海底の約束

第1話「沈む日」 沈む瞬間を、僕は見ていた。 ビルの隙間から　空が崩れて 水が　世界を優しく壊していった。 逃げる声も　泣き声も 全部　泡になって消えた。 でも、君の最後の言葉だけは まだ　耳の奥に残っている。

第2話「夢を泳ぐ」 目を閉じれば　毎晩あらわれる。 あの角、あの笑顔、あの「またね」。 誰なのかも、どうしてかも 思い出せないのに なぜか涙が　勝手に流れる。 僕は　記憶を無くしたらしい。 でも、心だけは　まだ君を知っている。

第3話「導きの影」 イルカがいた。 まるで　僕を待っていたように 静かな都市を泳いでいく。 誘われるように　歩き出す。 懐かしいはずの道が　まるで初めてのように冷たい。 それでも、ここが「約束の場所」だったことだけは わかるんだ。胸の奥で。

第4話「約束の声」 見つけた。 バス停の屋根にひっかかった浮き輪と そのすぐそばに浮かぶ　君の姿。 「守ってくれて　ありがとう」 たったひとことに 僕の全てが報われる。 僕は　ここまで来てよかった。 君に　もう一度　会えたんだ。

第5話「ふたりの未来」 この都市は　沈んだままだ。 けれど僕の心は　浮かび上がる。 君の言葉が　僕を救ってくれた。 もう、迷わない。 たとえ君に触れられなくても この街で　僕は前を向く。 そう思えるくらいに 君は　ちゃんと　ここにいた。