誰も知らない場所

おれが「待って」って言っていいのか

おれが…ユウを奪ったのに

イオリは海の中へ歩いていく

さっきの浅瀬より段々と深いところへ

止まった…

段々イオリの背が小さくなっていく

行かないでｯ….

行かないでよ

おれは

遠のいていくその背中を

手を伸ばしながら

追いかけた

イオリよりも背が小さいおれは

足がギリギリのところで

その手が届いた

大きくて

濡れて冷たいその背を

そのまま抱きしめていた

俺の背中に

俺よりも小さい体のやつがしがみついてきた

若干手は震えてて

すぐに払えそうな力だった

さっきより強めになったけど

それでも俺には小さい力だった

なんでこんなに離してくれないんだろ…笑

なんか言ってる…

振り向くと

今までに見たことないくらい

目を腫らしているカヤがいた

笑ってるけど

その顔は

涙が溢れているままだった

それさっきも聞いた…

…カヤって

こんなこどもみたいに泣くんだっけ

…そうか

わかったよ、ユウ。

そりゃあ

こんな奴見たら

生きてほしいって思うわ

…こいつだけはって。

背中を向けていたイオリが

振り返って

俺のほうを向いた

急に抱きしめられた

今までで1番強かった

ドンっ