おれの指 一本一本に
絆創膏大の バンドが巻かれる
バンドを巻かれた指は 椅子の肘掛けに金具で接着され
手の自由を奪われる
もう片方の手もそうなるのではないかと思って
おれは拳を固く握る
しかし菜子の 両手の力には
到底敵わなかった
指が一本ずつ 引き伸ばされ
肘掛けに留められる
トーマ
トーマ
菜子
菜子
今度は太いバンドを取り出し
それを首元にかけた
後ろから 少しずつベルトが締まる
トーマ
菜子
菜子
菜子
ベルトは首を 車椅子のバックサポートに固定した
菜子
菜子
完全に身動きが取れなくなった状態の おれを乗せた車椅子は
菜子に押されて 部屋を出た
部屋の外は すぐ廊下になっており
奥の部屋からは 眩しい光がこちらにさしこんでいる
トーマ
おれがそう菜子に問うと
菜子は気味の悪い声で 笑いたてた
菜子
菜子は車椅子の車輪に ロックをかけた
おれは辺りを見回す
トーマ
トーマ
おれの狼狽にはお構いなしといった顔で 菜子はおれのもとに
点滴の吊るしてあるスタンドを 持ってきた
琥珀色の大容量の液体
菜子は慣れた手つきで
点滴の準備をはじめた
トーマ
わずかに動く首を 下にふると
腕にゴム管が 結ばれるのが見えた
トーマ
トーマ
菜子
蝶々型の針が 浮き出た血管に迫る
おれはその様子を 見ていることしかできない
身じろぎも虚しく
針は腕にずぶりと突き刺さった
トーマ
点滴の筒のなかで 液体がぽたぽた滴る
熱い液体が 体の中を駆け巡るように
全身に廻っていった
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子は淡々と述べる
翼状針の刺さっている部分が
まるで焼いた鉄を 当てられているかのような
異様な痛みを発している
トーマ
身体中がむず痒い 立ち上がって全身を引っかきたかった
だが僅かでも 身体を動かすことはかなわなかった
さっきまで足枷をつけられていた足の痛みが 戻ってきた
傷口に毒を塗られているような
じんわりとした痛みが 伝達される
菜子
トーマ
すると菜子は 点滴をしていない方の腕を
軽く摘んで 皮膚を捻った
トーマ
肉が千切れそうになるほどの 耐えがたい痛みが
腕全体にまわった
トーマ
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
トーマ
菜子は台の上にあった 手術用の鋏を手に取った
トーマ
トーマ
トーマ
パチパチ、と2度動かし 動作を確認すると
鋏はおれの方に向けられた
トーマ
トーマ
トーマ
菜子
菜子は汗でじっとり濡れた シャツの裾を持つと
そこから一気に シャツを鋏で裂いた
菜子
菜子
トーマ
トーマ
菜子
菜子
続いてジーパンにも 鋏が入り
脚が顕になった
ボクサーパンツも 鋏で裂かれ
下半身もなんの尊厳もなく 菜子の目の前に晒された
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
菜子
菜子
菜子
そう言うと菜子は
鋏を台に戻し
新しい道具を見せつけた
トーマ
30センチはありそうな 長い銀色の針だ
奥からの光を受けて ぎらりと光る
おれは想像してはいけないことを 思ってしまった
「もしこれが男性器に刺さったら?」
「舌を出されてそこに打たれたら?」
「眼球を潰されたら?」
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
菜子は喚くおれを 無視して
針を 拘束された左手の人差し指の先端 爪と皮膚の間に
当てた
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
爪のすぐ下 皮と肉の間に
ちかっと針が入った
トーマ
針は爪と筋肉の間にある粘膜を くねくね探りながら奥へ進む
指を引きちぎられるような
耐えがたい痛みが 脳に伝達される
針は指の付け根を通り越し 手の甲までずぶずぶと入りこむ
皮膚の下で ミミズがのたうち回るように
針先があやしく動く
菜子
菜子
菜子
菜子は一気に針を引き抜いた
指全体が熱い
トーマ
トーマ
トーマ
菜子
菜子は平然と言った
菜子
菜子
針が喉元に当てられ
その針先が少しずつ下にずらされる
つつつ、とすべる針先は
右の乳頭のところで止まった
トーマ
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
乳頭の先端部に 針がうずまる
表面にぬらりと輝く膜を持つ 血の球がぷくっと膨れる
トーマ
トーマ
針が刺さっている部分を中心に 皮膚がくぼんでいる
針先が時間をかけて 胸の奥へ進む
心臓が鼓動を打つたび ひときわ激しく痛みが押し寄せる
おれは絞められた魚のように 目をひん剥いて口から涎を垂らした
菜子
菜子
レバーを倒すように
針の持ち手をぐいと下の方に向ける
肺の中でうじ虫が蠢いているかのような それが気管まで達して 喉まで這ってくるような
激痛が体を襲う
菜子は針をピンと弾いた
トーマ
針が時間をかけて 引き抜かれる
血液が滴っている
トーマ
トーマ
トーマ
菜子
菜子
菜子
菜子はアルコールの匂いがする 脱脂綿で針を拭うと
再びおれの身体に 針先を向けた
菜子
菜子
菜子は 涎まみれの下唇を摘んで
内側から針を当てた
トーマ
そのまま針先を埋める
血の味が口の中に 充満する
そして反対側に 針が突き抜けるぐらい
針を回しながら うずめていく
針先が唇を貫くと
菜子はしごくように 針を抜き差しした
トーマ
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
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