昨日は彼女のことばかり見ていて気がつかなかったが、辺りを見てみるとベンチがいくつか見えて元々は生徒が使えるよう開放されていたのだと気が付く
近くのベンチに僕は腰掛けて残りのおかずを食べていく
屋上にと連れ出した彼女は昨日と同じように柵に手を掛けて街並みを眺めていた
レイナ
レイナ
ねぇ?
アキト
?
レイナ
昨日はなんで私が死にたがってるって思ったの?
アキト
あっ……それは……
レイナ
別に屋上イコールで自殺とは限らないでしょ?
アキト
そのー……
レイナ
……まぁ、私もあなたと同じ立場ならそう感じちゃうけどね
レイナ
事実、昨日は本当にここから身を投げようか悩んでたからさ
アキト
!?
レイナ
私さ、学校が好きじゃないんだ
昨日とは打って変わって今日はよくしゃべる人にと変わっていた
レイナ
ここに私の居場所なんてないから
レイナ
教室入ればいろんな人の楽しそうな会話
レイナ
昨日のテレビや雑誌の話
レイナ
最近流行りのアニメにゲームの話
レイナ
男同士の下世話な会話
レイナ
そして、女どもの嫉妬にまみれた湿度の高い小話
レイナ
朝から夕時までそんな会話がずっと続く
レイナ
そんなしょうもない時間がいつの日か幸せに感じることもあるだろうけど
レイナ
今の私はそのどれもが苦しいもの
レイナ
何気ない日常ほど幸せなものはない
レイナ
そんなことを口にした奴はきっと自分が『そういった』境遇にあってないから言えるものだと私は思うの
レイナ
今もなお続くいじめなんかがそうじゃない?
レイナ
された方は毎日罵詈雑言を浴びて、そのうえ殴る蹴るの暴行
レイナ
そんな過酷の中生きていてそれがその人の日常だったら?
レイナ
これが幸せに感じるわけがない
レイナ
青春なんて言葉は学生の一握りの人間にしか当てはまらない
レイナ
それほどまでに学校という場は生きにくい
レイナ
そしてこれが大人になればもっと生きにくい
レイナ
上司にこびへつらって生きて、責任だけが膨れ上がる社会
レイナ
それらすべてに私は疲れたの
レイナ
今を生きるのも嫌だし、将来が必ず良い方向に向くとも限らない
レイナ
進む先は常に暗闇……
レイナ
そんなことを悟った時私はすべてがどうでもよくなった
レイナ
だからあの日こうして屋上に立って解放されようとした
レイナ
そんなときにあなたが現れた
レイナ
私の幕引きを神様が阻止するみたいにね……
詳細はぼかしていたがきっと彼女は例に挙げていた『いじめ』またはそれに近しい何かに苦しめられているのだろう
あまり誇りたくはないがこういったときの僕の勘はよく当たる
アキト
アキト
僕もさ、生きるのが嫌なんだよね
レイナ
?
アキト
僕は自分で言うと悲しくなるけど、特別目立つわけじゃない人間で
アキト
それでもあるグループには一応入ってる
アキト
でも、そのグループで和気あいあいとしていても何故か僕は疎外感を感じていた
アキト
友人同士のちょっとしたいじり合い
アキト
これらは仲がいいからこそできる一種のコミュニケーションだと思っているんだけど
アキト
その中でもやっぱりライン越えの発言はいくつかあった
アキト
それらは僕が何を言われても怒らないから、こいつになら何を言ってもやっても許されるから
アキト
そういう風潮があったんだと思う
アキト
でも、僕はそれに対してやめてという拒否の言葉は出せなかった
アキト
ある程度関わってきたからわかること
アキト
それを口に出してもこいつらは理解しない
アキト
だから、僕は怒ることをやめたんだ
アキト
それで、結果として僕は壊れちゃって……
アキト
いくつもあった趣味はほとんど関心がなくなって
アキト
食べるごはんも味がないことはざらにあった
アキト
いつしかぼくはそのグループから遠ざかっていきさらに人との関係も切っていった
アキト
気が付いたら僕は一人でここにいた
アキト
その時は乱暴にこのドアを開けようとしたり
アキト
ただただ泣き崩れたり、そんなことをしてたんだ
アキト
前を向く気力もなくなった僕は、それから心を
殺して毎日を『作業』のように過ごしてた
アキト
そんなときに君と僕は出会って、あんな無責任な言葉を口にしたんだ
アキト
勝手ながらに僕は君の姿と今の自分とを重ねてたんだろうね
アキト
アキト
なんてね、少ししゃべりすぎたかな
アキト
それじゃあ僕ごはんも食べ終わったから適当なところで時間つぶしてくるよ
食べ終えた弁当を袋に入れてバックに詰め込み席を立つ
アキト
今日はありがとう
アキト
それと、ばいばい
レイナ
レイナ
待って
アキト
?
レイナ
あなた名前は?
アキト
僕?
アキト
名前はアキトっていうけど……
レイナ
そう……アキトね
アキト
聞いてどうすんの?
アキト
これで僕と君との小さな約束は終わりだよ
アキト
これ以上は互いに干渉しない方がいいかなって……
レイナ
まだ、私の幼稚なお願いを聞いて貰ってない
アキト
え?
アキト
それってさっきの話じゃないの?
レイナ
それとは別
レイナ
あれは単に昨日なぜそこにいたのか
レイナ
それを説明しただけ
レイナ
お願いはまた別にある
アキト
……それじゃあそのお願いは何かな?
レイナ
『また明日』ここに来てほしい
アキト
……そっか
アキト
多分言われなくても来るよ
アキト
ここは僕のお気に入りの場所だからさ
アキト
誰にも邪魔されないぼくだけの空間だからね
レイナ
お願いはそれだけ
レイナ
じゃあまた明日
アキト
その前に君の名前も知りたいな?
アキト
僕も名乗ったんだ君も名乗る必要があるよね?
レイナ
そうね
レイナ
私はレイナ
レイナ
記憶の片隅にでも記憶しておいて
アキト
分かったレイナ
アキト
また明日似た時間にここに来るよ
レイナ
……期待せず待ってる