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テラーノベル

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テラーノベル(Teller Novel)

次の日、香月は精神不調を訴えて欠席し……そのまま二度と、教室に戻ってくることはなかった。

病院の検査で難病が見つかり、治療費がかさむため、公立の高校に転校する……というのが表向きの理由だった。

三国綾乃

実際は、相沢に送った脅迫状の件で補導されて、パパが退学にしたのよ

三国綾乃

住所を当たってみたら、家族揃って消えていたわ……もう私たちの前に現れることはないでしょう

転校を知らされた日の夜、三国は電話でそう伝えてきた。俺はついでに、脅迫状について聞きたかった点を口にする。

一條恭平

イニシャルがS・Yの事件は……四宮のものだな?

三国綾乃

ええ……あなたたちから聞いたものね。それが?

一條恭平

いや……確認したかっただけだ

俺は話を誤魔化す。本当の被害者が優紀だと知らないのであれば、話す必要はあるまい。

恐らく、優紀の復讐事件の時に、香月は四宮から事情を伺ったんだろう。

しかし四宮は、俺に話した時と同じように、襲われたのは自分だと偽った……それがあの脅迫状の、イニシャルの間違いに繋がったのだろう。

三国綾乃

それと……あれから1人で調べていたら、あの女の悪事の証拠が、もう1つ見つかったわ

三国綾乃

脅迫状と一緒に、それが入っていたであろう封筒も一緒に見付かっていたんだけど

三国綾乃

消印が押された郵便局は、四宮さんの家の最寄りの所と分かったの

一條恭平

……脅迫状を四宮が出したかのように見せかけたってことか?

三国綾乃

そうね……。相沢の立場に立ってみれば、あの脅迫状の送り主は、他ならぬ被害者たちの誰かじゃないかと考えるはずだわ

三国綾乃

そうなれば、アイツが逆上して、被害者たちを再び襲うことも考えられる

三国綾乃

実際、警察の話では、相沢の携帯には消印の郵便局や周辺地域の検索情報が残っていたそうよ

三国綾乃

あの男が、四宮さんの家が近くにあることを突き止めていたら……考えたくもないわね

一條恭平

…………

三国綾乃

あの女は、あらゆる手段を使って、四宮さんを追い詰めようとしていた

三国綾乃

同情の余地は全くないわ……転校の事情を取り繕ってあげただけ、温情と思って欲しいわね

吐き捨てるように話す三国の声からは、同情の感情は全く読み取れなかった。

ただ……俺はそれでも、彼女を憐れむような気持ちが、心のどこかで横たわっている。

彼女が犯行に至った原因……四宮に対する嫉妬は、最初から全て間違っていたのだから。

優紀の告白を聞いて、俺は思い出していた。俺が四宮のサッカーの上手さを褒めた時の返事を。

四宮沙紀

そ、そんな、私なんて全然です。昔、弟とクラブに入ってたって言うだけですから……

一條恭平

(あれは……優紀のことだったんだよな)

四宮と優紀……小学校が同じとはいえ、まるで気性の違う2人が、どういう縁であれほどの深い仲になったのか、ずっと疑問だった。

なんのことはない、2人は生まれる前からの付き合いだったのだ。俺たちが勘ぐったような事情など、2人の間には存在しなかった。

香月が四宮を妬む必要など……なかったのだ。

一條恭平

……なあ、三国

三国綾乃

何かしら?

一條恭平

もしあの2人が、自分たちが姉弟だってこと、もっと早く香月に教えていたら……こんなことは起きなかったんかな

三国綾乃

……それは、そうでしょうね

俺の質問に、三国は素直に同意する。

彼女の声に少しだけ、香月を憐れむ色が差したような、そんな気がした。

数日後。4月も終わりに近づき、ゴールデンウィークが目前に迫っていた。

ただし今年は祝日の配置が悪く、月曜だけ平日になってしまう。

3日前の金曜、月曜だけでもいいから学校が滅亡しねえかなと思いながら、俺は登校し──。

朝のホームルームで先生が放った言葉に、耳を疑った。

一條恭平

クラス替え……?

