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廃クラブでの決戦から丸2日が経ったある日。
放課後に三国から連絡が入った。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
俺は荷物をまとめて教室を出る。その時に、
香月七瀬
後ろから話しかけられ、俺は振り返る。妙に渋い表情の香月が立っていた。
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
思わずため息が出てしまう。
香月の人となりについてはきちんと話していたというのに、どうして誘ってしまうのか。
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
俺は香月を連れて、中央棟の4階まで向かう。
階段を上ったところで、しかめっ面をした優紀と出会った。すぐそばには四宮も立っている。
四宮沙紀
香月七瀬
四宮は香月を見るやいなや、嬉しそうに彼女に駆け寄る。
五代優紀
一方優紀は、不満感を隠そうともしない。ポケットに手を突っ込み、ただただ黙って突っ立っている。
この前のしおらしい態度から、すっかりいつものアイツに戻ってしまったみたいだ。
一條恭平
香月七瀬
香月に先導されて、俺たちは廊下を歩き始める。辺りには人っ子一人見当たらない。
中央棟には移動教室で何回も来てるが、4階まで上がったのは初めてだ。どんな教室があるのかと思っていたが……。
【多目的会議室4ー8】
【多目的会議室4ー7】
……どの教室も、だいたいこんな感じだ。俺は香月に尋ねる。
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
思わずため息が漏れ出てしまう。三国が俺たちを呼び出した理由は、もはや聞かずとも分かる。
その内に俺たちは、会議室の4ー4の前に着く。香月が扉をガラガラと開けた。
中はがらんどうの空き教室だ。会議室とは名ばかりで、机も椅子もほとんど置かれていない。
唯一、中央に円形で6つの椅子が置かれている。
内2つは既に埋まっている。1つはもちろん三国。足元に妙な紙袋を置き、手ぐすねを引いて俺たちを待ち構えている。
そしてもう1つは……。
一條恭平
二葉桐男
松葉杖を下に置いて、二葉が深く腰掛けていた。右足はまだ包帯が巻かれているが、一応元気そうだ。
三国綾乃
立ち上がった三国に招かれ、俺たちはぞろぞろと入室する。
……と思いきや、俺に着いてきたのは四宮だけ。優紀と香月はどちらも、扉の前に固まっている。
三国綾乃
五代優紀
香月七瀬
三国綾乃
三国に急かされ、2人はようやく教室に入ってくる。
それぞれ空いている席に座ったところで、三国が2、3咳払いをしてから話し始めた。
三国綾乃
三国綾乃
五代優紀
香月七瀬
三国綾乃
至って平常運転の2人に、三国は憤る。
四宮だけは『そ、そうなんだ〜……』と、バレバレの演技で驚いてあげていた。
三国綾乃
三国綾乃
そこで咳払いを1つしてから、三国は真剣な雰囲気で話し始めた。俺は自然に背筋が伸びる。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国の言葉を聞いて、俺はほっと胸をなでおろした。あの生霊たちもこれで報われることだろう。
香月七瀬
三国綾乃
すっと立ち上がった香月を、三国はすかさず引き止める。香月は少し困ったようにため息を付いた。
香月七瀬
香月七瀬
言葉を選んでいるのか、少したどたどしい口調の香月。
本当はハッキリと拒絶したいところだが、窮地を救ってもらった手前、そうもいかないのだろう。
三国綾乃
三国綾乃
五代優紀
三国綾乃
三国は香月に対して、柔らかい笑みを浮かべた。
……俺は妙な胸騒ぎを感じた。前から三国の笑顔は苦手なのだが、今日は特に不安が募る。
香月七瀬
香月は安堵の表情を浮かべた。その途端──。
三国綾乃
三国の顔から笑みが消え、険しい表情になる。突き放すような態度で、硬い視線を彼女に向けた。
香月七瀬
三国綾乃
三国綾乃
三国が静かに呟いた瞬間、場の空気は凍りついた。
一條恭平
五代優紀
四宮沙紀
彼女の発言が信じられず、俺たちは口々に戸惑いの言葉を吐き出す。
唯一、二葉だけは何も言わず、若干緊張した面持ちで、中央に立つ三国と香月を黙って眺めていた。
香月七瀬
怒りが滲んだ声色。香月は眉間にシワを寄せて、三国をにらみつける。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月の怒りはヒートアップし、最後には目を見開いて怒鳴り散らす。
三国綾乃
そんな彼女を、三国はまるで他人事のように白々しくなだめすかす。
