TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

トーマ

どういうことです?

トーマ

生き残れば助かるのではないのですか

菜子

命は助かるでしょう

菜子

ただし

菜子

その代償は決して小さくないわ

菜子

トーマくん、あなたには

菜子

償ってもらわなければならない罪がある

菜子

償っても償いきれない罪が

菜子はおれの車椅子の後ろ側に回る

トーマ

なにをするんです

菜子

まずは

菜子

詩乃に直接会ってもらいましょう

部屋の反対側には

黒いシートに覆われた

大きな「なにか」が 鎮座していた

菜子はそれを手で掴むと

一気にシートを引いた

トーマ

し、詩乃

トーマ

こんなことって…

身体中を震わせているおれの 正面には

確かに詩乃の姿があった

血の気のない詩乃は目を閉じて うっすらと笑っているように見える

菜子

これが詩乃の望んでいた

菜子

結末だったのよ

菜子

あなたがゲームに勝ち

菜子

こうやって詩乃と向き合っている

トーマ

じゃあ…

トーマ

詩乃は長い間

トーマ

こんな姿でおれに会うことを

トーマ

望んでたっていうのか

菜子

そうよ

菜子

プラストミックでその姿を

菜子

保存されることを望んでいた

菜子

詩乃は死んだときから

菜子

ここであなたに会うのを

菜子

心待ちにしていたの

おれの震えは止まらなかった

トーマ

なんでだよ

トーマ

詩乃はそんなこと一言も

トーマ

言ってなかったじゃないか

菜子

あなたには決して分からない痛みを

菜子

詩乃は背負って生きてきた

菜子

そしてその末に

菜子

苦しんだ果ての死を選んだ

菜子

死んでからもなお残存する苦しみを

菜子

浄化させるためにね

トーマ

さっぱり分からない

トーマ

分からないよ

トーマ

だって、だって

トーマ

おれはただ詩乃と

トーマ

交際していた男だ

トーマ

なんでこんなことを

おれは蒼白な表情をたたえる詩乃に 語りかけるように

言葉を詰まらせながら言う

菜子

槙と志波は

菜子

断罪されるべき人間だったから

菜子

当然の報いだった

菜子

しかしあなたが残ったことに

菜子

どんな意味があると思う?

トーマ

意味なんて

トーマ

分からない

トーマ

罪ならここから出て

トーマ

適正に裁判をうけて

トーマ

適正に下されるべきだ

菜子

あなたはちっとも分かってないわ

菜子

法が罪を裁いて罰を下すということに

菜子

わたしはなんら意味を感じない

菜子

だからわたしは生涯をかけて

菜子

法が与えることをできない罰を

菜子

あなたたちに下すことに決めた

菜子

あなたたちが起訴されなかった理由は

菜子

そういうところにあるのよ

トーマ

罰…

トーマ

おれが最初からそれを受ける運命にあったのは

トーマ

あんたの企みだった…

菜子

わたしの?

菜子

いいえ

菜子

たしかにこのゲームを実行したのはわたし

菜子

けれどこのゲームの原案は

菜子

わたしによるものではなく…

菜子は詩乃の座っている 椅子の隣にある

台の上のバンドを取って おれを睨むように見た

菜子

詩乃によるものなのよ…

菜子はそう言うと いくつものバンドを

しげしげと見回した

トーマ

詩乃によるもの?