先生

そうだ。机とロッカーの荷物は、持ち帰るか部室に置いておくように

友達

ちょ、ちょっと待って下さいよ! なんだってこんな早くクラス替えすんですか!

女子生徒

そうですよ! ちゃんと説明して下さい!

クラスメイトのうち、半分が次々と不満の声をあげ、もう半分は事態が飲み込めず黙り込む。俺は黙る側だった。

先生は余り話したくないと言った雰囲気をにじませながら、言いづらそうに説明する。

先生

……別のクラスで事件があって、クラスの人数が少々減ってしまってな

先生

年度当初から人数が欠けたクラスが合ってはならないというと、理事長が判断された。よって特例でクラス替えを行う

友達

ええ〜? 何があったんですか?

先生

……悪いが、詳しい事情は先生も話せない

先生

これから調査書を配るから、一緒になりたい生徒と、反りが合わない生徒の名前を書いてくれ!

先生

できるだけ希望を叶える形で調整するから、正直に書いてくれよ!

先生は手短に話を打ち切り、各列の先頭の生徒に、調査書のプリントを配っていく。

いかにも『大人の事情』がありますといった雰囲気に、俺はおおよその事情を察する。

友達

せんせー、二葉いないけどどうするんですか?

先生

メールで送ったから大丈夫だ

友達の質問に答えつつ、先生は俺の列に調査書を配る。

その時、一瞬だけ俺に向けられた先生の視線が、なんだか刺々しく感じられた。

……もうそれだけで、裏の事情が分かってしまう。

一條恭平

(希望調査、か……)

とりあえず、同じクラスを希望する生徒の欄には、二葉と優紀と零也、それに四宮の名前を書く。

その他、同中の友人やこの教室内で仲良くなったクラスメイトの名前を書きながら……隣の空欄を見て、ぼんやりと考える。

一條恭平

(反りが合わないか……ようは同じクラスになりたくねえ奴ってことだよな)

一條恭平

(…………)

しばらく悩みこんだ後に……俺は三国の名前を書いた。

……一緒になりたい生徒の欄に。

月曜の朝。 携帯をチェックすると、学内のメールアドレスに、クラス替えの結果が来ていた。

今のクラスの名簿に、新しいクラスの配置先が記載されている。

俺も二葉も4組のままだった。というより、大半の生徒は4組のままだ。

他のクラスの名簿はないので、誰が来るのかは分からない。

来てからのお楽しみということか……いや、事件で人数が減ってしまったクラスを隠しているのだろう。

一條恭平

(余計な詮索してもしゃあねえか。早く行こう)

その日はいつもより早く学校を出るが、学校の敷地は既に生徒たちでごった返していた。

生徒

なんでこんな時期にクラス替えやんだよ。意味分かんねえし

生徒

なんか悪い先輩が揉め事起こしてたとか噂あったじゃん? たぶんそれじゃね?

生徒

先輩のクラスの人、何人か退学になったらしいよー

一條恭平

…………

すれ違う生徒たちの話が耳に入るたびに、俺は不安を覚える。体育倉庫で白骨死体が見付かった時と同じだ。

ただ……あの時と同様、俺が関わっていることには誰も気付いていないらしい。三国は一応根回しをしてくれているようだ。

教室に入った俺は、とりあえず元の自分の席に向かう──が、既に席は、何人かの生徒で取り囲まれている。

1人を除いて、全員クラス替え前のクラスメイトだ。朝見た名簿で、彼らも変わっていないのを確認していた。

唯一の例外が──。

本田零也

よう恭平!

一條恭平

おお、零也

真っ先に声をかけてきたのは、まさかの零也。

一條恭平

お前、4組になったんか

本田零也

おうともよ。いやあこっちは居心地いいわ

友達

おい本田、番号交換しようぜ!

