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桜がパラパラと咲いてきており、卒園式に相応しい景色が幼稚園を囲っている

朝8時、園児達が登園するには少し早い時間

静まり返った園庭を、ひとりの女性が見つめていた

園長であり、担任でもある──すうあだ

すうあは園舎の前で小さく息を吸い、淡く微笑んだ

吹雨希 すうあ

今年もこの季節がやってきましたね…

吹雨希 すうあ

早いものです

風がやさしく吹き抜け、すうあの髪がふわりと揺れる

桜の枝がかすかに揺れ、ひとひら、ふたひらと花びらが地面に舞い落ちた

吹雨希 すうあ

そろそろ、準備を始めましょうか

小さく呟くと、すうあは教室の扉を開けた

3月23日、金曜日

Ep.39 先輩とさようなら

教室の中は──春そのものだった

壁いっぱいに連なる輪っかの鎖が、朝日を受けてきらきらと輝いている

窓には桜の花びらが、まるで舞い散るように貼りつけられていて

見上げるだけで心がふんわりと温かくなる

机の上には、年中組の子どもたちが作った色とりどりの折り紙が並んでいた

花が作ったカラフルなお花

來が折った、節分の名残を思わせる“鬼のツノ”

祐希の青いヘビは、ところどころ形が歪で、リボンにもゴミにも見えるけれど──

すうあには、それが一生懸命折った証のように思えた

絋のオレンジ色の帽子は少し傾いていて

将風と一緒に折った白い鶴は、折り目が少しゆるやかだった

どれも、まっすぐな気持ちで作られたもの

それが集まると、教室は本当に華やかで──

まるで、子どもたちの笑顔そのもののようだった

吹雨希 すうあ

……まるで、春そのものが集まったみたいですね

彼女は優しく微笑みながら、机の上の一枚の鶴を指でそっと整えた

教室の時計が、九時を少し過ぎたころ

教室では、子どもたちの明るい声が響いている

四宮 祐希

かざりよし!

四宮 祐希

おてがみよし!

四宮 祐希

プレゼントよしっす!!

小さな体で指さし確認をしているのは祐希だ

その声に、花や來、絋も「よーし!」と両手を挙げる

みんなの顔は、これから始まる“特別な時間”への期待でいっぱいだった

吹雨希 すうあ

では、そろそろ年長さんが来ますよ

吹雨希 すうあ

皆さん、準備はいいですか?

清本 來

はーい!!

四宮 祐希

はーいっすー!

すうあが微笑みながらドアの方を見ると

ちょうど廊下から年長組の姿が見えてきた

知花 凜叶

うわぁ〜!なにこれ!

知花 凜音

すごい!おはながいっぱい〜!

守森 四葉

か、かわいい……

王城 姫恋

……ここ、いつもよりキラキラしてる

貴島 乱兎

……みんなでつくったのか

教室を見渡した年長組の5人は、目を輝かせて立ち尽くした

壁にかけられた輪っかの鎖は風に揺れ

窓の花びらは陽の光を受けてきらきらと光る

その下には、年中組の子どもたちが誇らしげに並んでいた

四宮 祐希

えへへ、びっくりしたっすか!

知花 凜叶

うん!すっごいびっくりした〜!

鏡狂 花

これね!わたしたちがつくったの!

清本 來

おりがみもいっぱいおったよ!

松澤 絋

おれのぼうしもあるんだー!

王城 姫恋

ぼうし…?

吹雨希 すうあ

ふふっ、いろんな形がありますからね

年長組が笑い、年中組が嬉しそうに笑い返す

それだけで、教室の空気が一気に柔らかくなった

すうあは手を合わせ、静かに声をかける

吹雨希 すうあ

それでは──これから、お別れ会を始めます

知花 凜音

はーい!

知花 凜叶

はーい!!

四宮 祐希

はーいっす!

年長組が中央に並び、年中組がその前に立つ

すうあはみんなを見渡しながら、穏やかに続けた

吹雨希 すうあ

今日は、年中さんから年長さんへ

吹雨希 すうあ

これまでありがとうの気持ちを伝えるための会です

清本 來

ありがとうのかい!

吹雨希 すうあ

そうです!

吹雨希 すうあ

いっしょにあそんでくれてありがとう

吹雨希 すうあ

いろんなことを教えてくれてありがとう

吹雨希 すうあ

そんな気持ちを込めた会です

知花 凜音

……えへへ、うれしいな

守森 四葉

でもなんか、ちょっとはずかしいね

知花 凜叶

……でも、いいね!

吹雨希 すうあ

ふふ、みんな、気持ちをこめて準備してくれたんですよ

吹雨希 すうあ

それでは、まずはお手紙の時間です

その言葉に、年中組が一斉に背筋を伸ばす

それぞれが胸の前に大事そうに抱えた手紙を持ち

顔を見合わせてうなずいた

春の風が窓からそっと吹き込み

花びらが一枚、ゆっくりと机の上に落ちる──

お別れの会は、あたたかな空気の中で始まった

吹雨希 すうあ

それでは、一人ずつ順番に、お手紙を渡しましょうね

吹雨希 すうあ

自分の気持ちを、しっかり伝えるんですよ

その声に、子どもたちは緊張したようにこくりと頷いた

最初に前に出たのは、花だった

鏡狂 花

りんねちゃん!

花は両手で大事に持った封筒を差し出す

封筒にはピンクや黄色の花が描かれ、まるで春を詰め込んだように明るい

知花 凜音

わぁ、かわいいおてがみ……

鏡狂 花

いつもいっしょにあそんでくれて、ありがとう!

