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2010年9月30日
私達があすみさんを救出してから約一ヶ月
あすみさんは母、かすみさんから身体的虐待
兄、静(じん)さんから身体的かつ性的虐待を受け
全身を殴打されナイフで切り付けられた
ナイフによる切り傷は化膿して感染症を引き起こし
執拗に殴打された両腕と両足は酷く腫れ上がった状態で
冷房機もないあの部屋に放置され
熱中症でかなり危険な状態になっていた
この約一ヶ月の間
ほぼ毎日、優真さんはあすみさんに付き添い
彼女の手を握り彼女の回復を祈り続けた
少しずつ回復して会話ができるようになると
あすみさんは何度も優真さんを求め
井川あすみ
井川あすみ
そう訴え続けていた
最初のきっかけは拉致と言う特殊なものだったが
優真さんのマンションで二人は愛を育み
心の底からお互いを求め愛し合った
あれから約一ヶ月が経過し
今日、あすみさんは一般病棟に移る
降りしきる雨の中
優真さんは病院へ行きあすみさんに寄り添っていた
看護士A
三名の看護士がやってきて
あすみさんのベッドの移動を開始する
優真さんは手を握ったまま一緒に歩き
そのまま大きなエレベーターに乗り込んだ
この日は梶原さんと一緒に優真さんに同行していて
私達は別のエレベーターで一般病棟へと向かった
あすみさんが移動した先は六人の大部屋で
既に三人の患者さんが入院していた
同部屋になる患者さん達もニュースを見ていたらしく
最初は驚いた顔をしていたが
しばらくして落ち着いたのか
軽く挨拶を交わした後は何もなく
視線を向けられることもなくなった
ベッドの移動が完全に終わると
新しく担当になる医師が来て今後の説明を始める
あすみさんはこれから
リハビリをしながら経口での栄養を接種する訓練を行う
約一ヶ月間
寝たきりの状態だったあすみさんにはきついかもしれないが
きちんとリハビリをすればまた歩けるようになるし
好きなものを食べることだってできるようになるのだ
本当はそのリハビリにも優真さんは付き添いたかったはずだが
そんな気持ちを圧し殺してあすみさんに語りかける
三村優真
三村優真
三村優真
本当はそばにいて欲しい
病院のスタッフではなく
優真さんにそばにいて助けて欲しい
あすみさんも優真さんと同じ気持ちでいるはずなのだが
井川あすみ
井川あすみ
優真さんを引き留めるような言葉を口にすることはなかった
でも端で見ていてもわかるくらい
二人はお互いを強く想い
愛しているように思えた
医師や看護師もいなくなり
カーテンを閉めてしまえば
誰の目にも触れることはない二人だけの空間
しばらくの間、二人だけで話せるように
私と梶原さんは病室の前で待つことにした
他の患者さんのことも気遣い
優真さんは静かに寄り添い続けたが
面会終了時刻が迫り
梶原智香
梶原さんが声をかけると
あすみさんが優真さんの手を掴んだ
井川あすみ
あすみさんの言葉に優真さんは頷き
そっと彼女を抱きしめた
優真さんの瞳から大粒の涙が溢れる
井川あすみ
井川あすみ
あすみさんの頭を優しく撫でて
優真さんは病院を後にした