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怪盗 時雨桜

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怪盗 時雨桜

36 - ずっと辛かった

♥

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2022年04月22日

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〜渉 side〜

通信機で佐野の指示を受けつつ、 俺、坂田、一ノ瀬の3人で、 爆弾の場所へ向かう

凪沙

『坂田君はその少し先のところ。ソラさんはもう少し進んだところで、浦田先輩はまだ先』

了解

『えーっと……ここか?』

凪沙

『うん。3人同時にやった方が効率いいだろうから、残り二人が着いてから、解除の方法説明するね』

『了解!』

凪沙

『……あ、浦田先輩、少し戻って。そこの上の通気口です』

ここか

一度足を止めて、後ろを振り返る

少し戻って天井を見上げると、 佐野の言った通り通気口があった

蓋を外して、中に這うように入る

(建物自体新しく出来たとはいえ、流石に埃がすごいな……)

こんな人目につかない狭いところ まで掃除なんかしないだろうし、 当たり前だろうけど

……これか

匍匐前進で少し進んだ先に、 鉄でできた箱のようなものがあった

 近づいてよく見てみると、 タイマーが時間を刻んでいた

(残り5分……)

ソラ

『……ここか?』

凪沙

『うん。その辺りにあるはず』

一ノ瀬も見つけたらしく、 これで全員が持ち場についた

凪沙

『じゃあ、指示始めるよ。まず──』

凪沙

『……で、最後に赤と黒のコードが残るから、赤を切る』

佐野の指示通り、箱を解体した後、 次々と中にあるコードを切っていく

(最後は赤……)

残った赤と黒のコードの、 赤の方を切った

『できた! これでええんよな?』

凪沙

『うん。出来ていればタイマーの表示が消えてるはずだよ』

さっきまで動いていた爆弾の タイマーを見ると、表示が消えて 真っ暗になっていた

『俺の方もできた。一ノ……ソラは?』

 正体を隠す為とは言え、 やっぱりハンドルネームで呼ぶのは 慣れないな……

ソラ

『……黒のコードがない』

凪沙

『えっ?』

は……?

黒のコードがない?

もしかして、一ノ瀬の爆弾だけ、 構造が違うものなのか?

『ど、どういうことっすか?』

ソラ

『ここまで凪沙の指示通りにはできてた。……ただ、最後に残ったコードが赤と青。黒じゃない』

〜ソラ side〜

ここまで、順調にできてた

ソラ

(なのにっ……)

凪沙

『えっ、う、嘘、どういうこと……!?』

凪沙にとっても不測の事態だった らしく、焦っている声が、髪飾りの 通信機越しに聞こえてくる

リーフ

『……もしもし。今どういう状況?』

凪沙

『九葉ちゃん……?』

ソラ

俺の爆弾だけ最後に残ったコードの色が違う

『最後に残るコードは赤と黒で、切るのは赤。だけどそっちに黒は無くて、代わりに青があるんだよな?』

ソラ

あぁ

凪沙

『本当に赤で合ってるのか分からないから、身動きができなくて……』

リーフ

『最後……。』

リーフ

『っ……ごめん。来ておいてなんだけど、それなら力になれない』

凪沙

『そう、だよね……』

爆弾を解除する時、最後のコードの どちらが合っているのかは、 作った本人にしか分からない

解除をするまでの指示を出来ていた 凪沙は、多分自らの手で 爆弾を作ったんだろう

ソラ

(だけど、分からないってことは……)

凪沙

『……多分ソラさんのやつ、あたし以外の奴が作った爆弾だ。一個だけ、人に任せたものがあって。』

凪沙

『っその時、そいつが勝手にコードの色を変えたんだ……』

……もしこれを解除するとしたら、 二分の一の確率で即爆発する

それに俺も巻き込まれて、 確実に死は免れない

ソラ

(どっちが正解だ……?)

ユキ

『……ソラ』

ソラ

ユキ……?

何故か、ユキとの通信が繋がった

ユキ

『なんか緊急事態って聞いたからさ。爆弾の解除、手間取ってるんだよね?』

俺達の通信状況を管理しているのは リーフだから、彼女に聞いたんだろう

ユキ

『大丈夫。ボクはソラを……。』

ユキ

『…………ううん』

そこまで言ったユキが、 一度言葉を切った

真冬

『ボクは、“兄さん”を信じるよ』

ソラ

っ……!!

