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テラーノベル(Teller Novel)

如月優子

真優奈ー!

如月優子

体操着は昨日のうちに出してって言ってあったでしょ?

如月真優奈

忘れてた……

如月真優奈

ごめんなさい

如月拓篤

優子がチェックすれば済む話だろ?

如月拓篤

朝からガミガミ怒鳴るなよ

如月優子

真優奈はもう十歳になるの!

如月優子

これくらいできないと……

如月拓篤

"まだ九歳"だよ!

如月拓篤

真優奈がかわいそうだとは思わないの?

朝になるといつも私に文句をつける夫

私が言い返すと更に語気を強めてくるのに

娘の真優奈が言い返すと逃げるように会社へと出掛けていく

正直もうこの生活にはうんざりしているのだが

真優奈のために必死に耐えて生活している

こんな風に朝から喧嘩をしていても

夜になると行為を要求してくる

如月拓篤

優子……

如月拓篤

愛してる……

朝の酷い態度に対する謝罪はなく

あくまでも正しいのは自分であり

従わない私がおかしいと思っている

だから……

如月優子

今日はそんな気分じゃ……

そう言っても聞き入れてはもらえない

如月拓篤

俺がしたいんだよ……

如月拓篤

いいから脱げって……

私の気持ちを無視して

自分の欲望をぶつけてくるこの行為は

日に日に私の心を疲弊させていった

如月優子

(何が"愛してる"よ……)

如月優子

(子供が欲しいだけじゃない……)

生むのも育てるのも私

どうせ夫は手伝ってもくれない

金曜日

如月優子

よかった……

如月優子

やっと来た……

若い頃は煩わしくて嫌だった月経を今は心待ちにしてしまう

それ程、夫との行為を避けたいと思っていた

私だって最初から嫌だったわけではない

でも毎日のように繰り返される行為と

その際の強引で自分勝手な夫の振る舞いに

私の気持ちは次第に薄れていき

夫の計画を阻止しようと思うようになっていった

芳賀(婦人科医)

いつものお薬、処方しますね

如月優子

ありがとうございます

私は婦人科で避妊薬を処方してもらっていた

元々は月経不順を改善させるのが目的だったのだが

夫の計画を阻止するため

定期的に処方してもらうことに決めた

子供を欲しがる夫は避妊具など使ってはくれない

自衛のための策として編み出した精一杯の方法

決意したのはもう何年も前のことだった

夫は私がこんなことをしているとは思いもしないだろう

如月拓篤

ただいま!

如月優子

え!?

如月優子

どうしたの?こんなに早く……

如月拓篤

出先から直帰したんだ

如月優子

そうだったの……

如月拓篤

買い物は?

如月優子

さっき行ってきたよ

如月優子

豚肉が安かったから今日は生姜焼き

如月拓篤

なぁ……

如月優子

何?

如月拓篤

一度、二人で病院に行かないか?

如月優子

どうして……?

如月拓篤

もう何年もちゃんとしてるのに妊娠しないだろ?

夫の言葉に背筋が凍る

夫は私が避妊薬を常用していることを知らない

私は故意に子供を作らないようにしている

日々、繰り返される私の気持ちを無視した行為

もしそれで子供を授かったとしても

真優奈と同じように愛せるとはどうしても思えなかったからだ

如月拓篤

もしかしたら俺に原因があるかもしれないし

如月拓篤

不妊治療のこととかも聞いてさ

如月拓篤

本格的に妊活してみないか?

如月拓篤

真優奈だって弟がいたら嬉しいだろ?

如月優子

そんなこと言って……

如月優子

男の子が生まれるとは限らないでしょ?

如月拓篤

そしたらまた作ればいい

如月優子

は?

如月拓篤

男の子が生まれるまで何度でも……

如月拓篤

家族が増えるのはいいことだしね!

夫の言葉に吐き気がした

私も夫ももう三十代半ば

世の中には私と同世代や上の世代でも子供を望む人は沢山いるし

高齢出産と言うリスクを抱えながら不妊治療を頑張る人もいる

そう言う人達を否定するつもりはないが

私はこの歳でまた妊娠出産をするのはキツいと思っていた

如月優子

私は……

如月優子

真優奈がいれば……

如月優子

この歳での妊娠出産はリスクもあるだろうし……

如月拓篤

難しく考えることないだろ?

如月拓篤

俺は男の子が欲しい!

如月拓篤

だから作る!

如月拓篤

それだけのことだよ

それだけ?