普段の礼儀正しい態度からかけ離れた、怒りに満ちた雰囲気で、香月はドカッと椅子に座った。
三国は自分の椅子に戻り、ゆっくりと腰掛けてから、話し始める。
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
香月七瀬
不満を隠そうともせず、香月が刺々しい口調で尋ねる。
生霊についての話は、香月以外は全員分かっていた。
優紀と四宮はもちろん知ってるし、ずっと休んでいた二葉も、決戦の日の翌日に、俺が詳しい事情を説明したのだ。
三国は足元に置いてあった紙袋から、四宮と優紀から返してもらった護符、それと御札の貼られた小さな小箱を取り出した。
三国綾乃
三国は小箱を開けて、中の形代を香月に見せる。すぐに蓋をして形代を封じた。
三国綾乃
香月七瀬
いくらか怒りが冷めた香月は、吐き捨てるように否定する。
二葉桐男
二葉はやや冷たい態度で言い放った。香月の身体がかすかに揺れる。
二葉桐男
二葉桐男
二葉桐男
香月七瀬
険しい表情の二葉を見て、香月がそっぽを向いた。
三国は護符と形代を仕舞い、話を続ける。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
香月七瀬
香月七瀬
香月の反論が始まる。彼女は高圧的な口調で三国を問い詰める。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
香月の推理に内心同意する。妙な考えを働かせるより、相沢が生霊を誘導した犯人だと考えた方が、よほどすっきりする。
香月七瀬
香月が再びヒートアップする。彼女の怒りは実に最もだった。
……ただ、その一方、俺は2つほど心に引っかかることがある。
1つは、生霊を目にした相沢の反応だ。
あの霊たちが相沢を襲ったのは、奴が廃クラブの事務室で持っていた護符を落としてしまい、効力が失われたからだろう。
だがあの時の相沢はどう見ても、目の前の事態が飲み込めていない様子だった。
落としたことを悔やむような素振りは一切なかったし、あの状況で俺たちを欺いたとも考えられない。
それにもう1つ……形代が仕込まれた携帯のことだ。そもそもあの携帯は……。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国は憤る香月をまっすぐ見つめて、説き伏せるように、彼女に話す。
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
ガシャアン!!
三国綾乃
荒い物音と、三国の短い悲鳴が、ほとんど同時に響く。
にわかに立ち上がった香月が、座っていた椅子を三国に思いっきりぶん投げたのだ。
香月七瀬
顔を真っ赤にたぎらせ、香月は喚き散らす。直後に勢い良く走り出し、三国に掴みかかろうとする。
俺と優紀が慌てて立ち上がり、彼女を制止する。
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
五代優紀
2人がかりでなんとか宥めすかす。俺は中央に転がった椅子を元の場所に戻し、香月に座ってもらう。
三国は椅子がぶつかったのか、額から血を流していた。
三国綾乃
こうなることは想定していたのか、紙袋から小さな救急箱を取り出し、慣れた手付きで治療を始める。
二葉桐男
四宮沙紀
俺たちの様子を、二葉はただ黙って眺めている。四宮は三国の推理が衝撃だったのか、血色をなくした顔で座り込んでいた。
香月七瀬
香月七瀬
再び掴みかからんばかりの勢いで、香月は怒号を浴びせる。俺たちはまた立ち上がり、彼女を宥めた。
五代優紀
香月の怒りを鎮めた後、自分の席に戻った優紀が口を開く。
五代優紀
前かがみになった優紀は、三国に向けてドスの利いた声を放つ。
止めたとはいえ、アイツも友人を犯人扱いされて、かなり頭に来ているのだろう。
三国綾乃
三国は小さなため息を突く。
ふと二葉の方を見ると、彼女の態度に怒りもせず、どこか物悲しい雰囲気で佇んでいた。
三国綾乃
額の治療を続けながら、三国が話を切り出す。
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
手当てを終え、救急箱を紙袋に仕舞った三国は、代わりにファイルを取り出す。
中から何枚かのA4用紙を引っ張り出して、俺たちに一枚ずつ配った。
善良な生徒たちを食い物にする卑劣な悪漢に告ぐ
自分は貴様に傷つけられた被害者たちの代弁者である
自分は貴様がこれまでに犯してきた悪行を決して許さない
下記に記す数々の被害者から、貴様の悪行の詳細を伺っている
彼ら彼女らの証言に加え、一部の被害者からは信頼のできる証拠も預かっている
