次の日、香月は精神不調を訴えて欠席し……そのまま二度と、教室に戻ってくることはなかった。
病院の検査で難病が見つかり、治療費がかさむため、公立の高校に転校する……というのが表向きの理由だった。
三国綾乃
三国綾乃
転校を知らされた日の夜、三国は電話でそう伝えてきた。俺はついでに、脅迫状について聞きたかった点を口にする。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
俺は話を誤魔化す。本当の被害者が優紀だと知らないのであれば、話す必要はあるまい。
恐らく、優紀の復讐事件の時に、香月は四宮から事情を伺ったんだろう。
しかし四宮は、俺に話した時と同じように、襲われたのは自分だと偽った……それがあの脅迫状の、イニシャルの間違いに繋がったのだろう。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
吐き捨てるように話す三国の声からは、同情の感情は全く読み取れなかった。
ただ……俺はそれでも、彼女を憐れむような気持ちが、心のどこかで横たわっている。
彼女が犯行に至った原因……四宮に対する嫉妬は、最初から全て間違っていたのだから。
優紀の告白を聞いて、俺は思い出していた。俺が四宮のサッカーの上手さを褒めた時の返事を。
四宮沙紀
一條恭平
四宮と優紀……小学校が同じとはいえ、まるで気性の違う2人が、どういう縁であれほどの深い仲になったのか、ずっと疑問だった。
なんのことはない、2人は生まれる前からの付き合いだったのだ。俺たちが勘ぐったような事情など、2人の間には存在しなかった。
香月が四宮を妬む必要など……なかったのだ。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
俺の質問に、三国は素直に同意する。
彼女の声に少しだけ、香月を憐れむ色が差したような、そんな気がした。
数日後。4月も終わりに近づき、ゴールデンウィークが目前に迫っていた。
ただし今年は祝日の配置が悪く、月曜だけ平日になってしまう。
3日前の金曜、月曜だけでもいいから学校が滅亡しねえかなと思いながら、俺は登校し──。
朝のホームルームで先生が放った言葉に、耳を疑った。
一條恭平
先生
友達
女子生徒
クラスメイトのうち、半分が次々と不満の声をあげ、もう半分は事態が飲み込めず黙り込む。俺は黙る側だった。
先生は余り話したくないと言った雰囲気をにじませながら、言いづらそうに説明する。
先生
先生
友達
先生
先生
先生
先生は手短に話を打ち切り、各列の先頭の生徒に、調査書のプリントを配っていく。
いかにも『大人の事情』がありますといった雰囲気に、俺はおおよその事情を察する。
友達
先生
友達の質問に答えつつ、先生は俺の列に調査書を配る。
その時、一瞬だけ俺に向けられた先生の視線が、なんだか刺々しく感じられた。
……もうそれだけで、裏の事情が分かってしまう。
一條恭平
とりあえず、同じクラスを希望する生徒の欄には、二葉と優紀と零也、それに四宮の名前を書く。
その他、同中の友人やこの教室内で仲良くなったクラスメイトの名前を書きながら……隣の空欄を見て、ぼんやりと考える。
一條恭平
一條恭平
しばらく悩みこんだ後に……俺は三国の名前を書いた。
……一緒になりたい生徒の欄に。
月曜の朝。 携帯をチェックすると、学内のメールアドレスに、クラス替えの結果が来ていた。
今のクラスの名簿に、新しいクラスの配置先が記載されている。
俺も二葉も4組のままだった。というより、大半の生徒は4組のままだ。
他のクラスの名簿はないので、誰が来るのかは分からない。
来てからのお楽しみということか……いや、事件で人数が減ってしまったクラスを隠しているのだろう。
一條恭平
その日はいつもより早く学校を出るが、学校の敷地は既に生徒たちでごった返していた。
生徒
生徒
生徒
一條恭平
すれ違う生徒たちの話が耳に入るたびに、俺は不安を覚える。体育倉庫で白骨死体が見付かった時と同じだ。
ただ……あの時と同様、俺が関わっていることには誰も気付いていないらしい。三国は一応根回しをしてくれているようだ。
教室に入った俺は、とりあえず元の自分の席に向かう──が、既に席は、何人かの生徒で取り囲まれている。
1人を除いて、全員クラス替え前のクラスメイトだ。朝見た名簿で、彼らも変わっていないのを確認していた。
唯一の例外が──。
本田零也
一條恭平
真っ先に声をかけてきたのは、まさかの零也。
