クロエ
済みましたので♪
2人きりの会談を終えた後、 聖女こと『クロエ・ミスミ』は 晴れやかな顔で帰って行った。
ウェンデッタ
去ったわねぇ…
ひと仕事を終えたウェンデッタは、 自分の部屋へ 戻ることにしたのだった。
――ウェンデッタの自室。
ウェンデッタ
クロエと協力することに
なったわ
ダニエル
聖女と主人の密談内容を聞かされた 執事は、 勢いよく白目を剥いた。
ダニエル
ダニエル
3年後に死んじゃう
なんてッ⁉
ウェンデッタ
進めばね
ウェンデッタ
ダンも死ぬわよ
ダニエル
ダニエル
イヤですけどッ!!
ウェンデッタ
嫌よっ!
ウェンデッタ
殺されたくないから
ウェンデッタ
してるんじゃない
ウェンデッタ
色々対策できる
でしょ?
ダニエル
ダニエル
旦那様や奥様にも
相談して――
ウェンデッタ
言わないわ
ダニエル
ウェンデッタ
伝える可能性も
否定しないけれど…
ウェンデッタ
今ではないわね
ダニエル
ダニエル
死んじゃうかも
なんですよ⁉
ダニエル
お伝えしないとッ――
ウェンデッタ
大切なことを
忘れてるわ…
ダニエル
ですか??
ウェンデッタ
考えてみて
ウェンデッタ
3年前に戻ってきた』
と打ち明けたところで
ウェンデッタ
と思う?
ダニエル
ようやく理解したダニエルは、 頭を抱える。
ダニエル
オチっすねェ…
ウェンデッタ
すんなり信じたダンに
驚いたわよ…)
ウェンデッタ
肝心なところで
素直すぎるというか…)
ウェンデッタ
だからこそ、信頼してる
んだけどね)
静かに微笑む ウェンデッタ。
ウェンデッタ
“殺人犯”扱い
されたとき)
ウェンデッタ
かばってくれたのは、
ダンだけだったわ!)
ウェンデッタ
あなたまで殺されて
しまったけど…)
少女は思い出す。
前世のダニエルが、 見るも無残に 斬り殺されてしまった瞬間を――
ウェンデッタ
ウェンデッタ
これから戦う相手は、
あまりに強いわ…
ウェンデッタ
あなたを見捨てたり、
裏切ったりなんかしない
ウェンデッタ
私を信じて
ついてきてくれる?
ダニエル
ダニエル
俺の仕事ですからね
ダニエル
お供しますよっ!
決意を固めた主人の問いかけに、 ダニエルは笑って 即答したのだった。
ウェンデッタ
作戦を詰めましょう
ウェンデッタ
私たちの勝利条件は?
ダニエル
『生き残ること』です!
手を挙げて答えるダニエル。
ウェンデッタ
絶対に譲れない
最低ラインね
ウェンデッタ
『円満な婚約破棄』よ!
ダニエル
ダニエル
ウェンデッタは生まれながらに 皇太子アルスとの婚約が 決まっている。
古き伝統を重んじるこの国で、 その決定を取り消すのは 至難の業だ。
ウェンデッタ
やるのよ!
ウェンデッタ
アルスと距離を置くのが
最善だもの
ウェンデッタ
『皇室とも
他の権力者とも
良好な関係のまま』
…ってのが前提だけどね
ダニエル
ダニエル
婚約破棄できたん
ですよね?
ウェンデッタ
惚れたからよ!
ウェンデッタ
押し切って、
アルスのほうから無理やり
私と婚約破棄したの…
ウェンデッタ
そうもいかないわ
ウェンデッタ
アルスと関わるつもりが
無いんですって
ダニエル
押し付けられてる
じゃないですかっ!
ウェンデッタ
教えてくれるだけ
まだマシよ…
ウェンデッタ
最優先事項として
慎重に検討しましょう
ダニエル
来週の、お嬢16歳の
誕生パーティーですよね?
ウェンデッタ
“エスコートしてくれる”って
無表情に吐き捨てる ウェンデッタ。
ダニエル
痛くなりそうです…
ウェンデッタ
断れないしね…
現状のアルスは ウェンデッタに対して “理想の良き婚約者”を演じている。
ならば五大貴族の一員である ウェンデッタも、果たすべき義務は 果たさねばならない。
下手に距離を取れば、 皇族への不敬罪にも 問われかねないだろう。
ウェンデッタ
考えようによっては
絶好のチャンスだわ
ウェンデッタ
損ねないよう
動向を探りましょう
ウェンデッタ
進めたい作戦が
『対抗手段の確保』よ
ダニエル
皇太子殿下を
相手に立ち回るわけ
ですもんね
ウェンデッタ
じゃないわ
ウェンデッタ
暗殺し、その罪を
私にかぶせた奴――
ウェンデッタ
“真犯人”にいたっては
正体すら不明…
ウェンデッタ
とてつもなく
手強いことだけは
確かよ
ダニエル
“シラヌイ家”すら
つぶされちゃった
んですもんねぇ…
ウェンデッタ
早急に力を付けなきゃ
いけないの
ウェンデッタ
先手を打てるほど柔軟な
対抗手段――
ウェンデッタ
有効かは、これから
考えなきゃだけど
ダニエル
大変そう…
ダニエル
できるんですかね?