ふと、少し前に見た、 夢のことを思い出す

真っ暗な空間で、 自分と話しをするだけの夢

夢に出てきた自分は、 見た目は小さい頃の俺

だけどその俺は、無愛想で冷淡で、 どこか違和感を覚えていた

……今思うと、さっきまでの自分と 何ら変わりなかったのに、な

「救うものは、 もっとすぐ近くにあるだろ」

あの夢の中で、俺に言われた言葉

夢から覚めた後、 「分からない」と切り捨てた言葉

ソラ

(……なるほどな、そういうことだったのか)

夢に出てきた昔の俺は、 一ノ瀬彼方でも、“兄さん”でもない

『ソラ』 ……つまり、今の俺自身

夢の中であいつが言ってたことも、 今なら答えが分かる

……今なら、ちゃんと向き合える

リーフ

『……ソラ、残り何分?』

ソラ

……

00:27

確認だけして、声には出さなかった

凪沙

『ソラさん……?』

『おい、一ノ瀬?』

『会長! あれ、聞こえとる?』

リーフ

『聞こえてないはずはないんだけど……』

ユキ

『ねぇソラ』

ソラ

……何?

こんな時には似合わない、 やけに明るいユキの声色

ユキ

『こうなったらさ、好きな方のコードを切っちゃえば?』

ユキ

『ほら、確率は1/2で、おんなじなんだからさ」

不意に、その声に違和感を感じる

通信機から聞こえてはいるけど、 何故か少し遠くからも、少し小さい ユキの声が聞こえた

ソラ

……もしかして、近くにいる?

ユキ

あははっ、バレた?

ユキ

兄さんのすぐ真下だよ

……なるほどな

俺が爆弾を解除できなければ、 真冬も俺も、二人とも……

ユキ

ソラに死なれちゃったら、ユキは何もできなくなっちゃうから。

ユキ

それに、ボクだけ生きててもしょうがないしさ

ソラ

……だな

俺だって……ソラだって、 ユキがいなきゃ何もできない

時雨桜はいつだって、 ユキとソラの、二人で一つなんだ

ソラ

(切るコードは、もう決めてる)

合っていれば、この後ユキが、 花火のスタートと共に ファントムの計画を止めに行ける

けど、間違ってたら……その時は、 一緒にみんなのところへ行こう

00:10

ソラ

死ぬ覚悟は?

ユキ

怪盗になった時から出来てるよ

ソラ

たしかに

00:06

そっと、片方のコードに ハサミの刃をあてがう

真冬

……ボクは、幸せだったよ

ソラ

うん

00:03

手が震えるのは、今までみたいに、 気づかないふりをする

00:02

ユキ

……でもやっぱり、もうちょっと幸せが欲しかったなぁ

ソラ

……!

00:01

そんなの──

00:00

幸せが欲しいなんて、そんなの……

そんなの──!

ドンッ!!

彼方

──そんなの、俺だって欲しいよ

彼方

母さんからも、父さんからも……

彼方

っ……もうちょっと……ちょっとだけでいいから、欲しかったっ……!

遠くから、花火の音が聞こえる

それに気づいた時には、 両目から涙が溢れていた

10年前のあの日から、俺の生きる 目的は変わってしまっていた

 「ただ幸せに暮らす」ことから、 「怪盗になって復讐する」ことに

復讐に、ずっと取り憑かれていた

『今までの俺じゃ、 怪盗なんてできない』

そう思って、感情を捨てた

……いや、閉じ込めたんだ

それで、笑うことも、喜ぶことも、 泣くこともしなくなって、 いつしかできなくなって

とうとうやり方が分からなくなった

10年前には、これっぽっちも 出てこなかった涙

彼方

(そういえば、こんな感じだったな……)

……やっと俺も、泣けるようになった

真冬

……うん

真冬

そうだね

真冬が、優しく頷いてくれる

彼方

ほんとは、怪盗なんてしたくなくて……

真冬

うん。

真冬

兄さんは優しいから、誰も傷つけたくなかったんだよね

彼方

真冬にも、真夏にも、させたくなくて……

真冬

うん。

真冬

ボクらのこと、本当の妹弟みたいに想ってくれてたもんね

彼方

早く、母さん達のとこに逝きたくてっ……

真冬

……うん。

真冬

ボクも同じだよ

彼方

けど俺……みんなの“兄”だから、しっかりしなくちゃって……。

彼方

っ……だけど……。

多分俺は、ずっと……

彼方

……ずっと、辛かった……っ!

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