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2026年
一月十七日
土曜日
午前六時四十六分
ぼく
ぼくはこれまでの人生十四年、およそこのような体験をしたことがない
一目でそうと理解した
否、そう錯覚した。
これは───
犯罪だ
ぼく
ぼくは自然、周りに注意を払う。
焦りか、興奮か。 しばらくの記憶が飛んでいた。
ぼく
ここは埼玉県、上尾市の杉並公園。
同、園内の不衛生な公衆便所。
入った理由は、単にもよおしていたからだ。
ただ、思いの外というか、便所の内というか………まあ、室内はやたらと汚い。
特に床。なんだかよくわからないヌメヌメのデロデロがこびりついている。
着ていたベンチコートが汚れることにためらいがないのなら、物を置くスペースはそれなりにあったが………ぼくには多少なりとも衛生観念があったため、目についたオムツ交換台に置くことにした。
台を下げきったところで、見つけた。
それらはおよそ、捨てられたものだろう。
一つはピザポテトの空袋。
もう一つは、財布。
ぼく
財布はピザポテトの袋の中に入っていて、隠す意図があったものと見える
オマケにオムツ交換台に挟むなど、もはや二重隠蔽構造のそれだ。
ぼく
これは直感だ。
───しかし、その直感………もとい、仮説に基づく好奇心が、ぼくの倫理的概念を置き去りにしていた。
ぼくは躊躇した末に、財布に触れる
ぼく
冬の寒い時期だったから、手袋は携帯していたが、そもそも用を足すためにトイレに入ったのだ。 手袋は脱いでいた。
おかげでもう、手の感覚が鈍ってきている。
ぼく
凍えに震える手に手袋をはめる。
………ぼくの手袋は指の先に穴を開けてあるタイプだったから、指紋を回避する上では、特に着けた意味はなかった。
ぼく
再び手袋を脱ぎ、今度はハンカチのようにして使う。
思いの外使いやすく、器用な手付きでピザポテトから財布を抜き取る。
ぼく
ぼく
ぼく
泥棒の気分だった。
しかし、"空の財布"を"空の袋"に隠しているとなると───
ぼく
口元に手を当て、自覚する。
ぼく
そうだ、平常心。好奇心を抑制しろ。
ぼくには関係ない。ぼくには関係ない。
俯瞰して見るんだ。ぼくだけじゃなく、状況を客観的に見ろ。
指差し確認。
まず目の前に、 財布。ピザポテト(空袋)。レシート。
それがあったら、まずどうする?
もちろん、ピザポテトをゴミ箱に捨て、レシートを財布に閉まった後に、近所の交番に届け───
ぼく
もちろん、財布の中にはなにも入っていない。
オムツ交換台の隙間に、レシートが二つに折って置いてある。
財布の中にではなく、わざわざ外に。
ぼく
"触るか………?"
躊躇の思考は、ただそれだけだった。
今振り返ると、ぼくはこのときすでに《交番に届ける》なんて発想は、二の次になっていたのだと思う。
ぼく
ぼくは手袋(ハンカチ)をポケットにしまい、素肌でレシートに触れる。
ぼく
指先の感覚はもうすでになくなっていたから、どのくらい冷たいかはわからなかった。
確かに触っているのに、触った感じがしない。
ぼく
ぼくは口に出しながら同じように手を動かす。
見ると、このレシートは《ホテル 蓮華の寿》という施設で発行されたもののようだ。
ぼく
───不思議だ。
発行日時、発行場所、購入履歴───
レシートの詳細を確認するに当たって、まず真っ先に確認すべき項目を、ぼくは後回しにしていた。
手袋を置き、スマホを操作する。
ぼく
目を疑い、再びレシートを持ち上げ、確認する。
──そこでようやく、ぼくはレシートの全容を把握した。
それはまるで、何日もの間放置されていたかのような ひどく綺麗で、そして──
生活感のないレシートだった。
第一話 発見と発覚とその発祥について
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