他の奴等とは初対面だと言うのに、零也は早くも馴染んでいる。

……正直、この後の展開が薄々予想できるのだが、まだアイツは気付いていないようだし、夢を見させておこう。

友達

おっ……二葉

友達の1人の声に、俺と零也は同時に振り返った。

二葉が松葉杖を突いて、教室の扉を少し窮屈そうに通り抜けていた。俺は早歩きで歩み寄る。

一條恭平

もう来ても大丈夫なのか?

二葉桐男

本当はまだ安静にした方が良いんだけど、ゴールデンウィークの課題とか、直接先生から説明受けた方が良いと思ってね

一條恭平

真面目だなぁ。荷物持つか?

二葉桐男

いや……大丈夫

他のクラスメイトに退いて貰い、俺は二葉を誘導する。

彼が自分の席に着いた時に、零也が話しかけてきた。

本田零也

よう二葉。俺も4組になったんだよ。これからよろしくな

二葉桐男

…………

本田零也

いや……なんで黙んだよ

あからさまに嫌そうな視線を向ける二葉に、零也は軽くショックを受ける。

二葉桐男

ずっと聞きたかったんだけどさ……

二葉桐男

君、去年の夏辺りに、千東通りで大立ち回り繰り広げてなかった?

本田零也

あーアレな。他校の奴等に失明寸前の大怪我負わされたから、お礼参りで全員ボコボコにしてやったんだよ

二葉桐男

…………

ズズズズ

二葉は無言で、机ごと俺たちから離れた。

本田零也

そ、そんなにビビんなよ! もうあんなヤンチャはしねぇよ!

一條恭平

あれ? 君もしかして3日で記憶消えるタイプ?

本田零也

そりゃオメーの尻拭いしてやったんだろうが! こちとらまだ傷が痛むんだぞ!

二葉は机を元の位置に戻してから、恐る恐る俺たちに尋ねる。

二葉桐男

……それと、あの時一緒に戦ってたオールバックの人いたじゃないか

二葉桐男

ほら、なんか2人でツープラトンみたいなのかけまくってた子……あの子まさか、明学には進んでないよね?

一條恭平

それ俺だぞ

二葉桐男

…………

ズズズズズズズズ

二葉はまた机を引いた。今度は向こうの席の方が近いくらい。

友達

ま、まあまあ二葉。そこまで警戒しなくてもいいだろ

二葉よりはまだ度胸があるクラスメイトたちが、二葉を安心させるように声をかける。

ただ……それは、すぐに止んだ。

ガララッ

二葉がくぐったあと、俺が閉めていた教室の扉が、妙に勢い良く開いた。

その瞬間、扉の近くで聞こえていた、他のクラスメイトたちの雑談の声が、一斉に止む。

二葉をなぐさめていた友達も、音の方向を見て、瞬時に黙り込む。

友達

……マジかよ……

その内の1人が、唖然とした顔でぼそりと呟くのを見て、俺は誰が来たのかを悟りつつ……顔を向ける。

五代優紀

……よう

ぶっきらぼうな挨拶で、優紀が、

四宮沙紀

や、やっぱり……

少し驚いた様子で、四宮が、

三国綾乃

ふふ……ちゃんと揃ってるわね

柔らかい微笑みをたたえて、三国が入ってきた。

一條恭平

お前の指図か?

三国綾乃

決まってるじゃないそんなの

朝のホームルームが終わり、こちらにやってきた三国に尋ねると、彼女は堂々と認める。

二葉桐男

……君は学校をなんだと思ってるんだい?

三国綾乃

独壇場

二葉桐男

そうかい、もういいよ

ためらうことなく言い切った彼女に、二葉は匙を投げる。

三国綾乃

流石に冗談よ。一番の理由は先生方が説明した通り、クラスの人数をならすためよ

三国綾乃

この数日で、相沢とつるんでた生徒は全員排除したけど、そのせいで人数が減っちゃったクラスも多かったから

三国綾乃

そのついでに、私の要望をちょこっと差し込ませてもらっただけ

二葉桐男

到底信じられないね

三国の一応筋が通る説明を、二葉はばっさりと切り捨てた。

一條恭平

……今気付いたんだがよ。お前、今まで自分のクラスには全然顔出してなかっただろ

三国綾乃

ええ

一條恭平

……もしかして、これを見越して……ていうかこれをやるつもりだったから、最初から来なかったのか?

