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体育館には、キュッキュッとシューズと床のこすれる音が響く。
コートの中では、選手たちが機敏に動き回っている。
もちろん、わたしが視線を送る松村先輩も。
わたし
分かりきったことだけど、つい言葉に出てしまう。
すると、目で追っていた松村先輩がゴールに近づき、見事なシュートを決めた。
わたし
ギャラリーからも歓声と拍手が溢れる。
それもそのはず、彼はバスケ部のエース。 上手くないわけがない。
そして、惚れる人がいないわけもない。
友人
友人
マネージャーやほかの女子は、彼のことを「ほっくん」と呼ぶ。
わたしは恐れ多くて、そんな呼び方できないけど。
必死で追いかけているうちに、あっという間に試合が終わった。
松村先輩は、少し照れたようにはにかみながらコートを去る。 観客に向かって片手を上げると、また黄色い声援があがった。
わたし
羨望と諦め、そんなのが交じってため息となった。
誰にも聞いてもらえない吐息に。
今日の練習も終わりの時間。
コートに散らばったボールを集めていると、どこからか松村先輩がやってきた。
取ろうとしていたボールを片手で取り上げ、そのままカートの中にシュートした。
わたし
北斗
小さく笑いながら、ほかのボールも片付けようとするので慌てて止める。
わたし
わたし
北斗
わたし
松村先輩はまたふっと笑う。
北斗
北斗
北斗
無理すんなよ、と片手を上げて控室に戻っていった。
わたし
きっと彼には、天は二物も三物も与えたんだろう。
わたしがやっていることなんて、マネージャーとして当たり前のこと。 それを彼はわざわざ褒めてくれた。
足元の数メートル先にも及ばないな、とため息がこぼれた。
今日の体育館は、いつにもまして賑わっている。
他校との練習試合があるからだ。
そして……松村先輩のファンも多い。
友人
友人
ありえない、とばかりに顔を両手で覆っている。
どうやら、他校のギャラリーも彼が話題になっているらしい。
わたし
実際、シュートはほぼ彼に許している。
わたし
得点板と先輩の間で視線を動かす。
そしてゲームの終了を告げるブザーが鳴り、もちろんこっちの学校の勝利で、松村先輩は爽やかな笑顔で立ち去る。
お決まりの、というか見慣れた光景。
先輩の好プレーで盛り上がる女子たちを尻目に、片付けの準備に入った。
練習試合があったから、いつもより帰る時間が遅くなった。
鞄を持ち、暗くなった体育館を抜ける。
すると、バスケットボールが跳ねる音がした。
わたし
わたし
北斗
北斗
その質問がまさか自分に向けられていると思わなくて、数秒間フリーズする。
わたし
松村先輩はドリブルをやめ、指の上でくるくるとボールを回し始めた。
わたし
北斗
北斗
その言葉に、わたしはただうなずく。
北斗
北斗
わたし
北斗
北斗
そう言って松村先輩は、持っていたボールをこちらに投げた。
そのアーチは綺麗な弧を描いて、慌てて前に出した腕の中にすっぽりと収まる。
北斗
驚きで声が出ない。
北斗
投げて、と言うように片手をくいっと動かす。
いつも見ている先輩のフォームと同じように、パスをしてみた。
北斗
受け取った彼は、首を振る。
わたし
北斗
またボールを投げ、返答を待っているようだ。
わたし
好きです、と言って投げ返した。
北斗
暗がりのなかの端正な顔を直視できなくて、うつむく。
松村先輩がこちらに向かって歩いてくる。
わたし
わたし
挙げればキリがない。それを遮られた。
北斗
いつの間にか目の前まで歩み寄っていて、心拍数が急激に上がる。
北斗
彼の手が、頬に触れた。
無意識のうちに涙していることなんてあるんだ、と思った。
北斗
もう、自分でも感情がよくわからない。
気づけば、顔は先輩の胸に埋まっていた。
北斗
彼はたぶん笑っている。
わたし
わたし
北斗
心の声に重なるように、低音の声がした。
北斗
わたし
北斗
そんなのずるいです、と彼のしっかりした身体を抱きしめた。
わたしたちの恋は、今ティップ・オフしたばかり――。
終わり