ユイ
ヒールを脱ぎ強ばった体を解すように肩を回す
2月のど真ん中
暖かいはずの都会で雪が降るぐらいに 外は冷えていて、思わず身体を 震わせる
コートにまとわりついた白い粒を なるべく払い落とし、 ダイニングの椅子へ放りかける
早く部屋着に着替えなきゃ、と 寝室へと急ぎ足で向かう
普段はある後ろ姿と声が無いことに 気づかないまま
ベットの軋む音
私じゃない、他の女の嬌声
ふたつの合った息遣い
目の前の1枚の板を除かなくても 分かる
ユイ
呆れたように呟いた言葉は 肌がぶつかる音にでも 掻き消されたのだろう
扉の前から離れお気に入りのソファに身を預けても絶えず音は聞こえてくる
夢中なこって
嫉妬の芽が生えた心に動かされて、 つけたテレビの音をうるさいぐらいに 大きくする
こういう時、妥協せずにそこそこする 家賃のとこを選んで良かったと思う
しばらくして、トントンと 肩をつつかれる
イオ
へらっと笑い適当に服を着た男は、 何事も無いかのようにおかえりと 言った
いつも通りの反応でもはや 何も思えない
女
お楽しみのところを邪魔されたのが 不服なのか
むくれた顔をした女がパーカー1枚で 耳を塞ぎながら部屋から出てくる
女
テレビの音量に負けないように 女が文句を垂れる
私にとったらあなたの声の方が うるさかったんですけど
ユイ
完全に修羅場なはずなのに 平然とした様子でリモコンを操作し
テレビの音量をうるさくない程度に 落とす彼を指差しながら言う
ぱちくりと目を瞬いた後に
女
女
と嘲笑うかのようにさえずる女
そりゃ可愛らしいあなたと比べたら パッとしないでしょうね
口に出さずとも 分かりきったことなのだろう
黙る私を一瞥し、小声で 彼に聞こえぬように囁く
女
女
体を離してニコッと笑う彼女を見て
立ち上がってキッチンへと足を運ぶ
何度か心当たりのある、この 胸の辺りに漂う黒いモヤ
最近はどうしても感情的になって しまうのが、嫌でしょうがない
引き出しを開け
金属音を僅かに鳴らせて
2本ほど手に持つ
ユイ
ユイ
なるべく不気味に写るように 笑顔を浮かべて
両手の包丁を見せびらかす
頭のおかしい奴だと思ったのか
彼女は逃げるように寝室に入り 着替えてそそくさと家を出ていった
ユイ
残念、と包丁を元に戻す
そのまま今日の夕飯を冷蔵庫に 入れる作業に入る
すると後ろから のしっと覆い被さるように 抱きついてくる彼
イオ
ほのかにするバラの香りで 眉をひそめる
ユイ
イオ
ユイ
イオ
不機嫌なのを感じ取ったのか 首筋に鼻を擦り寄せながら やり取りをしてくる
おかげでより一層バラを感じ 彼の体を突き放す
ユイ
イオ
ユイ
イオ
ユイ
へらへらと笑う彼につい 言葉が棘を纏っていく
ユイ
ユイ
ユイ
イオ
ユイ
何言ってんだこいつと思ったが
そういえば何言ってもやめないから 無駄だったなと考えることを放棄する
だけど
口は止まらずに言葉を零していった
ユイ
ユイ
ユイ
ユイ
ユイ
視界がかすみだして 雫が頬を伝う
自分が思っていた以上に ショックを受けていたみたいだと 初めて気付く
まあそりゃそうだろう
ここまで何度も浮気されて 傷つかない人がいるのだろうか
耐えた方だろう
驚き戸惑いながらもこちらへ 伸ばしてきた手を振り払い呟く
ユイ
ユイ
目を見開く彼を尻目に 寝室へ向かい
タンスから着替えを 何枚か引っ張り出して スーツケースに突っ込み
まだ湿ったコートを羽織って 玄関へ向かう
思い立ったが吉日
行動に起こさないと 何も進展しないのだ
ヒールを履いてドアノブに手をかける
と彼に腕を掴まれる
イオ
ユイ
ユイ
イオ
ユイ
イオ
困惑した様子を気にもとめずに 扉を開けて外に出る
後ろの震えた声に 気付かないふりをして
未だ降り続ける雪を纏った 街へと歩みを進めた
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
モンシロ楪
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