全てを白日の元に晒し、貴様に法の裁きを下す腹づもりである
しかし、貴様が被害者たちに誠意を示すのであれば、その限りではない
誠意の証として二百万を指定の日時までに下記の場所に用意するのであれば、この件は不問にすると全員から承諾を受けている
貴様が取る道は2つに一つである 熟慮されたし
正義の代弁者より
……中央には指定の日時と場所が、そして告発文の下部には、奴が起こしたのであろういくつもの事件の詳細が並んでいる。
被害者のイニシャルや、発生現場・時刻、そして事件の詳細……
ただし、優紀の事件と思わしき箇所は、イニシャルが四宮のものだった。
一條恭平
俺は言いようのない負の感情を覚える。
文面こそ正義の味方を気取っているが……やっていることはただの脅迫だ。
要は、今までのことをバラされたくなければ金を持ってこいと脅しているのだ。
正式なやり方なんて知らないが……本当に被害者たちの代弁者なら、きちんと弁護士を雇って、まっとうな方法で慰謝料を請求するはずだろう。
よく言えばダークヒーローのような……あわよくば、奴の悪行にかこつけて私欲を満たしたいかのような、ドロついた意思を感じた。
三国綾乃
三国綾乃
香月七瀬
香月は怒りを隠そうともせず、右手の手の甲でパンパンと紙を叩いた。
香月七瀬
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月は語気を荒げつつも、理路整然とした調子で反論する。
確かに彼女の言う通り、こんな怪文書じみた告発文が本当だとは信じられない。
だが……あの高慢な男が、そんな情けない演技をしてまで、予防線を張っておくだろうか? 俺は疑問に思った。
三国綾乃
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月はまた語気を強める。俺はいつでも飛び出せるように身構えた。
香月七瀬
香月七瀬
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
香月七瀬
一條恭平
また怒りを顕にする香月を、俺はなんとか制した。
一條恭平
香月の怒りをそらそうと、俺は話を変える。
一條恭平
一條恭平
三国綾乃
三国は紙袋から3枚の護符を取り出し、うち2枚を膝の上に置く。
置いた2枚は先程も取り出した、元々彼女が用意した護符。残り1枚が俺たちが事務室で見つけたものだろう。
俺が持っていた護符は、あの後三国に渡していたのだ。
一條恭平
三国綾乃
三国は俺が渡した護符を、ひらひらと振って見せつける。
三国綾乃
三国綾乃
香月七瀬
香月は額に青筋を立てて、まっとうな反論をぶつける。
だが、三国は平然とした態度で、スカートのポケットに手を突っ込む。
三国綾乃
三国綾乃
三国は持っていた護符を膝の上に置き、再び紙袋に手を差し入れる。
三国綾乃
スッ……
一條恭平
俺は目を見開く。三国はなんと、膝に置いているのと同じ護符を、十数枚近くも取り出したのだ。
ビニール袋に入れられたそれらは、どれも俺たちが持っていたものに比べて、何かで押し潰されたように平べったく、不自然なシワが付いている。
四宮沙紀
五代優紀
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
四宮沙紀
彼女の隣の四宮が、焦った顔で口を挟んだ。
四宮沙紀
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国はふふっと笑い、いたずらっぽく呟く。その一言でようやく答えが分かった。
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
五代優紀
香月七瀬
大量の護符を前に、香月はなんの反論もせずに押し黙っていた。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国は言葉尻で、香月を力強く名指しした。
生霊が相沢たちを襲わなかったのは……奴等の靴に、護符が仕込まれていたから。
そう考えると、生霊の行動原理がはっきりしてくる。
一條恭平
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
三国と視線を合わせずに、床の方を見たまま、香月は言い返す。だが言葉の調子は、どこか弱々しくなっていた。
三国綾乃
香月七瀬
香月七瀬
三国綾乃
三国綾乃
香月七瀬
だが、三国の言葉には逐一反論する。疑いは濃くはなっているが……確証と呼べる段階ではないのは確かだ。
三国綾乃
三国は膝の上に置いておいた護符を掴み、大量の護符が入ったビニール袋と一緒に椅子の下に置き、また紙袋に手を差し入れた。
一條恭平
ガサッ
