジが音を立て、俺は朝食を取り出しテーブルに置いた。
矢野 聖矢
妹をチラッと見ると、俺から目を逸らすようにスマホを触りながらご飯を頬張っている。
……沈黙が流れる。食卓は静寂に包まれていた。
矢野 聖矢
重いカバンを背負い、玄関のドアを閉める。
しっかりと鍵を閉めて振り返ると、一人の女の子が待っていた。
秋原 楓
矢野 聖矢
幼馴染の秋原 楓だ。
家が近く、幼稚園の頃からよく遊んでいた仲である。
中学からスタイルや顔の良さが目立つようになったのだが、高校では化粧を覚えたのかより美人になっていた。
意識し始めたのは中三から。同じ高校を受験したくて、よく一緒に勉強し始めた辺りからだろう。
高校2年にもなって隣を歩いているということは、少しは期待してもいいかもしれない。
しかし、楓の容姿は高校でも人気で、性格も相まってか性別関係なく沢山の人と仲がいい。
それに比べ、俺は友達すら……いやそれ以前に……。
秋原 楓
矢野 聖矢
秋原 楓
矢野 聖矢
俺は学校で嫌がらせを受けている。
原因は些細なことだった。評判が悪いクラスメイトが楓にちょっかいを出していた所を、俺が止めたから。
楓には、自分を責めてほしくないため原因を話していない。
俺が我慢すれば、全部、丸く収まるんだ。 楓に危害が及ばないならそれで良い。
なので、学校では出来るだけ他人のフリをしてくれないか、と楓に頼んでいる。
最初、楓は表情を曇らせて拒否してきたが、お願いだからと懇願すると何とか頷いてれた。
心が痛かった。
しかしそれも月日が流れると慣れていき、幾分か心にも余裕が出てきた。
俺が折れずに学校に通えているのも楓のお陰だ。 楓がいれば、日々の辛さも耐えられる。
高校は家からかなり遠く、電車通学のため電車に乗るまではこうして一緒に通学している。
秋原 楓
そう言って楓はシャツの衿を手で持ってパタパタと動かしていた。
矢野 聖矢
秋原 楓
秋原 楓
笑いながらボタンを締める彼女を見て、俺は今日も頑張ろうと思えた。
ガラガラ、と教室の扉を開ける。
一瞬視線が集まったが、すぐに皆視線をそらした。
クスクス笑う声も、ただの会話も俺の悪口を言ってるんじゃないかという気分になる。
俺は深呼吸して前を向き、自分の席目指して歩き出す。
そこでいつものように嫌いな声が聞こえた。
西田 涼
俺は目を逸らして、何も言わなかった。
あれだけ会話をしていた周りのクラスメイトも、雰囲気を察してか黙り出す。
尾崎 陽太
怖い。
この恐怖にだけは未だに慣れない。慣れる気がしない。
尾崎 陽太
西田 涼
……勝手にしろ。
こいつらは嫌がらせをしてくる主な二人組みである。
楓に嫌がらせをしていたのもこいつ等だ。
ただ、こいつ等だけが俺に嫌がらせをしてくるわけでなく、クラス全体がそういう雰囲気になってしまっている。
俺は下を向いてそのまま自分の席についた。
机に落書きをするなどという典型的なイジメは無い。
当たり前だろう。嫌いなやつの為にわざわざ時間を費して落書きなんてするわけがない。
こうして憂鬱な学校が始まった。
しかしこの時はまだ、いつものように、少し嫌な思いをするだけで学校が終わると思っていた。
あんな出来事があるとも知らずに。
次の時間は体育だ。
体操服を持って一階の更衣室まで移動しなければならない。そのため鞄から体操服を取り出していた最中だった。
するとガコンッと重い音を上げて俺の机が横に倒れた。幸い、倒れた方向に俺は居なかったので怪我はないが、机の中にあった教科書が散らばってしまった。
西田 涼
西田 涼
嘘つけ。次が体育だからって授業に遅刻させようとしてるんだろ。
そう思いながら、床に広がった教科書を拾い集め始めた。
このまま放置して更衣室に移動してもいいのだが、体育が終わって教室に帰ってきた時に教科書が踏まれているかもしれない。
なので今片付けようと思った。
尾崎 陽太
西田 涼
笑いを堪えるように話しながら二人は教室を出ていった。
……ったく。まぁ、早く終わらせれば体育の授業には間に合う。
ふと周りを見るも、誰も居ない。教室には俺しか居なかった。
皆は既に更衣室に移動しているのだろう。
矢野 聖矢
……無言で教科書を集めている俺が、惨めに感じた。
ホームルームにて
クラスの皆は相変わらずガヤガヤ騒いでいる。
意外にも、今日受けた嫌がらせは体育の授業前のヤツだけだった。
少し気分が楽だ。
もしかしたらアイツらも、もう嫌がらせに飽きたのかもしれない。
自然と笑みが溢れた。
っていうか、今日のホームルームやけに皆うるさいな。いつもはもっと静かなのに……
担任
そう先生が言うと、教室は徐々に静まっていった。
担任
佐々木 夢
彼女の言葉にクラス中がざわついた。
俺も少し驚いていた。財布が無くなったって、結構深刻だぞ。
どのくらいお金が入ってたのかは分からないが、普通に犯罪だよな
佐々木 夢
佐々木 夢
佐々木 夢
そういえば、と、いつも嫌がらせをしてくるアイツらが体育の授業前にニヤニヤしながら出ていったのを思い出した。
……アイツらが犯人なのか? 普通にあり得るだろうな、あの性格だし。
いやでも流石にクラスメイトから取るなんて……そんな直ぐバレる事……
西田 涼
担任
西田 涼
佐々木 夢
西田 涼
………は?
尾崎 陽太
待てよ。
クラスの男子
クラスの男子
クラスの女子
クラスの男子
周りを見ると完全にクラスの連中は俺を疑っていた。
待ってくれ。
クラスの女子
クラスの女子
違う。
担任
言葉が出ない。
確かにあの時教室に残っていた。
何か、何か言わないとこのままじゃ……
矢野 聖矢
担任
先生はそう言って、俺に近づいてくる。
何でだよ。
なんだよこの雰囲気。
頭の中ではそう思うが、口には出なかった。
担任
先生は俺の机の横まで来ると、しゃがんで鞄のチャックを開け始めた。
大丈夫だ。俺は盗んでない。鞄の中に財布が入ってるわけ……
あっ、と体育が終わったあとに、あの二人だけがさっさと着替えを終わらせてたことを思い出した。
それと先生が鞄の中から、俺の知らない財布を見つけるのは同時だった。
担任
佐々木 夢
クラスの視線がおかしい。
疑問が確信へと変わったのを感じる。
胸がキュッと締め付けられた。
俺は視線から逃げるように下を向いた。
担任
佐々木 夢
先生が財布を渡して、教卓に戻っていく。
担任
あぁ、クソ駄目だ。
俺が何か悪いことしたのか。
なんで、なんで俺ばっかり。
目頭に大きな涙粒が溜まる。
視界がぐにゃぐにゃに歪んできた。
俺は歯を強く噛みしめ、とにかく我慢する。
なんで……。
どうすればよかったんだよ……。
そこで頭の中を過ぎったのは、幼馴染の楓だった。
……バレたくない。楓だけにはバレたくない。
楓にまで嫌われたら、俺はどうなるか分からない。
あぁ、もう、最悪だ。
なんとなく、あの二人は笑ってる気がした。