伍代
――五女だ。人魚姫のひとつ上の姉貴。
伍代
あんたが選んだ登場人物はな!
伍代
(小癪な小細工をしてくれたみたいだが、俺には通用しない)
伍代
(あんたの考えは分かってんだよ)
だからこそ、絞り込んで答えを二択にし、確信を持って答えたのだ。
伍代
あんた、この勝負の最中、二度に渡って髪の毛を触ると言う行為をしている。
伍代
一度目は【人魚姫が当たりなんじゃないか】って聞いた時。
伍代
二度目は【一宮のほうが強いんじゃないか】って聞いた時だ。
伍代
どちらも答えを濁した感じだったが、あんた――なにか図星なことを言われると、それを誤魔化すために髪を触る癖があるんじゃねぇか?
伍代
となると【人魚姫が当たり】ってのが図星ってことになる――俺にそう思わせ、人魚姫を指名させるのが、あんたの策だったんだよ。
七星
さっきから、なにをごちゃごちゃと言っている?
伍代
……くくくっ、無駄無駄。
伍代
今さらそんな風に設定を作ったところで、俺の答えは変わらねぇ。
伍代
あんた、勝負の途中から、急に髪の毛を触る仕草を見せ始めた。
伍代
序盤では揺さぶりをかけた時になかった仕草が、途中から頻繁に確認できるようになったんだ。
伍代
まるで、意図的にそう見せているみたいにな。
伍代
つーまーり、あんたはありもしない癖を作り上げ、それを俺に気づかせて【人魚姫】に誘導しようとしたんだ。
伍代
なら答えはその逆を行けばいい。ゆえに【五女】が答えになる。
四ツ谷
何でもかんでもお見通しってことか。
伍代
お、モブのくせに分かってるじゃねぇか。
伍代
どうよ、この俺の観察眼。
伍代
お前らだったら絶対に【人魚姫】って答えてただろ?
一宮
あぁ、そうだな。
四ツ谷
まぁ、姐さんがそれくらい捻くれてるのは知ってるんで。
七星
酷い言いようだな。
七星
四ツ谷、ジャッジを。
四ツ谷
あー、伍代。
お前、外れ。
四ツ谷
散々喚いていたけど、まんまと姐さんの策に引っかかったな。
四ツ谷
正解は……【人魚姫】だ。
伍代
は?
伍代
いやいや、ちょっと待てよ。
伍代
だったら、あの露骨な演技は?
伍代
明らかに俺の視線を意識した大根の演技は、なんだったんだ?
七星
大根とは失礼な。これでも精一杯演じたつもりなんだが。
七星
幼い頃、学芸会で白雪姫をすることになったんだが、途中で白雪姫役を降ろされたことがあってな。
七星
その時は解せなかったが、ようやく分かった。
七星
どうやら、私は演技がわざとらしいようだ。
伍代
いや、待てよ!
伍代
もし、俺が真に受けていたらどうするつもりだったんだ?
伍代
図星なことを指摘されると髪を触る。それが本当にあんたの癖だと思って、素直に【人魚姫】って答えていたらどうするつもりだったんだよ!
七星
貴様なら、私の仕草を必ず疑ってくれると思っていた。
七星
私の仕草の不自然さに気づき、そこから今の答えに辿りついてくれると信じていたんだよ。
七星
まぁ、さっきの質問で答えを五女と人魚姫に絞り込んだ時点で、ほぼ確信していたんだがな。
伍代
確信……だと?
七星
もし、貴様が答えを【人魚姫】だと思っていたのなら、もっと賢く絞り込みをしたはずだ。
七星
例えば――【その人物に妹はいるか】と問えば、一発で【人魚姫】までの絞り込みができた。私が【ノー】と答えたはずだからな。
七星
だが、それをせずに、中途半端に五女と人魚姫の二択にまで絞り込んだのは、答えが人魚姫以外だと疑っていたからだ。
七星
私がどう答えようとも、最悪でも長女から四女の四択まで絞り込めた。
七星
この絞り込みをしたことこそ、貴様が【人魚姫】以外の答えを視野に入れていた証拠なんだよ。
伍代
はぁ?
伍代
マジかよ!
伍代
ふざけんじゃねぇぞ!
伍代
俺がこんなところで負けるわけがねぇんだよ!
伍代は悔しさのあまり、その場に仰向けになって、おおいに駄々をこねてやった。
伍代
こんなやつらに負けてたまるかよぉぉぉ!
喚き叫ぶ伍代をよそに、四ツ谷がポツリと七星に問うのが見えた。
四ツ谷
単純な興味なんだけど、姐さん学芸会で白雪姫降ろされた後、何の役やったんだ?
七星
それを聞くか?
一宮
あぁ、それは俺もちょっと興味がある。
七星
……道端の木Bだ。