次に三国が取り出したのは、一足のスニーカーだった。
ピクッ
香月の身体が跳ねた。一瞬だけだが、確かに……。
五代優紀
優紀がすぐに反応する。確かにアレは、彼がいつも履いている靴だ。
三国綾乃
三国はくるりとひっくり返す。念入りに汚れを落としたのか、裏側はとても綺麗だ。
五代優紀
三国綾乃
三国綾乃
三国は土踏まずの部分に指をかける。彼女の細い指が、ソールに食い込んだと思った瞬間──。
ポンッ
小気味良い音を立てて、ソールの一部が抜け落ちた。
五代優紀
優紀の不審な声。三国は優紀の靴の裏から、正方形の形に、ソールをくり抜いたのだ。
三国綾乃
三国は優紀の靴を持ち上げ、裏を俺たちに見せつける。
ソールがくり抜かれ、ポッカリと空いた四角い穴には……。
黒くて四角いプラスチックの板が、ぴったりと当てはまる大きさではめ込まれていた。
一條恭平
俺たちは揃って訝しむ。
……唯一香月だけが、目を伏せて小さく縮こまり、明らかに動揺している。
顔は真っ青になり、最早はっきりと見て分かるほどに、身体を震わせていた。
三国綾乃
三国綾乃
三国はソールの穴に指をかけ、器用に板……スマートタグとやらを取り出す。
三国綾乃
五代優紀
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
まるで現場を目にしたかのように、三国はそう断言する。
三国綾乃
刺々しい声。淡々としていた三国の雰囲気が、一気に物々しくなる。
対照的に、今まで激しい怒りを見せていた香月は、酷く憔悴しきっていた。
香月七瀬
三国と目を合わせず、震えた声で否定する。
三国綾乃
香月七瀬
耳を突くような金切り声。三国以外の全員が、一斉におののく。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
指で挟んだスマートタグをかざしながら、三国はわざとらしい口調で香月を追い詰める。
一條恭平
信じられないと思いつつも、その事実を証明するかのように、今までの記憶の中で、香月と交わしたやり取りが浮かんでくる。
以前香月に、四宮との出会いを聞いた時、彼女はこう答えた。
香月七瀬
廃クラブで香月を助けた時、どうやって優紀を見つけたのか尋ねて、彼女はこう答えた。
香月七瀬
なんとも思わなかったあの時の返事が、今は意味深に感じる。
偶然、たまたま……そんなものではなく、『意図的に』優紀の後を追っていたのではないか……そう思えてしまう。
香月七瀬
俺の疑念は、震える香月の声で、当たっていたことが証明された。
太ももに肘を突き、頭を抱え、誰とも目を合わせずに、彼女は吐き出す。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
顔をガバッと上げて、何の言い訳にもならない言葉を吐き出す。
憔悴している彼女に対し、三国は言い聞かせるように、丁寧に話し始めた。
三国綾乃
香月七瀬
三国綾乃
三国綾乃
四宮沙紀
四宮は既に、三国の言い分を疑っていないようだ。
肩を細かく震わせ、怯えた眼差しを香月に向けている。
四宮沙紀
香月七瀬
ガサッ
香月が否定の言葉を吐いた瞬間だった。
紙がこすれる音。全員の視線が、三国に向けられる。
彼女の顔は、無表情になっていた。先程まで香月に向けていた情けは、一切見られない。
彼女が取り出したのは──モニターのリモコン。
ピッ
彼女はそれを会議室の奥に向けて、左上の電源ボタンを押した。
部屋の隅に置いてあったモニターが、瞬時に点灯する。
写っていた映像は……明学の、どこかの校舎の、昇降口。
それを理解した時、俺はすぐに立ち上がり──優紀の元に向かった。
香月七瀬
直後、香月の悲鳴が響き渡った。
彼女は三国に飛びかかる。
三国はなすがまま、香月にリモコンを奪い取られた。
香月はその足で、モニターの前まで走っていく。
ガチガチとここまで聞こえる音で、リモコンの停止ボタンや電源ボタンを押しているが──全く反応しない。
俺はその間に、優紀の前まで来ていた。三国が何を見せようとしたのか、すぐに分かったからだ。
香月七瀬
半ばパニックになりながら、香月は闇雲にリモコンを操作する。
その間にも、モニターには動かぬ証拠がありありと映し出されていた。
……無人の昇降口で、どこかの下駄箱を漁っている、彼女の姿が。
左上に記載されている日付は、去年の1月。香月はまだ中等部の制服を着ている。
場所は……昇降口。構造が同じ為、どこの棟なのかは分からないが、高等部の生徒棟の昇降口なのは間違いない。
モニターの中の香月は、周囲を警戒しながら、どこかのクラスの下駄箱を調べている。
やがて……1人の生徒のスニーカーを手に取ったあと、スカートのポケットから紙のようなものを取り出し──。
香月七瀬
ガシャアン!!
