瀧
唯夏。
瀧
お見舞いに来たよ
瀧
調子はどうだ?
唯夏
…私あなたのこと知らないって言ってますよね
唯夏
なのにどうして毎日来るんですか?
瀧
記憶を失う前の君と,約束したからだよ
瀧
俺が唯夏の記憶を蘇らせる。そして,思い出せない時もそばにいる
瀧
そう,約束したんだ
そう,俺が大好きなあの笑顔で唯夏は笑ったんだよ
幸せそうに,嬉しそうに…。
唯夏
…そうですか
唯夏
でも,迷惑なので来ないでください
唯夏
それと,唯夏って呼び捨てするのもやめてください
唯夏
気持ちが悪いです
瀧
え…?
唯夏は
ゴミを見るかのような目線を向けてきた
なんで…そんなこと言うんだよ?
瀧
で,でも…
瀧
約束だって,したんだぞ⁈
唯夏
それは知りません
唯夏
嘘ついても無駄です
唯夏
あなた,もしかして記憶があったときの私をストーカーしてたんですか?
瀧
そんなことしてねぇ!
瀧
俺は,お前の…
唯夏
うるさいです
唯夏
出ていってください
唯夏
そして,二度と来ないでください
瀧
そんな…
唯夏は何を言っても無駄だとでも言うかのように
俺に背を向けて布団に潜った
瀧
(あの夢…やっぱり現実を教えるかのような正夢だったんだ…)
俺の心は
ぽっかりと大きな穴が空いたかのようだった
塁斗
瀧
塁斗
今日のお見舞い,どうだった?
瀧
元気そうだったよ、唯夏
塁斗
そうか
塁斗
で?
塁斗
唯夏ちゃん,今日こそ笑ってくれたか?
瀧
(笑ってくれたら…よかったけどな)
瀧
いや
瀧
むしろ,真逆だよ
塁斗
真逆?
塁斗
どう言う意味だ?
瀧
俺さ、唯夏に拒絶されたんだ
塁斗
はぁぁ⁈
塁斗
拒絶だと⁈
瀧
うん
瀧
ゴミを見るような目だったなぁ
瀧
呼び捨てするのもやめろって言われたよ
瀧
(もう,唯夏の笑顔は見れないんだろうな…)
塁斗
なんか…ごめんな
塁斗
だけど!
塁斗
諦めんなよな
塁斗
応援してるから
『がんばってね!応援してるから』
瀧
(唯夏,運動会で緊張しまくってた俺に笑顔でそう言ってくれたっけ)
瀧
(幸せだったな,俺。)
瀧
なんとも言えない
瀧
じゃあな
瀧
おやすみ
塁斗
いや,え?
塁斗
おい
塁斗
待てよ
塁斗
(唯夏ちゃん…瀧のこと,なんとか思い出してくれないだろうか…)
瀧
父さん
悠河
…あぁ,瀧
悠河
どうしたんだ
瀧
アルバム…ないのか
瀧
小さい頃の。
悠河
…俺の部屋の本棚にある
悠河
青色の分厚いアルバムだ
瀧
そうか
瀧
わかった
瀧
…見たら,返すからね
父さんの部屋にあったアルバムには
笑顔でうつる母さんと父さんと唯夏と俺がいた
瀧
唯夏…母さん…
あぁ,ダメだ
家族4人揃って楽しく過ごしてた日々
もう,思い出せないや…
それどころか
辛いことばかり頭をよぎる
誰にも愛されず、楽しくない毎日が続く昔の俺に戻ったみたいだ…………………。