昼過ぎくらい。 暖かな太陽の光が 顔に差し込み、 眩しくて目が覚めた。 初めに目に入った光景は 知らない真っ白な天井に 知らない男が 泣き出しそうな顔で 俺を見ていた。
眼帯を付け、 長く鬱陶しそうな ピアスを付け、 妙な雰囲気を放つこの男は すぐに表情を変え、 胡散臭い笑顔を放っていた。
何を話すかと思えば、 何ともなかったかの様な 口調で、 衣類や、俺が眠ってる間の 数日間の話をしていた。 何が何だか分からなくて、 ついていけない自分に苛立ちを おぼえ、 優しい笑を浮かべて笑う 男に八つ当たりがてら 言葉を放った。
桜
その1つの言葉で、 酷く傷ついた様な 顔をした男は、 どこから焦りながらも 俺と会話を試みようとしてきた。 医者を呼ぼう等と言ってきたが、 俺には必要がないと 断った。 それでも心配そうな顔をした男は 後に引こうとしなかった。
俺と眼帯男の距離は 遠く空いていたが、 その距離が眼帯男の 足によって急に近ずいた。 あまりに近くに来るので、 何か言われる、 攻撃されると本能が察知し、 思わずギュッと目をつぶった。
蘇枋
酷く優しい声に、 開きそうになった心を 胸を握り無理やり閉ざした。 絶対皆、俺から離れていくんだ。 そう思っているからだ。 最初から期待なんてした所で 無駄なのだろう。
桜
蘇枋
優しい笑を掛けてくれる男に どこか絆されそうになってしまい、 「出ていけ」 と再び声にした。 どれほど言っても 出ていこうとはせず、 此処にお願いだから居させてくれと そう真剣な眼差しを向けてきた。
最終的に俺が根負けして、 黙って外を見つめる事にした。 窓の外を見ながら考える事は、 眼帯をつけた妙な男と 寝て起きたら 急にこんな場所に 居たという事。
親に姿を見たくないと言われ 入れられた暗く薄暗い 押し入れの中で 丸まりながら、 寒さを凌いで寝ていたはずなのに、 目が覚めれば、 見たこともない白い天井が 広がっていて、 全く知らない男が立っていて……
俺の頭は混乱で満ち溢れていた。 眼帯男は、 俺の髪と目を綺麗だと言った。 俺のよく知る人物達は、 俺の髪と目は悪魔の様だと言った。 この言葉がさらに俺の頭を 混乱させた。
時間は待ってはくれないと、 俺の頭の整理が付く前に、 病室の扉が遠慮がちに空いた。 そこから数分。 行きたくないと 暴れる俺を やれやれと眼帯男が 背後に回ってホールドした。
離せと手足をバタバタさせてみるが、 細身な割にがっちりと 力が入っている腕は、 簡単には解けなくて、 俺は無理やり検査室へと 連れていかれた。
結果を黙って聞いていれば、 きおくそうしつ? とか言う症状らしい。 簡単に言えば 俺の記憶が1部ない 状態らしい。 この話を聞いて、 妙に納得できた。
眼帯男は 深刻そうな顔をしていたが、 記憶がなくても 困ることは無いだろう。 今迄の生活が 変わることは無いだろうと、 長年の経験から判断した俺は、 どうでもいい話だと結論付けた。
病院を退院するや否や、 眼帯男は俺の住んでいたらしい 家を案内するべく、 俺の記憶が戻るまでの 暫くは 此処に止まると言いはった。 敷布団は1つしかないらしく、 俺は玄関前にでも寝ようとしたが、 引き摺られ、 無理やり狭い布団の中で 一緒に寝た。
その時初めて、 喧嘩以外で人の温もりを 感じた様な気がした。 その日の夜は、 溺れる様に眠り、 眼帯男…… 蘇枋隼飛に起こされるまで、 自分から目を覚ますことは無かった。
桜
蘇枋
俺の隣を ポケットに手を突っ込みながら 不服そうに歩く 桜君を見た。 あの朝の騒動から 時を重ね、 今は放課後の見回りの時間と なっていた。
多聞衆で関わる皆さんに、 軽く事の経緯を説明した。 桜君の状態を知る 周りの人達の視線は、 ちらちらと桜君を 気にしている様だった。 もちろん敵意等ではなく、 心配の眼差しでだ。
桜
桜
蘇枋
桜君がわかりやすい様 軽く説明をするが、 それでも顔を傾げる君は とても可愛く思えた。 町の人たちが助けを求めると 先に先輩方や、 俺ら以外の 人達が走って駆けつけていった。
桜君は、まだ顔を傾げたままだった。 どうしてそこまでして 助けようとするのか、 信じられないとでも言う顔だった。
蘇枋
桜
桜
桜
そう言い、 下を向く桜君の顔は、 少し曇って見えた。 君の過去に触れる度、 俺の心はずきりと痛み 顔をゆがめた。
俺の表情に 桜君は心配して声を掛けてきた。 大丈夫だと笑って見せたが、 その顔はまだ心配げだ。
蘇枋
桜
蘇枋
蘇枋
それでもその場を固く 動こうとしない桜君の腕を、 俺は無理やり引っ張り 商店街の手伝いへと走った。 驚きながらも 素直に俺に着いてくるのを 見るところ、 人と関わりたいというのが 伝わってきて、 俺の心臓をぎゅっとさせた。
蘇枋
桜
桜
蘇枋
桜
蘇枋
桜
少し頬を赤くしながらも 自分の事より 俺のことを心配した桜君。 どこまでも愛おしく感じてしまうのは、 俺が彼にはまってしまったから なのだろうか。
蘇枋
桜
蘇枋
蘇枋
桜
蘇枋
蘇枋
蘇枋
幸せすぎて、 と言うべきだろうか。 いや、きっとこの言葉は、 今の君には似合わないだろう。 桜君の年齢を聞いて、 今の少し幼さを感じる雰囲気に 納得しながらも、 俺は自分の言葉を飲み込んだ。
蘇枋
蘇枋
桜
渋々了承してくれた 桜君の顔は、 眉を下げて地面を見ていたが、 美味しいご飯が食べられると聞き、 少しワクワクした様だった。
そんな君も俺は好きだよ。 その言葉は決して口から出さず、 俺の心の奥に蓋をした。
コメント
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これ実際になったら,かなり寂しくなりますよね...すおちゃんが色々我慢して桜くんの記憶を取り戻すようにゆっくりしてくれているの尊過ぎますね...😭
目から海水出てきました😭塩っぱいです(?)
少し幼めの桜が背負った切なさを知るたびに蘇枋さんは優しい人だってこと改めて知らされてる感じがして、本当に切なくいい話です!投稿ありがとうございます!