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放課後の道をひとり歩き、杏果は丘のふもとへと足を進めていた。
オレンジに染まった空が、少しずつ群青へと溶けていく。
その境目に立つたびに、彼を思い出す。
坂を登りきると、そこにはいつもの景色が広がっていた。
青い花々が、夕暮れの光を受けて淡く揺れている。
まるで祐紫の笑顔そのもののように、やさしい色だった。
杏果は花畑の中に入り、深く息を吸った。
風に運ばれる土と花の香りが、胸の奥を諦めつける。
綾海 杏果
呟いた瞬間、記憶の中で彼の声が蘇る。
──杏果、ほら。似合うよ。
あの日、彼はネモフィラを一輪摘み、杏果の髪にそっと挿してくれた。
無邪気に笑いながら。
その顔があまりにも照れくさくて、杏果は思わず素っ気なく返してしまったのだ。
『そんなの、子どもっぽいよ』
あの時の自分の言葉が、今も耳にこびりついて離れない。
最後に交わしたのは、あんな冷たい一言だった。
綾海 杏果
膝を抱えて座り込むと、涙が視界を滲ませた。
空と花の青が溶け合い、世界が霞んでいく。
どれだけ謝っても届かない。
それでも杏果は今日もまた、青に揺れる面影へと祈るしかなかった。