地球B 加奈子
加奈子
私たちは選ばれてここに連れてこられた。そう、あの人は言っていた。新しい地球を作るんだ、と。
加奈子
戦争も争いも殺人もない、世界。みんながみんなを慈しんで支え合う、理想の世界。
加奈子
地球はもうダメになる。人が人を殺し、傷つけ、環境を破壊し、生き物はどんどん絶滅し、いつか人も滅びるだろう。
加奈子
そう、言っていた。
加奈子
残してきた人たちの記憶がときに私を苦しめる。お父さん、お母さん、弟のたかし。元気にやっているだろうか。
加奈子
政府は新しい星を見つけた。私たち人間が生きられる新しい星。初めは悲しくて泣いてばかりいた。けれどここはとてもいい。
加奈子
誰かが誰かを殺したり、憎んだりしない。助け合って支え合って生きている。
加奈子
私はこの星に、選ばれた。
お母さんA
加奈子ちゃん、学校は楽しい?
加奈子
うん、お母さん、楽しいよ。
加奈子
ここで新しい家族もできた。戸惑いもたくさんあったけれど、もう慣れた。学校もあるし、映画館も公園もある。
加奈子
新しい友達もできたし、家族も優しい。懐かしくは思うけれど、やっぱり離れられてよかった。
加奈子
お父さんはお酒ばかり飲んで暴力を振るうし、お母さんは何も言ってくれない。たかしは、こそこそクラスメイトの悪口をノートに書きつけている。
加奈子
そのノートを見たときは本当に恐ろしかった。死ねとか、殺すとか、そんな言葉ばかりが並んでいた。
加奈子
かわいそうなたかし。置いてきてごめんね。でも、私はやっぱりここにくることに選ばれて、よかった。
加奈子
お母さん行ってきます。
お母さんA
いってらっしゃい、気をつけていくのよ
加奈子
はーい!
監視室 B
監視人B
橋本さん、様子はいかがですか?
橋本
はい、みんな穏やかに暮らしているようです。
橋本
正直、私はこのシステムに疑問を持っていた。優良人間移住システム。そんなことして、どうなる、と。まるで問題の解決になんてならないんじゃないか、と。
橋本
今は穏やかに見えるこの星だって、いつ争いが起きるかわからない。人間はそうやってここまで生きてきたのだから。
橋本
憎み妬み、それでも愛していくのが私たちのすることではないのか。それに憎しみだってすぐに芽を出す。
橋本
全てを摘み取るなんてきっと不可能だ。また、繰り返すに決まっている。私たちはロボットではないのだから。
橋本
感情とともに生きて、それは決して愛だけではないのだから。
橋本
けれど、この星を見ていて思う。もしかしてこのシステムは成功なんじゃないかと。誰もが人を慈しみ、愛し、支え合い生きているように思う。
橋本
いつか憎しみを抱くとしても、それはまだ仮定の中だけの話だ。それに抱いたとしても、争い以外の新しい解決法を、ここに生きる人たちは、見つけるのではないか、と。
研究室 B
研究者 B
いかがですか、この星の様子は。
山田博士
素晴らしい結果じゃないかね。まだこのシステムを導入して数年だが、争いなどほとんど起きていない。起きたとしても小さな小さなことだよ。
研究者 B
新しい星が見つかってから随分経ってしまいましたね。
山田博士
そうだね。私たちの祖先がずっと進めてきてくれたシステムだ、だめにするわけにはいかないよ。限られたごく一部の人間だけが関わり、作り上げたシステムだ。無駄にするわけにはいかない。
山田博士
争いなどない世界を、彼らはずっと望んでいた。
山田博士
この星が整うまで、何百年もかかったよ。そしてこのシステムが導入されるとき、自分が生きて携われたことを本当に誇りに思うよ。
山田博士
だが、すこし、恐くもある。
山田博士
やがてまた、人が人を殺すんじゃないかと。あってはいけないことだ。同じ生き物同士が殺しあうなんて、どんな理由があってもいけない。
山田博士
憎しみですら、それを抱えながら私たちは生きるべきなのだ。
山田博士
もしまた、争いが起きたとしても。
山田博士
新しい星の整備はどんどん進んでいる。
山田博士
秘密裏に。
山田博士
人間の科学の進歩は、みんなが思っているより、はるかに進んでいるのだ。
山田博士
一握りの人間しか知らないこのシステムの続き。
このシステムは続くのだ。
人間が争う限り
ずっと、
ずっと。
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