私はまるで子供を作るためだけの道具のようだ

そこに私の感情なんて含まれてはいない……

如月優子

ごめん……

如月優子

ちょっとトイレ……

慌ててトイレに逃げ込んだ

急な吐き気もありもうあの場にはいられないと思った

それを夫は勘違いしたのか

如月拓篤

もしかして……

あらぬ方向へと妄想を膨らませていく

土曜日

如月拓篤

無理するなよ

如月優子

え?

如月拓篤

もう一人の身体じゃないんだ

如月優子

え……(何を言ってるの……?)

如月真優奈

ママ……体調悪いの?

如月拓篤

病気じゃないよ

如月拓篤

でも大事にしないとね

如月真優奈

???

如月優子

ちょっと待って……

如月優子

私……

そう言いかけたところで

ピンポーン!

インターホンが鳴り響く

如月拓篤

こんな朝から誰だ?

如月優子

はい……

佐藤寛貴

朝早くにスミマセン

佐藤寛貴

隣に越してきた……

佐藤奈穂美

佐藤奈穂美です!!

佐藤奈穂美

おはようございます!!

如月優子

あ!

如月優子

お隣の!

お隣はもう何年も空き家だった

私達が結婚してここに来た頃は老夫婦が住んでいたが

息子さん一家との同居が決まり引っ越していった

管理会社の人が時々、様子を見に来てはいたが

しばらく人が住む気配はなかった

そこに一家四人で越してきたと言う二人

如月優子

え!?

如月優子

お子さん四年生なんですか!?

如月優子

うちの娘も四年生なんです!

佐藤寛貴

じゃあ同級生ですね!

佐藤さんご夫妻には二人のお子さんがいて

女の子と男の子の双子なのだそうだ

佐藤寛貴

あのこれ……つまらないものですが……

そう言って手渡されたのはタオルのセットだった

佐藤寛貴

地元の名産品なんです

佐藤寛貴

そこまで有名と言うわけではないですが……

如月優子

ご丁寧にありがとうございます。

そう言って受け取ったタオルはとてもふわふわで柔らかく

如月優子

凄いふわふわ!

驚きの手触りに思わず声が出てしまった

佐藤奈穂美

枕の上に敷いたら極上の寝心地です!
(≧∇≦)b

ご主人はわりと普通に見えたが

奥さんからはちょっと変わった雰囲気を感じた

如月拓篤

"こんな朝早く"からわざわざすみません

如月優子

ちょっと拓篤!

嫌み全開の夫

佐藤寛貴

ほんとこんな時間にスミマセンでした

そう言って去っていく佐藤さんご夫妻を見送り居間に戻ると

夫は大きなため息をつく

如月拓篤

変なのが越してきたな

如月優子

変なのって……

如月優子

いくらなんでも失礼だよ

如月拓篤

少なくともあの奥さんは変わってる感じしたし

如月拓篤

あんまり関わらない方がいいと思うよ

如月優子

そんな……

確かに少し風変わりな感じはしたが

そんな風に決めつけてしまっていいのだろうか?

もしかしたら真優奈と同じクラスになるかもしれない

そうなれば保護者同士の付き合いも出てくるし

お隣さんを無視し続けるわけにもいかない

如月真優奈

私は仲良くしたいな

如月真優奈

お隣さんなんだし

如月拓篤

変なやつだったらどうする?

如月真優奈

パパ最低

そう言って真優奈が部屋に戻ると

夫の怒りの矛先はいつも私に向く

如月拓篤

もっとちゃんと教育してくれよ

如月優子

拓篤が変なこと言うからでしょ?

如月拓篤

なんでもかんでも人のせいか……

如月拓篤

あ……ごめん……

如月拓篤

身体を大事にしなきゃいけない時期なのに……

私はただ

夫の耳を疑う言葉に吐き気がしただけ

それを勝手に悪阻と勘違いして妙に優しくしてくる

如月優子

(気持ち悪い……)

如月優子

(そもそも今生理中なのに気づいてないの?)

でもこのまま妊娠したふりをしていれば

月経が終わっても夜の行為をしなくて済む

如月優子

(ちょっとくらい騙してもいいよね……)

真実を知れば夫は激怒するかもしれない

私が何故こんな嘘をついたのかを理解しようともせず

きっと何ヶ月もかけてねちねちと責めてくる

いつかはバレる嘘だとわかっていても

如月優子

(まだ大丈夫……)

どうしてもこの場で真実を告げることができなかった

二十年後のアホ美ちゃん

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