今日はエイプリルフールだ
特にすることもなかった僕らは、いつものように僕の部屋に集まると、適当にビールを飲み始めた
今日はエイプリルフールだったので、退屈な僕らはひとつのゲームを思い付いた
嘘をつきながら喋る。そしてそれを皆で聞いて酒の肴にする
くだらないゲームだ。 だけど、そのくだらなさが良かった
僕
僕
僕
初めて知ったのだが 嘘をついてみろ、と言われた場合、人は100%の嘘をつくことはできない
僕の場合、夏にナンパはしてないけど 当時の彼女は妊娠したし、一児の父ではないけれど 背中に水子は背負っている
どいつがどんな嘘をついているかは、なかなか見抜けない。見抜けないからこそ楽しい
友達
そうやって順繰りに嘘は進み、最後の奴にバトンが回った
そいつはちびりとビールを舐めると、申し訳なさそうにこう言った
友達
友達
友達
そう言って姿勢を正した彼は、では、と呟いて話を始めた
僕
僕は朝起きて気付くと、何もない白い部屋にいた
どうしてそこにいるのか、どうやってそこまで来たのかは全く覚えていない
ただ、目を覚ましてみたら僕はそこにいた
僕
しばらく呆然としながら、状況を把握できないままでいたんだけど、 急に天井のあたりから声が響いた
古いスピーカーだったんだろうね、ノイズがかった変な声だった
声はこう言った
声
声
で、そこで初めて気付いたんだけど、僕の背中の側にはドアがあったんだ。 横に赤いべったりした文字で『進め』って書いてあった
声
声
僕
馬鹿らしい話だよ。 でもその状況を、馬鹿らしいなんて思うことはできなかった
それどころか、僕は恐怖でガタガタと震えた。それくらいあそこの雰囲気は異様で、有無を言わせないものがあった
そして僕は考えた
どこかの見知らぬ多数の命か、 すぐそばの見知らぬ一つの命か、 一番近くのよく知る命か。 進まなければ確実に死ぬ
それは『みっつめ』の選択に なるんだろうか。嫌だ。 何も分からないまま死にたくはない。 一つの命か多くの命か?そんなものは比べるまでもない
僕
寝袋の脇には 大振りの鉈があった。 僕は静かに鉈を手に取ると、ゆっくり振り上げ 動かない芋虫のような寝袋に向かって、鉈を振り下ろした
寝袋
鈍い音が、感覚が、伝わる。 次のドアが開いた気配はない。 もう一度鉈を振るう
寝袋
顔の見えない匿名性が、罪悪感を麻痺させる。もう一度鉈を振り上げたところで
ドア
ドアの開く音がした。右手のテレビの画面からは、色のない瞳をした餓鬼が、ぎょろりとした眼でこちらを覗き返していた
次の部屋に入ると、右手には客船の模型、左手には同じように寝袋があった。 床にはやはり紙がおちてて、そこにはこうあった
紙
紙
客船はただの模型だった。 普通に考えれば、これを壊したら人が死ぬなんてあり得ない
けどその時、その紙に書いてあることは絶対に本当なんだと思った。 理由なんてないよ。ただそう思ったんだ
僕は寝袋の脇にあった灯油を空になるまでふりかけて、用意されてあったマッチを擦って灯油へ放った
寝袋
寝袋はたちまち炎に包まれた
僕は客船の前に立ち、模型をぼうっと眺めながら、鍵が開くのを待った
2分くらい経った時かな。 もう時間感覚なんかはなかったけど、人の死ぬ時間だからね。たぶん2分くらいだろう
ドア
次のドアが開いた
左手の方がどうなっているのか、確認はしなかったし、したくなかった
次の部屋に入ると、今度は右手に地球儀があり、左手にはまた寝袋があった。 僕は足早に紙切れを拾うと、そこにはこうあった
紙
紙
僕
思考や感情は、もはや完全に麻痺していた
僕は半ば機械的に、寝袋脇の拳銃を拾い撃鉄を起こすと、すぐさま人差し指に力を込めた
拳銃
乾いた音がした
拳銃
リボルバー式の拳銃は、6発で空になった
初めて扱った拳銃は、コンビニで買い物をするよりも手軽だったよ
ドアに向かうと、鍵は既に開いていた。 何発目で寝袋が死んだのかは知りたくもなかった
ドア
僕
思わず僕は 声を洩らした
最後の部屋は何もない部屋だった
ここは出口なのかもしれないと思うと少し安堵した。 やっと出られる。そう思ってね
すると、再び頭の上から声が聞こえた
声
僕は何も考えることなく、黙って今来た道を指差した
するとまた、頭の上から声がした
声
声
僕はぼうっとその声を聞いて、安心したような、虚脱したような感じを受けた
とにかく全身から一気に力が抜けて、フラフラになりながら最後のドアを開けた
光の降り注ぐ眩しい部屋、目がくらみながら進むと、足にコツンと何かが当たった
三つの遺影があった
父と、母と、弟の遺影が
友達
彼の話が終わった時、僕らは唾も飲み込めないくらい緊張していた
こいつのこの話は何なんだろう。 得も言われぬ迫力は何なんだろう
そこにいる誰もが、ぬらりとした気味の悪い感覚に囚われた
僕はビールをグっと飲み干すと、勢いをつけてこう言った
僕
僕
そういうと彼は、口角を釣り上げただけの不気味な笑みを見せた
その表情に、体の底から身震いするような恐怖を覚えた
そして、口を開いた
友達
僕
友達
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解説 「ひとつ、作り話をするよ」 これが嘘。この話は実話