トーマ

どういうことだ

トーマ

詩乃は亡くなる直前まで

トーマ

苦しんでたんじゃないのか

菜子

いいえ、違うわ

菜子

詩乃の動画は全世界に拡散され

菜子

世界中の男の慰み者にされた

菜子

だからわたしに

菜子

「遺言」を残したのよ

菜子

ここであなたに読んでもらうよう

菜子

詩乃から託された遺言よ

菜子は先ほど手にしていた

ノートの最初のページを開いた

そこには詩乃の筆跡で

びっしりと文字が綴られていた

田澤トーマへの遺言

わたしは まさか最愛の人が

わたしにとって 最悪の結末をもたらすとは

思っていませんでした

トーマは 初めて会ったときから

「この人ならわたしの全てを 受け入れてくれて」

「この人となら幸せになれる」と

言葉ではなく感覚として わたしという存在に受け入れられた

最初の人だった

この人にならわたしの全てを さらけ出してもいいと思った

その結果わたしは トーマと身を重ね合わせた

トーマとの行為は わたしにとっても喜びそのものだった

でもあんなことになるなんて

当時のわたしは考えてもいなかった

トーマはわたしにこう訊いた

「動画、撮ってもいい?」

わたしはトーマに ひとりでするときも寂しくないように

という意味を込めて 動画を撮ることを許可した

わたしはスマートフォンで 撮られているものとばかり思っていた

しかしながらトーマは部屋中に カメラを仕掛け

わたしのことをつぶさに 撮影していた

そしてある日を境に わたしの人生は大きく変わってしまった

きっかけはわたしのもとに届いた 一通のメッセージ

そこにはこんなことが書かれていた

「しのちゃんのエッチな動画 拝見いたしました」

「お金は多めに払うので ぼくともやってくれませんか?」

わたしはどうしてそんなメッセージが 送られてきたのか

わからなかったけれど

まさかと思って その動画が配信されていた

アダルトサイトにアクセスすると 淫らな動画が横溢している

タイムラインの中に わたしの裸体が載っていた

どうしてどうしてどうして なんでなんでなんでなんで

大量の疑問符が 頭を埋め尽くし

それがひとつの解を導き出したとき わたしは耐えがたい吐き気を催し

すぐさまトイレに駆け込み 胃の中のものを全て吐いた

涙がとめどなく溢れた

トーマが わたしを殺した瞬間だった

ネット上には既に 複数の動画投稿サイトに

わたしの動画が流布していた

何億人という男に わたしが知れ渡っているのだ

淫らな姿のわたしが

動画は隠しカメラで 撮られているようで

それが拡散されている

トーマはすべてを了承した上で この事件に及んだのだろう

もしトーマと別れて 誰か別の男と付き合ったとしても

事実をもみ消すことは決してできない

だからわたしは 自ら命を絶つことに決めた

けれど 死をもって人生を終わりにすることで

わたしは救われるのだろうか

いや きっと救いは来ない

わたしの身体で自慰にふける男は 増えても

わたしはもう決して 存在を消すことはできない

だから罪ある者に トーマに

わたしが感じたのと同じ 痛みを与えてほしい

それが わたしの願いです

——植村詩乃

トーマ

違う!

トーマ

違うんだ!

トーマ

おれはあの動画を撮ったわけじゃない

トーマ

動画を撮ったのはアルラで

トーマ

拡散したのは進次郎だ!

トーマ

罪があるのはあのふたりで——

菜子

いいえ

菜子

あのふたりは

菜子

確かにあなたの行為を幇助した

菜子

けど論点はそこじゃない

菜子

詩乃もわたしも

菜子

その行為のいちばん最初にあったのは

菜子

あなたの言動であることは間違いないと

菜子

そう思っているのよ

菜子

あのふたりを許しておくわけにはいかない

菜子

罪の重さを分からせて

菜子

殺す必要がある

菜子

でもトーマくんには

菜子

死ぬより辛い苦痛を

菜子

与えるようにしなければならない

トーマ

じゃ、じゃあ…

菜子

これからトーマくんには

菜子

痛みを味わってもらう

菜子はバンドを手に取ると おれの真前で

手首から先 指を一本ずつ

動かないように 固定していった

トーマ

な…

トーマ

復讐するつもりなのか

菜子

復讐?

菜子

笑わせないで

菜子

当然の報いよ

この作品はいかがでしたか?

56

コメント

2

ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