ウェンデッタ
勝機なら
あるわ!!
ウェンデッタ
次期皇妃として
ウェンデッタ
皇妃教育を
受けてきたのよ?
ダニエル
ダニエル
寝る暇も惜しんで
真面目に勉強して
おられますもんね…!
ダニエル
身に付けるべき
礼儀作法はもちろん
ダニエル
法律、文化に芸術、
天文学、外国語…
ウェンデッタ
学んだ範囲に関しては
ウェンデッタ
ふらふら遊んでる
聖女ごときに負ける
つもりはなくってよ!
ウェンデッタ
3年間の“未来”を
知りつくしているわ
ダニエル
ウェンデッタ
前世の記憶は
聖女も持っているし
ウェンデッタ
未来が変わる可能性も
考えられるけれど
ウェンデッタ
アドバンテージには
なるはずよ!
ウェンデッタ
先手先手で、勝率を
上げられるでしょ?
ダニエル
ダニエル
してきましたッ!
ウェンデッタ
勝つわよッ!
ウェンデッタ
状況だけど――
真剣な顔の2人は、 これからの動きについて 具体的に相談し始めたのだった。
――1時間後。
ウェンデッタ
詰められるのは
ここまでかしら
ダニエル
ダニエル
わからないことが
あって…
ウェンデッタ
ダニエル
聖女様の提案を
飲んだんですか?
ダニエル
そんな憎らしい相手と
協力なんて――
ダニエル
考えられない
ですッ!
ウェンデッタ
断ろうと思ったわ
ウェンデッタ
積もり積もった
恨みもあるし…
ウェンデッタ
平気で他人も
利用する性悪よ
ウェンデッタ
持ち掛けてきたのも
十中八九
ウェンデッタ
目的のために
私を踏み台に
するつもりよね
ウェンデッタ
そうそう
変わらないもの
ダニエル
なんでッ…!
ウェンデッタ
ウェンデッタは 紅茶を一口飲んで、 それから答えた。
ウェンデッタ
言ったのよ
ウェンデッタ
ありません』
ウェンデッタ
幸せをつかみたい
だけなんです』って
ウェンデッタ
あの言葉だけは
嘘じゃない…
ウェンデッタ
真っすぐな本心
だと思ったわ
ウェンデッタ
なんか可哀そうに
なっちゃってね…
ウェンデッタ
みてもいいかな、
って気になったの
ダニエル
それじゃお嬢がッ――
ウェンデッタ
ただ騙されてあげる
つもりはないわ
ウェンデッタ
こっちだって骨の髄まで
利用してやるわよ!
ダニエル
ウェンデッタ
信じるふりをして
情報を引き出しつつ
コントロールするの
ウェンデッタ
こちらに有利な状況を
気づかれないうちに
作り上げ――
ウェンデッタ
美味しいところを
ぜ~んぶ総取り
してやるわッ…!
ダニエル
いつものお嬢らしく
ないですね
ウェンデッタ
でしょ?
ニヤリと笑う主人。
ダニエル
ダニエル
戸惑いつつ頷く執事。
ウェンデッタ
ウェンデッタ
陥れる趣味はないわ
ウェンデッタ
危害を加える恐れがある
奴ら』限定よ
ウェンデッタ
前世のアルスやクロエは
“潔白な私”を
散々“悪女”扱いして
くれたんだもの…
ウェンデッタ
悪女を演じたからって
文句をつけられる
義理はないわ!
ウェンデッタ
前世では私と同じく
“アルスの被害者”でも
あるのよね…)
ウェンデッタ
本当に改心していて)
ウェンデッタ
なってくれるなら、
その時は……)
ウェンデッタ
迷いを振り払うように、 ウェンデッタは 自分の頬をパチンと叩く。
ウェンデッタ
起こるはずも
ないわね)
ウェンデッタ
大切な人たちを守る…
…ただ、それだけよ)
ウェンデッタ
いくらあっても
足りないわ
ダニエル
多すぎですもんねぇ
ウェンデッタ
誕生パーティーに
備えるわよ
ウェンデッタ
皇太子殿下を
“手厚くお迎え”して
やらなきゃね!
ダニエル







