テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
💙青椒肉絲🧡
64
746
康二
静まり返った玄関に、康二の声が虚しく吸い込まれていった。 メンバーたちと別れ、一人で帰ってきた部屋は、驚くほど冷え切っていた。 靴箱の横には、目黒が普段履いているスニーカーが綺麗に並んでいる。 リビングへ進めば、キッチンには目黒が愛用している黒いマグカップ。 ソファのクッションからは、かすかに目黒のお気に入りの香水の匂いがした。 部屋のいたるところに、大好きな恋人の痕跡がこれでもかと残っている。 それなのに、本人はここにはいない。 (こんなに近くにめめを感じるのに……なんでこんなに遠いんやろ) 康二はカバンを床に置くと、着替えもせずにソファへ倒れ込んだ。 目黒の匂いが残るクッションをぎゅっと抱きしめる。 しかし、その温もりはどこか切なく、康二の孤独感を余計に煽るだけだった。 ブブ、とポケットの中でスマホが震えた。
蓮
画面に表示された優しいメッセージ。 目黒は地方ロケの忙しい合間を縫って、毎日こうしてマメに連絡をくれていた。 浮気なんて、これっぽっちも疑っていない。 目黒が自分を真っ直ぐに愛してくれていることは分かっている。 だけど。 『撮影、順調だよ』というその一言から伝わってくる、目黒の仕事への充実感とプロ意識。 あの日交わした「秘密だからこそ、お仕事は全力で頑張ろう」という約束を、目黒はロケ地で完璧に全うしているのだ。 それが今の康二には、かえって眩しすぎて、そして凶器のように鋭く胸に刺さった。
康二
液晶画面にポツリと涙が落ちる。 『大丈夫、頑張ってな!』と、いつもの元気なトーンを装った絵文字付きの返信を送り、スマホを伏せた。 部屋のあまりの静けさに耐えかねて、康二は逃げるようにテレビのリモコンの電源ボタンを押した。 音が欲しかった。 誰でもいいから、人の声が欲しかった。
蓮
コメント
1件
第5話、読み終えたわ……。康二の「ただいま」が響かない部屋の描写が切なすぎた。目黒のスニーカー、マグカップ、香水の匂い——好きな人の痕跡が全部“居ない”を強調してて、胸がギュッてなった。スマホ越しの優しい連絡がむしろ孤独を深めるの、リアルで辛いな。最後のテレビの音、誰かが「切なくて」って話してるのがまた……続きどうなるんやろ。