テラーノベル
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冬になると学校は急に広く感じる
部活の声が消えた校庭
放課後でも明かりの消えた教室
廊下を歩く足音が必要以上に反響する
三年生だけが残った校舎は 「終わり」を隠そうともしなかった
美術部の最後の日
なつは自分のエプロンを畳む手を 何度も止めていた
暇72
冗談みたいに言う
でもその声は少し掠れていた
すち
俺が言うとなつは小さく笑った
暇72
エプロンを鞄にしまい空いたイーゼルを見る
そこにはもう何もない
暇72
なつがぽつりと言う
暇72
すち
暇72
暇72
泣くとか寂しくなるとか
でもなつはどれも言わなかった
言わないまま全部飲み込む癖がある
俺はそれを強さだと思っていた
廊下でいるまとみことに会った
いるま
いるまが聞く
すち
いるま
短い言葉
でもちゃんと区切りがある
みことがなつを見る
みこと
暇72
みこと
なつは即座に首を振る
暇72
みことはそれ以上言わなかった
優しさは時々踏み込まない形を取る
軽音の部室
らんは最後のライブ映像をスマホで見ていた
雨乃こさめ
こさめが聞く
LAN
即答だった
こさめが横で笑う
雨乃こさめ
LAN
雨乃こさめ
こさめは少し真面目な声になる
雨乃こさめ
らんは黙ったあと小さく頷いた
未練があるほど向き合った時間
俺となつにはそれがあるのか
冬が深まるにつれてなつは 少しずつ変わっていった
遅刻はしない
課題も出す
笑うし話す
ただ一人になると急に力が抜ける
放課後の教室
なつは机に突っ伏していた
すち
暇72
すち
暇72
声が低い
俺は自然にその背中を撫でていた
暇72
暇72
少し間が空く
暇72
胸が嫌な音を立てた
暇72
すち
暇72
なつは顔を上げない
暇72
それはなつの本音でもあり 俺の逃げ道でもあった
すち
俺はそう答えた
その瞬間なつの肩からほんの少し力が抜けた
安心したんだ
でもその安心はどこか危うかった
帰り道
空気が冷たく息が白い
なつは歩くのが遅い
すち
俺が言うとなつは笑う
暇72
すち
暇72
そう言って少し前を歩く
その背中を見て胸が痛んだ
心配してるのはなつのため
でも踏み込まないのは俺のため
ある日みことが俺に言った
みこと
みこと
すち
みこと
みことは首を振る
みこと
その言葉が頭から離れなかった
冬の終わり
卒業まで指で数えられる日数
皆、次の場所の話をしている
俺となつだけが今の場所に留まっている
でも、もう分かっていた
この距離は守るものじゃない
閉じ込めるものだ
次になつが何か言いかけたら
次に俺が迷ったら
その時はちゃんと踏み出す
そう決めた冬だった
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