現実の香月が、モニターをあらん限りの勢いで突き飛ばした。
幸い、すぐ後ろが壁だったため、モニターは倒れることはなかった。
衝撃でコードがコンセントから外れ、映像は消える、
香月七瀬
黒一色になったモニターの前で、香月は荒い呼吸を繰り返す。
それが収まった頃、
ドタッ……
彼女は膝からゆっくりと崩れ落ちた。
三国綾乃
三国が静かに、彼女の元へと──いや、彼女が落としたリモコンへと、歩いていく。
三国綾乃
拾い上げたリモコンをひっくり返し、ぽっかりと空いていた穴へ、持っていた単4電池と蓋を、かちゃりとはめた。
三国綾乃
三国は香月の脇を通り、倒れかかっているモニターを起こす。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
リモコンをモニターの脇の小机に置いてから、三国は静かに告げた。
一條恭平
俺は声も出せなかった。ただただ黙って、優紀の前に立ちはだかっていた。
四宮沙紀
三国綾乃
顔を覆って泣いている四宮に、三国が寄り添う。
二葉桐男
二葉も満足に動けない身体で、無理して四宮の元まで歩いてきている。その顔にどこか悔しさをにじませながら。
たぶん……二葉は俺たちが来る前に、既に三国から真相を聞かされていたのだろう。
共に3年間部活を務め上げた友人が、正直に罪を認めてくれることを信じて──裏切られた。二葉も辛いのだ。
五代優紀
大人しく座っていた優紀が、俺に切ない声色で話しかける。
その言葉を信じて、俺は黙って引いた。優紀は静かに立ち上がり、香月のもとに向かう。
五代優紀
香月七瀬
優紀の問いに、彼女は正直に答えた。向こうの方を見たまま。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月は肩を震わせ、手を床についてうなだれる。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
二葉桐男
二葉が小さく呟く。
香月七瀬
彼の言葉に言い返すこともなく、香月は淡々と受け入れる。
香月七瀬
香月七瀬
身勝手な言い訳を吐き出す香月。彼女のすすり泣きが、会議室に静かに響く。
いや……泣き声は、もう1つ。四宮も泣いている。
四宮沙紀
声を押し殺しても……彼女の悲痛な嘆きが漏れ出てしまっていた。
五代優紀
無言で香月に視線を送っていた優紀だが、やがて、香月の元に、また一歩歩み寄る。
彼女に手を上げられる距離まで近付き、不安になった俺が駆け寄ろうとした、その時だった。
五代優紀
優紀はぽつりと吐いた。
その言葉に足が止まった。三国も二葉も、一斉に顔を向ける。
香月のすすり泣く声と、身体の震えが一瞬にして止まる。物言わぬ人形と化した彼女に、優紀は淡々と語りかける。
五代優紀
五代優紀
五代優紀
優紀の声が詰まった。左腕を振るって、制服の袖で荒っぽく顔を拭い……振り返って、こちらに戻ってくる。
五代優紀
四宮沙紀
優紀は彼女を気遣いながら、共に会議室の出入り口まで向かっていく。
香月にはもう、なんの声もかけることなく、2人は部屋を出ていく。
三国綾乃
二葉桐男
二葉はぎこちない足取りで2人を追う。俺は彼の荷物を持ってついていく。
会議室を出る直前、俺はちらりと振り返る。
それでも香月は、向こうを向いて固まったままで……彼女がどんな顔をしているのか、見ることは出来なかった。