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開演五分前
舞台袖の薄暗い空間に太宰と中也は並んで立っていた
ステージの向こうからは満員の観客が発する微かなざわめきが聞こえてくる
太宰は目を閉じ、静かに呼吸を整えている
その横顔は完全に焼くの人物をその身に下ろした天才のそれだった
誰もが圧倒されるそのオーラを前に中也も言葉を失い、ただ彼の背中を見つめる
すると、ブザーが鳴り響く直前、太宰がふっと中也の方を振り返った
その瞳に一瞬だけ地下のスタジオで見せる昏い悪戯心が宿る
太宰は中也の耳元に顔を寄せ、観客のざわめきに消されるような低い声で囁いた
太宰
太宰
太宰
中也
中也
中也が驚愕して目を見開いた瞬間、舞台の幕が上がった
太宰
太宰
太宰は極上の笑みを中也に残し、光が溢れるステージへと迷い無く足を踏み出した
中也
太宰の背中が光の海へ消えていくのを見送りながら中也の頭の中はパニックで爆発しそうになっていた
中也
中也
もしあいつが本当に数日前のあのベッドの上で漏らしていたような身の毛もよだつほど淫らな台詞をこの神聖な舞台の上で抜かしやがったら
『ねぇ、もっと近くに来てくれよ』だの『君がそんなに啼くから私が狂っちゃうじゃないか』だの
中也
脳裏にフラッシュバックした汗ばんだ太宰の白い肌と鼓膜に直接響くような生々しい吐息の記憶
中也は激しく頭を振って自らの邪念を無理矢理叩き潰した
顔が信じられないほど熱い
今すぐ冷水を頭から被りたい気分だった
中也
中也
客席から響く割れんばかりの拍手と太宰の完璧な第一声が聞こえてくる
そのあまりにも堂々とした気品溢れる天才役者の演技を耳にして中也はついに理解した
中也
太宰が本番でとちるわけがない
あいつは誰よりもプロだ
つまりあの言葉はただ舞台袖でガチガチになっていた自分をからかい、動揺させて楽しむためだけの最低で最悪な挑発だったのだ
中也
中也は舞台袖の暗闇の中で思い切り拳を握り締めた
怒りで胃がキリキリと痛む
だけどそれ以上に悔しかったのは
中也
スポットライトを浴びて輝く太宰の横顔は悔しいほどに美しかった
怒りと焦りとそして自覚したくないほどの強い高鳴りが中也の胸の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていた
コメント
1件
ああああ第5話読み終わったよ〜〜!!😭💕💕 舞台袖の緊張感とか太宰の挑発マジずるくない!?「私の素敵なマネージャーさん」って去り際に残す台詞がエモすぎて悶えたわ…!!中也の脳内フラッシュバックのとこも「思い出しちゃった…!?」ってこっちまで照れるやつやんか🔥 怒りと高鳴りが混ざりまくってる中也の心情、天才すぎて泣く。あの太宰の横顔が綺麗で悔しいって気持ち、めっちゃわかる〜〜!!次も絶対読みに行くからね!!⋆♡