鏡狂 花

だいすきだよ!

知花 凜音

……わたしもだいすき

凜音はふんわりと笑い、花の頭を優しく撫でた

花は照れたように「えへへ」と笑って戻っていく

次に立ったのは、絋

少し緊張した面持ちで、凜叶の前に立った

松澤 絋

りんかちゃん、これ!

知花 凜叶

ありがと!

松澤 絋

おれ、りんかちゃんのえ、すきだった!

知花 凜叶

え、ほんと?!

松澤 絋

うん!すっごいじょうずだった!

知花 凜叶

うれしい〜!ありがとね!

絋の顔がほころび、ふたりは顔を見合わせて笑った

次に出てきたのは、來

彼女は折り紙の花の飾りがついたお手紙を、両手でしっかり持っていた

清本 來

ひれんちゃん!

王城 姫恋

……わ、わたし?

清本 來

うん!いつもおはなししてくれてありがとう!

清本 來

やさしいひれんちゃん、だいすき!

王城 姫恋

……わたしも、らいちゃんすき

姫恋は少し照れたように目を伏せ、でも確かに笑っていた

その笑顔に、來の頬もふんわりと赤く染まる

次は祐希の番だった

手紙を片手に、元気いっぱいに四葉の前へ走っていく

四宮 祐希

よつばちゃん!これっすー!

守森 四葉

ありがと、ゆうきくん

四宮 祐希

“ともだち”ってかんじでかいたっす!

四宮 祐希

すごくむずかしかったっすけど、らいちゃんにおしえてもらったんす!

守森 四葉

ともだち……すごいね!

四宮 祐希

おれ、しょうがくせいみたいっすか?!

守森 四葉

ふふっ、なれるよ、きっと

四葉はそっと笑い、祐希の頭を軽くぽんぽんと叩いた

祐希は得意げに胸を張りながら、満足そうに席へ戻る

最後に立ち上がったのは、将風だった

小さな手で丁寧に折られた手紙を胸に抱きしめ、ゆっくりと乱兎の前へ歩いていく

古寺 将風

らんとくん

貴島 乱兎

……ん?

古寺 将風

これ、ぼくから

将風は少しうつむきながらも、まっすぐに手紙を差し出した

そこには、短く、けれど心のこもった文字が並んでいる

『おゆうぎかいをいっしょにやったとき、たのしかったね。 しょうがっこうがんばってね。』

乱兎は黙って手紙を見つめていた

やがてゆっくりと顔を上げ、静かに言った

貴島 乱兎

……ありがと

古寺 将風

うん

たったそれだけのやり取り

でもその間に流れる空気は、どこまでもやさしかった

ふたりの間に、確かに“想い”が通ったのだと、すうあは感じた

吹雨希 すうあ

……みんな、よく頑張りましたね

吹雨希 すうあ

どの言葉にも、心がこもっていましたよ

子どもたちが顔を見合わせ、少し照れくさそうに笑う

春の風がまたそっと吹き込み、机の上の花びらをやさしく揺らした

知花 凜叶

みんな……ありがとう!

凜叶は手紙を胸に抱きしめながら、ぱっと笑顔を見せた

その笑顔につられるように、凜音も静かに頷く

知花 凜音

すっごくうれしい!

知花 凜音

こんなにかわいいおてがみ、たからものにするね!

守森 四葉

うん……わたしも

四葉は少し目を細めながら、両手で祐希の手紙を大切に包み込んだ

王城 姫恋

……ありがとう、らいちゃん…うれしい

貴島 乱兎

……おれ、こういうの、なれてないけど……ありがとう!

その言葉は照れくさそうで、でも不器用な優しさがにじんでいた

将風はその一言に小さく笑い、ほんの少しだけ胸を張った

教室の空気は、あたたかな陽だまりのようにやわらかかった

窓から射す春の日差しが、飾り付けられた輪っかの鎖や折り紙を優しく照らし

まるで子どもたちの笑顔を包み込むようだった

知花 凜叶

みんなで、しゃしんとろ!

鏡狂 花

とるー!とるー!

四宮 祐希

おれ、まんなかっす!

清本 來

わたしもー!

松澤 絋

ならおれはとなりー!

吹雨希 すうあ

ふふっ、では、私が撮りますね

すうあがカメラを構え、みんながぎゅっと寄り添う

年長も年中も、背の高さも笑顔の向きもばらばらだけれど──

その瞬間だけは、ひとつの輪のように見えた

カシャ

優しいシャッター音が響き、すうあはそっとカメラを下ろした

写真の中の子どもたちは、まるで春そのもののように輝いている──

四宮 祐希

せんせーさようならっすー!

知花 凜音

せんせーばいばーい!

吹雨希 すうあ

はい、さようなら

吹雨希 すうあ

……

すうあは帰っていく園児達を見送り、ポツリと呟く

吹雨希 すうあ

……また5人、卒園していくのですね

その呟きは、誰にも届かないほど小さかった

でも、そこには確かな想いがあった

吹雨希 すうあ

成長が嬉しいような、寂しいような……

吹雨希 すうあ

でも、みなさんなら、小学校でもきっと上手くやれますね

窓の外では、桜がひとひら、ふたひらと舞っていた

白い鶴の折り紙が、春風に揺れる

子どもたちの笑い声が響く中、すうあは静かに目を細めた

あたたかな光に包まれながら──

“さようなら”ではなく、“またね”を胸にしまって

恋を、感情を、教えてください〜第4幕 幼少期〜

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コメント

4

ユーザー

わーーーめっちゃ感動!! 子供の成長は、早いからな…😭

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