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塾の帰り道。
自転車で家まで走っていた私は、どこからか聞こえてくる鳥の声に気がついた。
それも1匹や2匹ではない。
物凄い数である。
そのまま道を走り続けると、だんだん声は大きくなった。
鳥の声は、住宅街の中にある、小さな林の中から聞こえていた。
林の前に着いた私は、自転車を止め、林に近づいた。
途端、私は強く思った。
『中に入りたい』
それが好奇心からきているのかは分からなかったが
近づけば近づくほど、その思いは強くなっていた。
だが、それとは別に、もう1つの思いも、確かにうごめいていた。
それは
『ここに入ってはいけない』
というものだった。
この思いについても、何故そう思うのかは分からなかった。
私の心の中の何かが、林に入るのを引き止めていた。
入るか、入らないか。
私は迷っていた。
しばらくそうしていただろうか。
突然後ろから話しかけられ驚いたが、
何故か振り向けなかった。
心臓の音がうるさい。
誰なのかはおろか、年齢や性別すら分からない声。
私は迷っていた。
入るか、入らないか。
鳥達の声が、だんだん大きくなる気がする。
声は聞こえるのに、姿は1匹も見えない。
まるで木が鳴いているようだ。
入るか、入らないか。
鳥達に、後ろの誰かに、急かされているようだ。
私
入るか、入らないか。
私
私
思ってもいないことが口に出た。
その言葉から、感情は汲み取れなかった。
私は思い切って振り返った。
誰もいなかった。
急いで自転車に乗った。
その瞬間、鳥の声は聞こえなくなった。