透明な世界に来てから、どれくらいの時間が経ったのか。
江川枇翠にはもう分からなくなっていた。
空は常に白く、太陽も月も見えない。
時計を探しても針は動かず、音は何ひとつ聞こえない。
けれど、不思議と眠くもならないし、腹も減らない。
江川枇翠
思わず呟いた言葉に、隣を歩く神代碧芭が振り返る。
神代碧芭
神代碧芭
江川枇翠
碧芭は肩をすくめ、軽く笑った。
神代碧芭
返す言葉を失い、枇翠は俯いた。
確かに、あの夜――心のどこかで願ってしまった。
「嫌なことが全部消えてほしい」と。
その弱さが、自分をこの世界に引き寄せたのかもしれない。
神代碧芭
碧芭が指差した先に、小さな公園のような場所があった。
ブランコや滑り台の形はあるが、もちろん真っ白。
それでも、ふたりが腰を下ろせば、そこは確かに「居場所」になった。
神代碧芭
碧芭はブランコを揺らしながら笑った。
神代碧芭
神代碧芭
枇翠は隣に座り、足元の地面を見つめる。
本当にそうだ。
誰もいない。
誰も責めない。
ここは、ふたりだけの世界。
胸の奥に重く積もっていたものが、少しずつ溶けていくような感覚があった。
けれど同時に、かすかなざわめきもあった。
江川枇翠
答えは出せないまま、枇翠はただ碧芭の隣で揺れるブランコの音を聞いていた。
透明の世界に響く、唯一の音のように――。