一條恭平
本田零也
友達
他の奴等とは初対面だと言うのに、零也は早くも馴染んでいる。
……正直、この後の展開が薄々予想できるのだが、まだアイツは気付いていないようだし、夢を見させておこう。
友達
友達の1人の声に、俺と零也は同時に振り返った。
二葉が松葉杖を突いて、教室の扉を少し窮屈そうに通り抜けていた。俺は早歩きで歩み寄る。
一條恭平
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
他のクラスメイトに退いて貰い、俺は二葉を誘導する。
彼が自分の席に着いた時に、零也が話しかけてきた。
本田零也
二葉桐男
本田零也
あからさまに嫌そうな視線を向ける二葉に、零也は軽くショックを受ける。
二葉桐男
二葉桐男
本田零也
二葉桐男
ズズズズ
二葉は無言で、机ごと俺たちから離れた。
本田零也
一條恭平
本田零也
二葉は机を元の位置に戻してから、恐る恐る俺たちに尋ねる。
二葉桐男
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
ズズズズズズズズ
二葉はまた机を引いた。今度は向こうの席の方が近いくらい。
友達
二葉よりはまだ度胸があるクラスメイトたちが、二葉を安心させるように声をかける。
ただ……それは、すぐに止んだ。
ガララッ
二葉がくぐったあと、俺が閉めていた教室の扉が、妙に勢い良く開いた。
その瞬間、扉の近くで聞こえていた、他のクラスメイトたちの雑談の声が、一斉に止む。
二葉をなぐさめていた友達も、音の方向を見て、瞬時に黙り込む。
友達
その内の1人が、唖然とした顔でぼそりと呟くのを見て、俺は誰が来たのかを悟りつつ……顔を向ける。
五代優紀
ぶっきらぼうな挨拶で、優紀が、
四宮沙紀
少し驚いた様子で、四宮が、
三国綾乃
柔らかい微笑みをたたえて、三国が入ってきた。
一條恭平
三国綾乃
朝のホームルームが終わり、こちらにやってきた三国に尋ねると、彼女は堂々と認める。
二葉桐男
三国綾乃
二葉桐男
ためらうことなく言い切った彼女に、二葉は匙を投げる。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
二葉桐男
三国の一応筋が通る説明を、二葉はばっさりと切り捨てた。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国はいたずらっぽく笑う。その態度が既に答えを言っているようなものだ。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国はにっこりと微笑む。
ひとまず、仲良くなりたいなら、まず人前で笑顔を封印する所から始めたほうが良いと思う。
五代優紀
後ろから声をかけられ振り返る。優紀と四宮が2人でこちらまで来ていた。
一條恭平
四宮沙紀
五代優紀
四宮沙紀
四宮沙紀
五代優紀
柔らかく微笑む四宮に、優紀は頬を染めて顔をそらした。
のろけてる2人の向こうで、今まで結構仲良くやってきたはずの面々が、俺たちを遠巻きに眺めている。
こちらを見ながらヒソヒソと話しているが、話の内容は遠くて分からない。
それでも、流行り病の患者に向けるような、不安と警戒感がないまぜになったその表情から、おおよそ何を話しているかは想像できてしまった。
一條恭平
三国綾乃
周囲の視線など全く気にせず、三国はにっこりと笑う。
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
二葉桐男
いつになくキツい口調で咎めてくる二葉に、『もう、分かったわよ』と三国はあからさまに口を尖らせた。
三国綾乃
三国は2人ににっこりと笑いかけた。正直、彼女の笑顔は怖いので逆効果だと思う。
四宮沙紀
五代優紀
三国の笑顔に少し躊躇しながらも、四宮はOKしてくれる。だが、優紀はすぐには頷かない。
五代優紀
三国を──いや、俺と二葉にも向けて、優紀は凄む。
言葉の調子こそ恐ろしいが……一応、彼も入ってくれるようだ。
一條恭平
三国綾乃
五代優紀
優紀の荒々しいツッコミが飛ぶ。やはりアイツのキレは良い。優等生の二葉や四宮には出来ない芸当だ。
二葉桐男
一條恭平
いまだに決心を着けられない二葉を──ついでに言えば、自分自身も──諭すように、俺は優しく、丁寧になだめた。
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