誠
梓ーお待たせ
梓
あ、来た!
ずいぶんゆっくり入ってたね〜
のぼせてない?お水飲む?
ずいぶんゆっくり入ってたね〜
のぼせてない?お水飲む?
誠
ありがとう、少し考え事しちゃってた。
浴室から出てきた彼に ペットボトルの水を手渡す。
私は飲みかけのジュースをテーブルに 置き、定位置である椅子に腰を下ろす。
彼もそのまま水を一口飲んでから、また いつもの定位置である席に座った。
先に口を開いたのは彼だった。
誠
…ねぇ、梓。
別れ話じゃない…よね?
別れ話じゃない…よね?
やはり勘違いをしていたようだ。
不安げな彼の頬をむにっと片手でつまむ。
梓
そんな訳ないでしょ!
私、誠くんとずっと一緒にいたいと
思ってるんだよ。
私、誠くんとずっと一緒にいたいと
思ってるんだよ。
誠
良かった…!
心底安心したように息を吐く姿に、思わず笑ってしまう。
梓
もー、心配性だなぁ〜
彼も釣られて笑っている。
これから大事な話をするというのに、彼といるといつもこうだ。 泣きそうだろうが怒っていようが、いつの間にか和やかな空気になってしまう。
こういうところが好きだなぁと 改めて感じた。
誠
誠
…あれ、じゃあ話したいことって…?
首を傾げる彼に、私は精一杯の 落ち着いた声で話した。
梓
…私のこの
梓
梓
「頭部にある物体」
彼が息を呑むのが分かった。
梓
誠くん、何だと思う?
誠
え…被りものかなって…。
日によって、形が違ったりするけど
気分で変えてるのかなって思ってた…。
日によって、形が違ったりするけど
気分で変えてるのかなって思ってた…。
慎重に言葉を選んでくれているのが 分かる。
どこまでも優しい 彼だから、私は大丈夫だ。
梓
…今日は私、どんな被り物してる?
誠
…?
誠
いつも通り白くて無機質だけど、今日は楕円形だよ。
彼は初めて聞かれた質問の意図が 分からずに困惑しているようだ。
梓
そっか…
私は自分の「顔」を触った。
今日の私は楕円形なのか。 いつも自分の頭部の形など、彼に 確認したことは無かった。
梓
梓
…誠くん、私ね
確認する必要がないのだ。
梓
梓
初めから被り物なんて一度もしてないの
だって私は、彼に出会った当初から 何も被ってなどいないのだから。