「誰だよお前」 その言葉を君の口から聞いた瞬間に 俺の思考は働くことをやめた。 病室はシンと静まり、 桜君が俺の事を敵だと睨む顔だけが 俺の瞳に映し出された。
蘇枋
桜
桜
蘇枋
桜
蘇枋
桜
蘇枋
脳の処理が追いつかない中、 俺は桜君のベット付近にある ナースコールを押した。 近づこうとした瞬間 一瞬桜君の目には 痛々しい何かが写り、 体がビクッと震えていた。 今の君は一体何時の君なのだろうか。 どれ程恐ろしい事があったのか。
君の恋人ながらも、 何も知らない自分が 初めて憎らしく思えた。 俺は桜君の 敵意と恐怖の混じる目を 優しく見つめ返した。
蘇枋
桜
蘇枋
怖がってないと言う割に 震える声と目。 桜君の視線は俺の顔をチラチラ見ては、 自分の視界に映っていたであろう オセロの様な髪の白い部分を 見たくないと言う様に 耳にかきあげた。
視線や行動から、 俺に見た目の事を何時言われるのか 気にしているのだろう。 恋人なんだから、 その見た目含め君のことが 大好きなのに。 そう記憶をなくした君に 軽々しく言えないこの状況に 喉が痛む様な感覚がした。
蘇枋
恋人。その部分を抜き取って 俺は君に愛を伝えた。 目をまんまると見開いた君の綺麗な 夕暮れ時の様な琥珀色の目と どこまでも深く通っている 黒煙の様な目が 俺を捉えて離さない。
桜
桜
少し怒ったような 悲しそうな声でそういう君に 胸が締め付けられた。 今すぐにでも君を抱き留めたい。 そう思う感情を 俺も心に締め留めた。
蘇枋
蘇枋
桜
桜
君に見放された様な 言葉はさらに俺の心臓を駆り立てた。 ドクドクと痛く鳴り響き、 かかないはずの汗は、 冷や汗として俺の腕を 伝って行った。
蘇枋
桜
桜
桜
蘇枋
「ね?お願い」 という願いを込め、 君の瞳をじっと見つめた。 最終的に根負けしたのか、 桜君はため息を付いて 何も言わなくなった。 窓の外にある 綺麗な空を見つめて、
今すぐにでも消え入りそうな君に 目を奪われている中、 病室の扉が開いた。 白衣を着た 医者がこちらに状況を 求めて来た。 俺は混乱する思考を 放置するよう、 今までに怒った出来事を 軽くお医者さんに話した。
真剣な顔で頷く医者は、 思い当たる節があるのか、 間をため、 俺に意を決して桜君の 病状を話した。 「もしかしたら、 記憶喪失かもしれません。」 「これから脳のレントゲンをとり、 桜さんの脳の状況を確認します。」 その言葉を聞き、 やっぱりか、 そう思った。
桜君は部屋を移動し、 検査をするとなると暴れだし 「俺は大丈夫だっ!!どこも悪くねぇ!!やめろっ!!」 等を述べていた。 さすがの暴れ具合で、 医者もナースも桜君を 止める術はなく、 困り果てた様に頭を捻っていた。
蘇枋
桜
桜
桜
背後から 両腕を押さえつけられた 桜君は暴れ様にも 激しく暴れる事は出来ず、 足をバタバタさせるくらいの 抵抗しか出来なくなっていた。 飛ばされた布団等を看護師さんが 丁寧に畳んでいる。
俺は医者の指示に従い、 桜君を別室へと運んで行った。
検査が終わった後、 明らかに不機嫌そうに 腕を組み、貧乏ゆすりを している桜君がいた。 その場にいた人達は 少し苦笑いをしていたと思う。 桜君と俺は隣に並んで座らされ、 医者がモニターに映し出す 脳のレントゲン写真を見ていた。
蘇枋
桜
蘇枋
医者が話し出すと さすがの桜君も 腕は組みつつも静かに 黙って話を聞いていた。 脳にこれといった損傷はないが、 記憶が1部失われている事。 多分失われている記憶は、 俺らと出会った記憶だろう。 風鈴の事は愚か、 この街も、俺らのことも 分からずにいるのだから。
薄々気付いていた状況が 話を聞いて行く内に 決定的な物となり、 話を深く聞いていく内に 脳内は真白へと なっていった。 隣の桜君の表情を見るも、 最初は驚いた顔をしていたものの、 直ぐに驚きでシャンとしていた 背筋を崩していた。
蘇枋
桜
蘇枋
桜
桜
記憶をなくしている そう言われれば、 大抵の人は混乱するだろう。 けれど君は、 混乱する所が、 それを受け入れていた。 俺とは全く違う姿勢で、 本当に桜君のことを かっこいいと思った。
記憶を無くした君は 確かに君だ。 けれど俺の知る君とは全くの別人 のようにすら思えてしまった。 俺の恋人になってくれた、 君とは違う気がしてならなかった。
桜
桜
蘇枋
蘇枋
桜
桜
蘇枋
蘇枋
蘇枋
桜
この会話をした瞬間 やっぱり桜君は桜君だ。 そう思った。 そう思った瞬間 俺の目を 淡い何かが潤ませたのは きっと誰にもバレていないだろう。
俺の心は 君の状態や 言葉で悲しさに埋めつくされていた。 その俺を笑顔にしたのも、 君の言動や 心なのだ。
どんな君でも 俺は君を愛してしまうのだろう。
コメント
9件
本当に仕方の無いことだと思うけど桜が蘇枋さんに対して切ない言葉や追い討ちをかけてしまってるのに蘇枋さんは感情に振り回されず大人な対応をしているのが凄いなあと思いました😭 それにしても行動に対して苦笑いされてる桜が可愛すぎて愛おしすぎる😹💞
桜と蘇枋さんが初めて会った時のやりとりが切なく見えてしまう……… 記憶喪失パロの中でこれが一番切なさ感じで好きです!