三国綾乃

ふふっ……さあ、どうかしらね

三国はいたずらっぽく笑う。その態度が既に答えを言っているようなものだ。

三国綾乃

まあいいじゃない。このB棟が部室からは一番近いのよ。再スタートを切るにはちょうどいいわ

一條恭平

……これからはちゃんと来いよ

三国綾乃

ええ、分かってるわ。ちゃんと他の子たちとも仲良くするわよ。これからよろしくね?

三国はにっこりと微笑む。

ひとまず、仲良くなりたいなら、まず人前で笑顔を封印する所から始めたほうが良いと思う。

五代優紀

恭平

後ろから声をかけられ振り返る。優紀と四宮が2人でこちらまで来ていた。

一條恭平

お前等、一緒にいて大丈夫なのか?

四宮沙紀

うん……もう優紀に目をつける人もいないから

五代優紀

……俺は近寄らない方が良いって言ったよ……けど、聞かなくて

四宮沙紀

大丈夫だよ。今は皆怖がってるけど……

四宮沙紀

いつかはみんな、分かってくれるから。優が本当は、優しい子だって……

五代優紀

い、いいよ別にんなん! 

柔らかく微笑む四宮に、優紀は頬を染めて顔をそらした。

のろけてる2人の向こうで、今まで結構仲良くやってきたはずの面々が、俺たちを遠巻きに眺めている。

こちらを見ながらヒソヒソと話しているが、話の内容は遠くて分からない。

それでも、流行り病の患者に向けるような、不安と警戒感がないまぜになったその表情から、おおよそ何を話しているかは想像できてしまった。

一條恭平

(そこそこ馴染んできたんだが、こりゃ振り出しだな……)

三国綾乃

それより、ようやく部活創設の目処がついたわ

周囲の視線など全く気にせず、三国はにっこりと笑う。

三国綾乃

空き教室も、顧問の先生の当てもついた

三国綾乃

クラス委員長は選び直しになるけど、私の息のかかった生徒にするよう、パパを通して各クラスの先生に根回ししてあるわ

一條恭平

悪役ムーブぅ〜

三国綾乃

何より、部員が5人集まった! これが1番ネックだと思っていたけれど、まさかの進展だわ!

二葉桐男

せめて最低限の意思確認はしろ

いつになくキツい口調で咎めてくる二葉に、『もう、分かったわよ』と三国はあからさまに口を尖らせた。

三国綾乃

四宮さん、五代君。あなたたちは入ってくれるわよね?

三国は2人ににっこりと笑いかけた。正直、彼女の笑顔は怖いので逆効果だと思う。

四宮沙紀

わ、私は良いよ……

五代優紀

…………

三国の笑顔に少し躊躇しながらも、四宮はOKしてくれる。だが、優紀はすぐには頷かない。

五代優紀

……沙紀を危ない目に遭わせたら、タダじゃおかねぇからな

三国を──いや、俺と二葉にも向けて、優紀は凄む。

言葉の調子こそ恐ろしいが……一応、彼も入ってくれるようだ。

一條恭平

(これで5人か)

三国綾乃

任せなさい! 私の師匠の霊能力者に頼んで、いかなる悪霊にも負けない最強の修験者にして上げるわ!

五代優紀

そういう意味じゃねぇよ馬鹿!

優紀の荒々しいツッコミが飛ぶ。やはりアイツのキレは良い。優等生の二葉や四宮には出来ない芸当だ。

二葉桐男

はあ……本当にやるのか……こんなふざけた部活……

一條恭平

本当にやってしまうんですよ、二葉さん

いまだに決心を着けられない二葉を──ついでに言えば、自分自身も──諭すように、俺は優しく、丁寧になだめた。

レゾナンス ―明生学園 霊徒会日誌―

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