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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

数週間前――。

三富

(こんなところに古本屋なんてあったかしら。まぁ、雰囲気も嫌いじゃないし、ちょっとした新発見ね)

その日、三富はいつものようにふらりと出かけ、たまたま目に入った古本屋に入った。

普段から本を読むほうではないのだが、なぜか引き寄せられたというか、妙な好奇心が沸いて、入店するにいたった。

三富

(あら、白雪姫。これ、前から欲しかったのよ――)

引き込まれるように、本棚から絵本を手に取る。

三富

(どうして欲しかったのかしら。まぁいいわ。やっと手に入ったんだし)

自分でも絵本を手に取ったことが不思議でならなかったが、絵本を手に入れた満足感のほうが勝った。

絵本を片手にレジカウンターへと向かう。

すると、レジカウンターには先客がおり、店員と何やら揉めているようだった。

アルバイト風の店員

お嬢ちゃん、ごめんね。

アルバイト風の店員

知ってると思うんだけど、お金がないとそれ……買えないんだ。

????

だってこれ、お母さんが持ってた絵本だもん。

女の子の返答に、ため息をつく店員。

アルバイト風の店員

あのねお嬢ちゃん。何度も言うけどね、ここは古本屋さんって言ってね。

アルバイト風の店員

本を持っていた人がいらなくなった本を買って、それを別のお客さんに売るんだ。

アルバイト風の店員

だから、それは元々お母さんのものだったのかもしれないけど、今はお店のものなんだ。

アルバイト風の店員

お店のもの、お金がないと買えないのは知ってるよね?

????

でも、お母さんのだもん。

????

ほら、ここ見て。

????

六冥が小さい時に破って、セロテープで留めた跡があるでしょ?

アルバイト風の店員

はぁ、まるで話にならないな。

なんだか見ていられなくなった三富は、女の子に声をかける。

三富

お嬢ちゃん、それ――欲しいの?

????

お嬢ちゃんじゃない。
六冥。

三富

そう、それじゃ六冥ちゃん。
その絵本、良かったらお姉さんが買ってあげるわ。

六冥

え?
お姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんじゃ……。

三富

お姉さん!
いいわね?

六冥

う、うん。
ありがとうお姉ちゃん。

三富

……ふふっ、よくできました。

三富

店員さん、この子の絵本と、アタシの絵本。2冊でおいくらになるかしら?

絵本にしてはやや値が張ったが、どうしても女の子に絵本を買ってやらねばならない気がした三富は、代金を出してやる。

三富

はい、どうぞ。

改めて絵本……女の子が好むとは思えない、浦島太郎を渡してあげると、六冥はそれを両手に持って掲げ、目を輝かせた。

六冥

ありがとう!
お兄……お姉ちゃん。

三富

どういたしまして。
それじゃ、気をつけてお家に帰るのよ。

三富は六冥の頭をなでると、ひと足先に本屋を後にした。

三富

(えっ、アタシついさっきまで本屋に……)

ふと、本屋を出た後に振り返ると、そこにあったはずの本屋は消えていて、古そうな雑居ビルの入り口が口を開けていた。

ふと、足元を見ると、大事そうに絵本を抱えた六冥が、三富と同じように雑居ビルの入り口を見つめていた。

六冥

本屋さん――消えちゃった。

三富

(でも、だとしたらアタシとこの子が持ってる絵本はなんなの?)

気味の悪さを感じつつ、同じように戸惑っている六冥に声をかける。

三富

ほら、早くお家に帰りなさい。ご両親が心配するわ――。

六冥

お父さん、私が産まれる前に死んじゃった。

六冥

お母さん、この前死んじゃった。

三富

あ、あらそう。それは――ごめんなさいね。

六冥

お家帰っても、おじさんとおばさんに怒られるだけ。

六冥

あのまま、あのお家にいたら、六冥いじめられるだけ。

六冥

だから逃げてきたの。

三富

そうなの……困ったわね。

三富

(人様の家のことをどうこう言えたもんじゃないけど、ちょっと放っておけないわね)

三富

(この子の言うことが本当なら、下手に警察にも届けられないし)

どうしたものかと考えあぐねていると、六冥のお腹の虫が鳴いた。

三富

あら、お腹空いてるの?

六冥

……うん、昨日からなにも食べてない。

三富

あ、ちょっと待ちない。
確かポケットの中に……。

三富はポケットの中に入っていたチョコレートを取り出す。

銀紙で包まれている、三富お気に入りのお菓子だった。

三富

はい、どうぞ。

六冥はおそるおそるといった具合でチョコレートを受け取ると、銀紙を開けて中身を頬張った。

六冥

……ちょっと溶けてる。

三富

ポケットの中に入れてたからね。

六冥

それと、ちょっと甘ったるくてくどい。

三富

……でも美味しいでしょ?

六冥

うーん、良く分かんない。

六冥はそう言いつつもチョコレートを飲み込むと、なにかを訴えかけるような眼差しを向けてきた。

六冥

あのね、お願いがあるんだけど。

三富

なにかしら?

六冥

少しの間でいいから、お家行ってもいい?

三富

ア、アタシの家に?

三富

あのね、アタシ心は女だけど、生物学的には男でね。

三富

で、男があなたみたいな年頃の女の子を家に連れ込んだとなると、犯罪みたいな感じになっちゃうのよ。

六冥

じゃあ、泣く。

三富

え?

六冥

この場で「殺される」って泣く。

六冥

だって、置いていかれたら本当に私、死んじゃうから。

三富

そ、それ本気で言ってるの?

六冥

ちょっとだけ泣いてみようか。

三富

や、やめなさい。

三富

分かった。ただし今日だけよ。

三富

明日になったら出て行ってもらうんだから。

六冥

ありがとう……えっと。

六冥

お名前は?

三富

アタシ?

三富

アタシは三富よ。

六冥

ありがとう三富!

三富

これがアタシと六冥の出会い。

三富

絵本の所有者同士は引き合わせられることになる――なんて知ったのは、つい最近のこと。

三富

結局、どうしていいのか分からないまま、今日までアタシは六冥と暮らしてきたの。

七星

話を聞く限り、そこまで勝負の経験もないようだな。

七星

では、なぜ私達に勝負を仕掛けてきた?

四ツ谷

聞いた感じ、知識も俺達のほうが多いみたいだし、時期的にも俺達のほうが先輩だけどな。

三富

六冥と日々を過ごしながら、どうしたものかと考えていた矢先、あの男がアタシの前に姿を現したのよ。

一宮

あの男?

三富

えぇ、あの男が姿を現して、そしてアタシはあなた達とやり合うことになったのよ。

三富

その男の言われるままにね。

三富

男は確か……十三形と名乗っていたわ。
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