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桜舞い散る朝。
昨日までの寒気が嘘みたいに綺麗さっぱり消え去り、ようやく春らしい空気が訪れてきた。
中学二年生へと進級した風香は、目に入ったそばから幼馴染の“空鳥あおい”に挨拶を返したところで、早速昨晩の出来事を打ち明けた。
『流石にあおいちゃんでも、信じてくれないよね』と、どこか不安に思いながらも。
全てを話した後、風香はどこか気がかりそうな面持ちになる。
その内容に、思わずあっけらかんとするあおいだったが、否定はしなかった。
…できなかった。
何せ、彼女も瓜二つな体験をしたのだから。
闇夜の中、シルバーアクセサリーが鋭く煌めく。
漆黒と深緋を基調とした衣装を纏い、鞭を手にした人物があおいの瞳に映っていた。
しかし、刺々しい装いながらも、眼差しと声は凛々しく正義感にあふれていた。
その表情と声に、あおいはデジャヴを感じた。
容姿端麗、品行方正。 そんな言葉がよく似合う、とても憧れていたあの人…
“花多山朱梨” 。
風香も思わず目を丸くしたが、その目はすぐに、ギラつく羨望の眼差しへと変わる。
握り拳を作りながら上ずった声を上げる風香。
真っすぐな瞳で信じてくれた彼女に、あおいはホッと一安心。
あおいも、風香の言葉にうんうんと頷き、恍惚とした表情を浮かべる。
ぐぎゅるるぅ
風香の言葉を遮って、腹の音が鳴り響いた。
頬を染める風香に、あおいは控えめに笑った―――が、
ぐぅるるるぅ
今度は、そんなあおいの腹も呼応した。
カッ、と顔を赤くさせる風香を見て、申し訳無さそうにあおいは伝えた。
あおいがそう言った途端「えっ!?ホント!?あおいちゃん、マジ最高!」と、飛び上がって喜ぶ風香。
あおいがカバンを漁りはじめ、風香は目を輝かせてその様子を見守る。
そんな二人の間に、ふと、風に乗って、何か一枚の紙のようなものがふわりと舞い降りてきた。
風香は舞い降りた紙をぱっと掴むと、軽く埃を払って広げてみせた。
そこには、愛らしい宝石や雫のイラストと、手作り感あふれるエレガントな飾り文字でこう書かれていた。
『AMETRINE ―夢を叶える喫茶店。本日、特別ご招待』
あおいが言いかけた、その時だった。
不意に、チラシに書かれた宝石のイラストが輝き始めた――かと思うと、視界がまばゆい光に包まれた。
ここに二人は、もういない。
コメント
3件
ついに第1話 無事出来たんですね!