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死界

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死界

1 - 死界

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2018年09月17日

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どうでもよくなった

仕事も

人付き合いも

人生も

将来も

全部全部

どうでもよくなってしまった

でも死のうとは思わなかった

仕事帰りの古い私鉄列車に揺られながら

ただただ

ぼぉ…っと座席に座っていて

ふと我に返った時には

何故か名前も知らない駅で降りていた

無人の改札を出て

真っ暗な住宅街を歩いていく

真夏の暑い日差しもなく

気持ちのいい夜風が首筋をすぅ…っと抜けていく

街灯が不思議なほど少ない

住宅街なのにも関わらず

明かりの灯っている家がほとんど無くて

〝暗闇〟という言葉がよく似合う風景だ

そんなことを考えていると

すぐ背後になにかの気配を感じた

背中がぞわっとする

ゆっくりと後ろを振り向くと

3メートル程の身長のある

ガリガリの長髪の女性が立っていた

ビクビクと不規則に身体が震え

その黒目は私でなく

瞼の裏に入りそうなほど遥か上を向いていた

本能的に

関わったら〝殺される〟と感じた

手に持っていた鞄をそいつに向けて投げつけて

ただただ真っ直ぐに

出来るだけ全速力で走った

『めがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしい?????』

意味不明な言葉を連呼しながら追いかけてくる

逃げ切るために路地に入ろうとしたら

「あ…」

足がもつれて派手に転んだ

殺される

後ろをバッと振り向くと

女は消えていた

膝からはダラダラと血が流れている

傷口ら辺の砂を軽くぱぱっと落とし

よろよろと立ち上がった

人の気配もないし

空気も不気味だ

コンクリート塀に貼ってある看板には

〝みんなで××しよう!〟とデカデカと書かれた

たくさんの人が大きな木から首を吊っている絵が描かれていた

気味が悪くなって実家に電話したけど

圏外で繋がらない

ネットには何故か繋がった

でも全部文字化けしてて意味が分からなかった

諦めてまた歩き出す

5.6分歩いていると

踏切を挟んだ先に

田んぼが広がっているのが見えた

後にはさっきまでの住宅街

出来ればもう戻りたくない

『カーンカーンカーン』

警告音と共に遮断機が降りる

こんな時間に電車が?

左手の腕時計を見ると

時刻は0時0分丁度だった

ゴゴゴッ…と右側から来る電車の振動が伝わってくる

きっと遅延か何かで遅れたんだろう

と思っていると

向かい側の遮断機を越えて

セーラー服を着た女の子が線路に入ってくる

「危ないよ!!」

ゴスッ

鈍い音と共に女の子が電車に跳ねられた

「うそ…」

3両程の短い電車が通り過ぎたけど

女の子が〝また〟遮断機の向こう側にいた

そしてさっきと同じ様に遮断機を越えて線路に入ってくる

ゴスッ

電車が通り過ぎる

ゴスッ

通り過ぎる

ゴスッ

通り過ぎる

永遠と続く女の子の死

こんな光景

狂ってる

終わらない鈍い音を聞きながら

線路沿いに逸れて歩いて行く

あの音も聞こえなくなった頃

線路をまたぐ歩道橋を見つけた

それを渡り

田んぼの広がる地帯に出た

淡々と広がる田んぼ

じゃなかった

広く続く田んぼの真ん中に

明らかに異質なデパートが建っている

駐車場も街灯もなく

ただデパートの建物自体だけが不自然に建っていた

引き寄せられるように中に入っていく

こんな時間なのにやってるはずもないと思っていたけど

自動扉がウィーン…っと動いた

もちろん中は明かりひとつない

仕方なしにスマホのライトを付けた

ここに来てから初めてスマホが役立った気がする

入ってすぐ右に

このデパートの見取り図が貼ってあった

1階は食品売り場

2階は洋服売り場

3階はおもちゃ売り場

特に用は無かったけど

好奇心でまずは食品売り場を回って行く

果物も野菜もお惣菜も

全部黒く腐っていた

しかもここ最近傷み始めたという訳でなく

1~2年以上放置されていた様だ

酷い匂いに耐えられなくなって

2階の洋服売り場に向かうことにした

止まっているエスカレーターをコツコツと登って

レディースのコーナーに辿り着く

なんの変わりもない洋服売り場

右手のライトで照らしながら左手で服を見ていく

白いワンピースに目が止まった

そう言えば…こんなの今まで着たことなかったな

試着室に入って

着てみる

サイズもぴったり

私何やってるんだろう

でも感じは意外と悪くない

たぶん…

ワンピースを着たまま試着室を出て

3階に上がろうと洋服売り場を進んでいく

ゴンッ

「あ」

私の左側に立っていたマネキンを倒してしまう

パキンっていう音と共にマネキンの顔の一部が欠けた

一応戻しておく

欠けた左目の辺りを見てみると

色が変わってた

と言うよりも

肉が見えた

マネキンのプラスチックの裏側は

人間の筋肉の様だった

プラスチックの肌に赤黒い血がダラダラと流れ落ちる

ギョロっと肉の目が私を見つめ

突然ガタガタと震えだす

私はよろよろと走りながら3階に繋がるエスカレーターに向かった

3階は確かおもちゃ売り場

エスカレーターを登りきり

さっきのマネキンがついて来ていないか後ろを確認する

何もいないようで少し安心した

ここの階を調べたら帰ろう

なんでこんなにムキになって調べてるのか分からなかったけど

あの苦痛な日常に比べたらだいぶマシだ

懐かしいおもちゃの箱を眺めながら

楽しかった子供時代を思い出す

『お母さんアレ欲しい』

少し離れた所から男の子の声が聞こえる

『お母さんアレ欲しい』

同じ所から女の子の声が聞こえる

『お母さんアレ欲しい』

また同じ所から別の女の子の声が聞こえる

『お母さんアレ欲しいお母さんアレ欲しいお母さんアレ欲しいお母さんアレ欲しいお母さんアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイアレホシイ』

声の元に行ってみると

ひとつの身体に3〜6つの手足と頭が生えた小さな肉の塊が私を指差してた

『アレガホシイ』

『めがほしい?』

お母さんは住宅街で追いかけてきた3mの女だった

『めがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしい????????』

また私を追いかけてくる

走ってエスカレーターを降りようとしたけど

下の階が血のように真っ赤な水で沈んでた

残っているのは屋上への階段

行ったら追い詰められるのは分かってた

でも

あいつに殺されるくらいなら

自分から

殺風景な屋上に辿り着くと

落下防止フェンスを越える

『めがほしいめがほしいめがほしいめがほしいめがほしい?』

やるもんか

重力に身体を任せる

ああ

飛び降りってこんな感覚なんだ

死ぬ気はなかった

さっきまでは

でも

私は

私は

たぶん

生きる事にも

どうでも良くなってしまった

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