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目を覚ました瞬間、江川枇翠(エガワヒスイ)は自分の目を疑った。
周囲に広がっていたのは、色を失った街並みだった。
白く、無機質で、まるでスケッチブックに鉛筆だけで描かれたような世界。
ビルも、道路も、街路樹さえも、輪郭線だけで形を保っている。
そこに色彩は一切なく、ただ淡々と存在しているだけだった。
江川枇翠
戸惑う枇翠の耳に、明るい声が届く。
神代碧芭
振り返ると、そこに立っていたのは神代碧芭(カミシロアオハ)だった。
彼だけは、この世界に似つかわしくないほど鮮やかな色を纏っている。
白と黒が混じり合った髪、薄く笑みを浮かべる唇、そして澄んだ灰青の瞳。
江川枇翠
神代碧芭
碧芭は軽やかに言った。
神代碧芭
その言葉に、枇翠は息をのんだ。
昨日、碧芭が口にした言葉――『透明の世界に行かない?』。
まさか本当に、そんな場所があるなんて。
江川枇翠
神代碧芭
碧芭は笑いながら、近くのベンチに腰を下ろす。
ベンチもまた白一色で、影すら曖昧だ。
枇翠は周囲を見回した。
確かに建物はある。
だが、人影も音もない。
風すら吹かない。
世界そのものが、時間を止めてしまったかのように静まり返っている。
江川枇翠
神代碧芭
碧芭の声は柔らかく響いた。
その言葉を聞いて、枇翠の胸の奥にじんわりと安堵が広がる。
学校に行かなくてもいい。
家族の視線に怯えなくてもいい。
ここなら、本当に全部から解放される。
神代碧芭
碧芭は少し真剣な顔でこちらを見つめる。
神代碧芭
枇翠は答えられなかった。
けれど、その瞳に映る自分だけは、確かに色を持ち始めていた。